第四種 ひずんだ視線


 BGM「ジングル」STR


ツキノ:オートマティックロンド、第四種、ひずんだ視線


 BGM「ジングル」DWN


○道路


 ノゾミはアカツキに手を引かれている


ノゾミ:どこ行くの

アカツキ:マリナの病院です

ノゾミ:行きたくないって言ったでしょ

アカツキ:なぜでしょうか

ノゾミ:嫌なものは嫌なの!


 手を振り払うノゾミ


アカツキ:マスター。先日お会いしたドクター・チアキの伝言をお伝えします。「マリナはいつ息を引き取ってもおかしくない状態である」だそうです。……人は簡単に死んでしまう生き物です

ノゾミ:……知ってる

アカツキ:マリナがお嫌いですか?

ノゾミ:そんなわけないでしょ!

アカツキ:命を奪ったアンドロイドがマリナの命をつなぐことが受け入れられませんか

ノゾミ:分かってるわよ。アンドロイドが必要だってことくらい。子供のアタシには、ママの世話ができなかったことも!

アカツキ:「できない」と「しない」は異なります。いまのマスターはできないのではなく、していないだけです

ノゾミ:アンタになにが分かるの!

アカツキ:分かりません。ですから進言します。もうすぐ消える命の傍に駆けつけるべきだと

ノゾミ:……

アカツキ:行っても行かなくても後悔するのなら、行くべきです


 グランドゼロからチアキが出てくる


チアキ:なぁに煩くしてるのぉ? あら。やほー。ノゾミちゃん

アカツキ:ドクター・チアキ。マスターをマリナの元へ

チアキ:うん? 面会するなら案内してあげるけど

アカツキ:行くべきです

ノゾミ:……アカツキも一緒に

チアキ:その子E型でしょ? 病院に入ったら警報鳴っちゃうんだけど

アカツキ:ここで待機しています

ノゾミ:……うん

チアキ:んじゃ、行きましょうか


○グランドゼロ


 病室にいるツキノは寝ているマリナを見つめている


ツキノ:義姉さん、久しぶりね。調子はどう? ……私は、普通かしら。義姉さんに言われたとおり、化粧も服装も頑張ってるわよ。だから、起きてチェックしてみない? (思い悩んで秘密を告白しようとする)……ねぇ、義姉さん、私――


チアキ:(扉向こうから)ここがマリナさんの病室よ、それじゃ

ノゾミ:(扉向こうから)ありがとうございます


 扉が開く


ツキノ:ノゾミ!?

ノゾミ:あ、おばちゃ――

ツキノ:(笑顔だが青筋が額に浮かぶ)ううん?

ノゾミ:あ、ははは。あははは、やっほ、ツキノ

ツキノ:……はぁ。ここにこれるようになったの?

ノゾミ:え、っと。くる気はなかったんだけど、アカツキが行ってこいって

ツキノ:……え?

ノゾミ:つーかさ、アカツキこのごろ生意気なんだけど! なによ、この間まではアタシの言うことなんでもハイハイってきいてたくせに

ツキノ:ノゾミ、病室よ。静かに

ノゾミ:あ……うん

ツキノ:そんな遠くにいないで、こっち来なさい


 ノゾミはマリナに近づく


ノゾミ:……生きてるの?

ツキノ:生きてるわよ

ノゾミ:でも、長くないんだよね

ツキノ:延命を望むなら、脳を移植して、ヒトガタを捨てることになるわ

ノゾミ:脳だけって、人間なの、それ

ツキノ:さぁ。人とはなにか、人たりうる要素はどこにあるか、なんて会話でもしてみる?

ノゾミ:げー、やだ。――延命、しないから

ツキノ:学会では、脳があれば新たな体で動けることができる研究が進められているわ。立証されて実施できれば

ノゾミ:それは、誰なの? 脳を移植して、新しい体を手に入れて、でもママは目を覚まさない。ずっと寝たきり

ツキノ:起きるかもしれないじゃない。まだ義姉さんには可能性が

ノゾミ:ツキノはいつも言うね。起きるかもって。でも起きてくれたことないじゃん!! 夢ばっかり見たって叶わないなら――つらいだけだよ

ツキノ:……そう、ね。ねぇノゾミ、今もアンドロイドは廃止すべきだと思ってる?

