Prologue
第7話
p r o l o g u e
通っていた中学で、ある夏、ひとつの事件が起こった。
当時、絶対的な人気を校内で手にしていた宇佐美百花に、下衆な想いを懐いていた野郎数人。それらが共謀し、体育館裏で彼女を襲ったという、悲劇が。
詳細は伏せようとも、全国区のニュースになり話題になったその事件は、加害者全員が捕まったことで一旦の騒ぎが収まる。
けれど当然、被害者である彼女の周りのけたたましさは、止むことを知らなかった。
それでも彼女は強く、保健室登校という形で何とか外の世界と繋がっていた。
けれどとある放課後、彼女を支えていた幼なじみという男の言葉を聞いたことにより、翌日から彼女は本格的に学校にこれなくなった。
オレンジ色に染まる教室。
見つめる彼女。
立ち尽くす彼女。
閉まった扉の前。
壁の向こう側で、無邪気に紡がれる声。
次々と溢れる雫に濡れる頬。
動きもせず拭いもせず、無表情のままただ落ちていくだけの涙に、苦しくなった。
偶然、彼女の悲しみに居合わせただけ。
遠くから、静かにその横顔を見つめていただけ。
彼女のことは、気の毒だと単純に考えていただけ。
事件のことは、世間と同じよう眉間に皺を寄せただけ。
それだけだった、筈なのに。
初めて襲ったその感情は、入り口が分からずに戸惑った。けれどすぐ、彼女を想ってしまう理由の正体は姿を現す。
心配。
嫉妬。
焦燥。
恋慕。
彼女の涙を知った、瞬間。
俺の心は、完全に開かれた。
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