第20話

壁にある シンプルな時計から、日付が変わったことを知る。


古くなり明るさが落ちた電気の下で、ベットと1人用のソファーだけになった片付け終わりの部屋を眺めていたときだった。




――――。




「……は?」


常識知らずな訪問者により鳴らされた、アパートの入り口前にある呼び鈴が無機質な部屋中に木霊する。




「……かよ…お前、」


「入っていい?」


「……だめ。」


「なんで?」


「なんでも。」


「けち。」


「冗談だよ馬鹿。さっさと入れ。」





急いで玄関へ向かい扉を開ければ、スウェットにコートというおかしな服装で首を傾けるかよがいた。



言葉とは裏腹に傷ついた顔を隠しきれていない相手を軽く笑って、背中に腕をあてがい中へと誘導する。


誰かに目撃されていれば拙いだろうなと思いつつも、辺りに自分とかよ以外の気配など存在していないから大丈夫だと理解した。





「抜け出してきたのか?」


「うん」


「お前なぁ…もうしないってあれほど誓ったやつはいつ無効になったんだよ」


「さあ?」


「バレたらどうすんだよ」


「バレないよ。あそこの職員はみんな、自分の欲望と保身だけが大切なんだから。」


「………………」





9年前、抜け出せた施設を振り返ることもなく、新たな世界へと足を踏み出した。


2年前、奨学金を頼りに大学を出て取得した教員免許を盾に、また、この町に帰ってきた。



そのとき、近くに構えたこの住居に、施設を抜け出しやってきた15歳のかよには、出会った頃の面影など微塵もなかったことを思い出す。


連絡こそは取っていたものの、抜け出したきり合わず仕舞いにしてしまっていた、子どもを。





「……かよ、」


「なに」


「なんかあったのか?」


「ううん」


「本当に?」


「うん」





真っ直ぐに見つめてくる瞳に耐え切れず、かよに背中を向けベットに向かった。


黒一色で染められたシーツ、布団の上に腰掛け振り向くと同時に襲ってきた圧迫感に驚き、固まる。



現在の自分の状況を把握するまでに、何十秒という短そうで長い時間を有した。





「……かよ、離せ。」


「やだ。」


「やだ、って……」


「……絶対、やだ。」





立ったまま、ぎゅうぎゅう、と。締め付られる強さで抱きついてくるかよに、無抵抗のまま言葉だけで止めるよう促す。


したい行動が読めずに、珍しく困ってしまった。

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