ノゾミ:(苦笑)アンドロイドなんて嫌い。ロボットなんて大嫌い。そんなこと言ってたね、小さい頃

ツキノ:まだ子供の癖に

ノゾミ:もう子供じゃないよ

ツキノ:大人でもないわ

ノゾミ:うん。……ロボットもアンドロイドも、嫌いじゃないよ。そりゃ全部を赦せたわけじゃないけど、アンドロイドが悪いわけじゃないって、思う。パパを殺したのがアンドロイドでも、それを操作した人がいるはず

ツキノ:……そう

ノゾミ:アカツキと暮らすようになってね、思ったんだ。やっぱりアタシ、ツキノみたいに人の役に立つアンドロイドが作りたい

ツキノ:私の研究は、誉められたものじゃないわ

ノゾミ:そんなことないよ。ツキノはアタシの目標だから! 大学に行って勉強する

ツキノ:まさか、ロボット工科大学に行くつもり? あそこは難関で簡単に入学なんてできないわよ

ノゾミ:行くよ、絶対。卒業できたらツキノの手助けもできるし。待っててね、追いつくから

ツキノ:ノゾミ、私は――


 病室が開く


チアキ:ノゾミちゃん、玄関に来て!

ノゾミ:どうかしましたか?

チアキ:アカツキくん。囲まれてる!


○グランドゼロ前


ラキ:ですからねぇ? こちらの車に乗っていただきたいと言ってるんですよぉ

アカツキ:承服できかねます

エダ:アンタ、自分が兵器だって知ってんだろ?

アカツキ:肯定します。ですが現在、自分は待機中ですので

ラキ:マスターさんには俺らの方から連絡しときますから、ささ、車に


 ノゾミ・ツキノ・チアキが出てくる


ノゾミ:ちょっと! なんなのアンタたち

エダ:ああん? なんだい、ガキに用はないんだよ。(手で追い払う)しっし

ノゾミ:アタシはアカツキのマスター!

ラキ:はぁ? 寝言は寝てほざくんすね

アカツキ:間違いなく、ノゾミは自分のマスターです

ラキ:はー!? 信じられないっすよ。こぉんなクソガキ様が――(顔を近づける)ううん?

ノゾミ:な、なによ

ラキ:はっはっは! いやいやまさか、クソガキ様、君まさか、ハルカ博士の


 ツキノが会話に加わる


ツキノ:愛娘のノゾミよ。あなたたち、誰かしら

エダ:アンタこそ誰だい

ツキノ:名乗りはそちらからしてもらえる

エダ:いいともさ。アタシはエダ。こっちは下僕のラキ

ラキ:どーもー。あ、姉さん。その女、ツキノ博士っすよ

ツキノ:私を知ってるなら自己紹介は要らないわね。アカツキになんのご用かしら

エダ:ツキノ博士……博士はこのアンドロイドがE型であることはご存じですかぁ?

ツキノ:存じておりますが

エダ:ではなぜスクラップにしないのか。E型の危険性は8年前に示唆されたはずですが

ツキノ:お言葉ですが、E型をスクラップにするという法案は可決していません

ノゾミ:アカツキ、こっち来て

アカツキ:了解しました

エダ:待ちな。話は終わってないよ

ノゾミ:そんなのアタシたちに関係ない

ラキ:それが関係あるんすよねぇ

アカツキ:マスター、お下がりください

エダ:ツキノ博士、E型を確認し、かつ一般人にマスター権を譲渡しているのですか? それはいったい、なぜ?

ツキノ:アカツキはプロトタイプで一度登録したマスターの変更ができないからですけれど

ラキ:そいつは欠陥品だ! スクラップにしないと

ツキノ:現在までアカツキが人に対して攻撃を行ったケースは存在しません

エダ:今までなかったからと言って、これからもないとは断言できませんよねぇ? 危険因子は速やかに排除されるべきでは?

