第11話

夕日が沈み月の位置が高くなってきた頃、待ち望んだ相手の車が視界の先に現れた。




「うわー…なんか俺、疲れてるな…幻覚見えるわー」


「本物だけど」


「やべぇ。末期だな。とうとう幻聴まで「本物だって、かよだってば。てかさっき、日誌持ってったじゃん」


「分かって言ってんだよ。今すぐ家に帰れやくそ餓鬼。」


アパートの一室、扉の前で膝を抱え屈む私と目が合った瞬間、目頭を抑え項垂れる相手に現実を突きつける。


本日2回目の舌打ちを落とされながら立ち上がっても尚、背の高い相手を見上げた。




27歳とは思えない疲労が、相手の身体中に降り掛かっているのが分かる。




可哀想に。

辛いだろうに。

苦しいだろうに。

無理をして。

それでも、この男は、向き合ったに違いない。


自分の忌まわしい過去と、決別するために、戦ったのだ。

たった、ひとりぼっちで。




「じゃあ、送ってって。お願い。13回も思いきり腕をふり落としたから、そりゃあ、疲れてるだろうけど…大人しく、帰るから。送ってって。」


「…イカれてんな、かよ。」


「今巷で絶賛話題沸騰中の殺人鬼に言われても。」


「まあ…それもそうか。確かに。」


鼻で笑って、本日2回目となる、相手に現実を突きつけた。


二の腕を捕まれ車まで連れられ「後悔しても知らねえぞ」と吐き捨てるように言った相手の言葉に頷き、開けられた助手席に無言のまま乗り込む。




運転席に回りドアを開けシートに収まった相手と、車内という狭い空間、密室に2人きりになっても、恐怖を感じない私は、可笑しいのだろうか。


この男は、殺人という重い罪を犯したばかりの人間な筈なのに。

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