第4話

振り返った巧が、近くまでやってくる。さなからの不満を受けつつ顔を覗き込んできて、可笑しそうに目を細めた。




「我が彼女でも対処の方法は未だに分かっていない、と。」


「そうなの。我が幼なじみながら改善策は未だに見出だせていない、の。」


「…朝、嫌いだから。しょうがないじゃん。」





大袈裟に嘆き合う2人に自分の弱点をあげれば、納得したように頷いている。





「そこの3人、立ち話もそこそこに。遅刻になっても知らねえぞ。」


「え、まじ!?やべ!」


「巧くん、大変!私たちのクラス、1時間目に体育だよ!」


「いってらっしゃい。」


「かよ、また昼な!」


「かよごめん、先行くね!またお昼に!」





そして突然。


違和感なく割り込む第三者の指摘に慌てた様子の巧とさなは、意気揚々と校内に向かって走っていった。





「…教師のクセにやたらと豪快な嘘つくんですね」


「嘘じゃねーよ、ほら。」





やる気ゼロの据わった瞳。仕事なめるなよと上司から激を飛ばされても可笑しくはない、スラックスのポケットに片手を仕舞うというやさぐれた佇まいで。


着けてある黒くシンプルな腕時計を、目の前にかざしてくる男に顔をしかめる。




こんな男でも教師というお堅い肩書きを持っているのだから驚きだ。世の中は常に理不尽でふざけている。


まあ、そんな簡単な方程式なんて、随分と前から理解しているけれど。





「…相変わらず止まったままなんですね。時計。古いし。」


「うるっせえな。助けてやったんだから感謝しろ。丁度、朝のホームルームが始まる5分前の時間だから、わざと直さねえんだよ。こういうとき、役立つだろ?」





舌打ちを落とし、苛立ちを全面的に押し出してくる態度は初めて会ったその日から何ら変わらないため、もう慣れてしまった。


初めて会ったその日から止まったままだった相手の腕時計にも、もう慣れてしまった。





「助けた?」


「お前にポーカーフェイスは向いてねえんだよ」


「…うるさいな。」


「なんだとこら。俺のこと見つけた瞬間、体強張らせて力んでたくせに。分っかりやっすっ。」


「鬱陶し」


「おっ、とうとう反抗期か?」




眉間に皺を寄せる相手をスルーして、通り過ぎる。


背中で聞こえた愉しさを孕む笑い声に反応は返さないまま、その場を後にした。

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