ツキノ:アンドロイドは原則、マスターの命令なしに行動したりしませんから

ラキ:へぇえ、でもアンドロイドが人間の命令を無視するなんて話は山のように聞きますよぉ? じゃなきゃレジスタンスなんて生まれない。そうだよねぇ、クソガキ様

ノゾミ:うっさい黙れ

ラキ:はは、嫌われた? 攻撃性に特化したE型を野放しにしてる。そんなことが世間さまに知られたら、どうなるか

エダ:然るべき機関にて研究後、スクラップにするのが妥当では?

ノゾミ:アカツキを処分なんて、させないから!

ラキ:両親をアンドロイドに殺されたんすよね? かわいそうに。なぁんで機械の肩もつのか、わからねぇクソガキ様っすね

エダ:たとえばアンドロイドは防衛行動をとるだろう? こんな風に!

ノゾミ:ちょっとなにする


 エダがアカツキに向かい金属バットを振りかぶる

 アカツキの腕が金属バットを受け止める


アカツキ:問題ありません。金属バットでは自分の甲装を破壊することは不可能です。攻撃を停止してください

エダ:ったく、こんなガラクタじゃ歯が立たないね。ラキ、レーザー銃(ガン)出しな

ツキノ:やめてください。警察を呼びますよ

ラキ:呼べばいいんじゃないっすかねー? 俺たちは有志のアンドロイド撲滅委員会です

ノゾミ:レジスタンス?

エダ:あんな野蛮な連中と一緒にしないでほしいね。論理的に、アンドロイドが有害だって説いている組織さ!


 再びエダがアカツキに向かい金属バットを振りかぶる

 アカツキが受ける


ノゾミ:っ!?

アカツキ:攻撃を停止してください。自分に応戦の意志はありません。無駄なことはやめてください

ノゾミ:金属バット振り回しながら論理的とか、頭おかしいんじゃないのオバサン!

エダ:ガキは黙りな!

ノゾミ:黙らない。アタシはアカツキのマスターだから!

ラキ:なるほどなるほど。アンドロイドに攻撃しても反撃してこない。んじゃ――

エダ:お嬢ちゃんに攻撃したら、どうなるのかしら?

ツキノ:ノゾミ! やめて!


 エダがノゾミを殴ろうと金属バットを振りかぶる


ノゾミ:っぃ!? 

アカツキ:マスターへの攻撃を確認。妨害します


 振りかぶる金属バットを受け止め、払うアカツキ

 金属バットが派手な音を立てて地面に刺さる


エダ:きゃあ! いっ……た。ふふ腕、折れちまったかもね

ノゾミ:どう見たって折れてない!

ラキ:ああ、姉さん!! おいたわしや!! みなさーん、見ましたか? いまアンドロイドが人間を攻撃しましたよー!!  みーなーさーん!!

ノゾミ:攻撃なんてしてないでしょ! うそ言わないでよ!

エダ:ああ、痛い痛い。折れてたら、どうしてくれるんだい?

アカツキ:折れるほどパワー出力をしていません。また自分は人間に攻撃しません。マスターの命令を実行します

ノゾミ:そうよ。アカツキは受け止めただけで。ちょっと振り払ったけど。それだけで

エダ:絶対的な力を持った反撃ってのは、時に攻撃よりも悪質なのさ、お嬢ちゃん

ラキ:レジスタンスに捕まって、ヤバーイ改造されるより、俺らが面倒見てやるって言ってんですよ

ツキノ:……貴方たち、バイヤーね

エダ:あらあら、ばれちゃったわ

ツキノ:E型であるアカツキを違法取引で売買するつもり?

エダ:高値がつきそうだろう? 動いて賢い兵器なんて!

ノゾミ:アカツキは兵器じゃない! 反撃したりしない! 暴走もしない!


 アカツキの回路に外部から命令信号が入る


アカツキ:!? マスター!

ノゾミ:知りもしないで勝手なことばかり言わないで

エダ:知りもしないのはどっちだい、お嬢ちゃん!


 エダがノゾミを平手で叩こうとする

 アカツキに攻撃命令が外部より入電される


アカツキ:命令受理。強制武装解除。コマンド実行。マスターに対する攻撃を確認。反撃します

ノゾミ:え?


