第3話

「か~よっ!おはよっ!」


「わっ…」


「びっくり、」


「いや、そりゃするでしょ。」



かじかむ指先を折り曲げ自転車を押していれば、後ろから思いきり抱きついてきた“ダレカ”


満足気な浮かれ声に被さる勢いで非難を飛ばすも、相手の小柄な女の子は微塵も反省するつもりはないらしい。




「だって~かよ見たら抱きつきたくなっちゃうんだもーん」


「その理屈が分からない。」


「まあまあ、許してよ~幼なじみのヨシミで♡」



天性のものだと思われる絶妙な甘え癖は最早、毎朝の風物詩となっていた。


深い溜め息を吐き、暖を求め片手をブレザーのポケットに沈める。



2月に入ったばかりの通学路では、呆れと鬱憤は白い煙として形に残った。





「あ、かよの息、白く染まった!」


「…これ見たら、余計に寒さを実感するよね」


「あ、それ分かる~」



大抵の相槌は肯定と同感で返ってくる平和主義な彼女のそれに、小さく笑う。





「かよ、そんなにおかしかったの…って、あ!巧くんだ!」


普段から“かよは笑わなすぎ!もっと笑ってこ!”と、ぶーたれている彼女にとって私の笑顔は嬉しいものらしい。


それがどんな理由から生まれたものでも。



1学年に4クラスほどしかない高校、正門前に近付いてきた頃、興奮したように肩をばしばし叩いてくる行動に眉間を寄せるも、これまた彼女は気にしない。





「おーい!巧くーん!」


大きく手を振り名前を叫ぶ元気な行動に、外気に触れている手、触れていない手、どちらともに力が加わった。





「おお~!さなかよ~!」


「あはははっ!もぉ~!コンビ名みたいに呼ばないでっていつも言ってるじゃーん」


「ほんと」


「いいだろ別に。そんでまた、かよの低血圧っぷりは変わらないな~」

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