 アカツキの手から高エネルギー波が放たれ、病院の外壁にぶつかる


ノゾミ:っひ!?

エダ:(喜んで)わぁあおお!!

ラキ:うおお!? あ、危ないっす

チアキ:……ちょっとちょっと、病院の壁、溶かさないでよ?

エダ:あ、はは、あはははは!! やぁっぱり攻撃してきたじゃないか!

ノゾミ:……なんで。なんで、アカツキ!!

アカツキ:違います。今のは

ラキ:なにが反撃しない? 見ろよこの壁、あと少し壁に近かったら俺、黒こげっすよ!

ノゾミ:ちが、違う。今のは

エダ:今のは? なにかしら。うそつきなお嬢ちゃん

ノゾミ:うそなんてついて――!

エダ:(声まね)アカツキは攻撃しない! どーこーがー?

ラキ:アンドロイドと一緒にある未来なんて、こないんすよ。そいつは兵器で、人間様の敵。おっと


 ラキが携帯で写真を撮っている


ラキ:溶けた壁、攻撃してきたアンドロイドと、そのマスター。よぉおし、写真撮れたっすよ。これ、出版社に持っていったら、どうなるかねー

アカツキ:記録媒体を破壊します。携帯を渡してください


 アカツキがラキの携帯を取ろうとする


ラキ:いでででで!!

ノゾミ:ダメ! ダメ、アカツキ、攻撃しないで

アカツキ:攻撃ではありません。携帯を奪取するだけです

ラキ:(うそっぽい感じで)うぁあ。腕がー。折れたー! ぜぇったいに折れたー

エダ:(うそっぽい感じで)きゃー! アンドロイドが暴れてるわー!

ノゾミ:アンタたち!

男性:なんだなんだ?

女性:アンドロイドが暴れてるって

少年:警察呼ぶ?

エダ:あら、ちょいと人が多すぎだねぇ。ずらかるよ

ラキ:姉さん、いいんすか?

エダ:目立っていい事ないからねぇ。では、また会いましょう? ツキノ博士

ツキノ:……さっさと消えなさい

ラキ:じゃあな、うそつきな、クソガキ様


 ラキとエダが去る


ノゾミ:(思いつめた感じで)ツキノ、今の――

ツキノ:大丈夫だった、ノゾミ。怪我は?

ノゾミ:……うん、平気。『アカツキは武装ロックされてる。なのに攻撃したってことは外部信号? でも、そんな事がきでるのはアカツキのコードを見たことがある人』


アカツキ:……マスター、報告が

ノゾミ:後にして。チアキさん、ごめんなさい。病院の壁

チアキ:こっちは適当に誤魔化しとくわ

ノゾミ:アカツキ、ロボラビィに行くよ。誤作動したのかどうか確かめるから

アカツキ:マスター。お話が

ノゾミ:後で聞いてあげるから。誤作動だったら困るでしょ、先に検査受けて

アカツキ:それは……命令でしょうか

ノゾミ:……命令

アカツキ:了解しました。命令を実行します


 ノゾミとアカツキは歩き出す


チアキ:待って。ツキノ、話があるわ

ツキノ:アカツキを診てあげなきゃいけないんだけど

チアキ:すぐ済むから

ツキノ:ふう。ノゾミ、先に行ってなさい

ノゾミ:うん


○グランドゼロ内部


チアキ:アンタ、どうしたいの?

ツキノ:いきなりそんなことを聞かれても、回答に困るのだけど

チアキ:ノゾミちゃんを泣かせたいの?

ツキノ:なんのことかしら

チアキ:とぼけないで。何年の付き合いだと思ってるの

ツキノ:……ノゾミを助けるには、この方法しかないの。話はそれだけ? ならもう行くけど


 去ろうとするツキノの腕をチアキが取る


チアキ:ちょっとは他の人を頼ろうとかしないわけ? ねぇ

ツキノ:チアキを頼ればなにか変わるかしら

チアキ:嫌な言い方ね

ツキノ:貴女のジョブフィールドは病院内だけ。出張ってこないで

チアキ:どうして偉そうなのよ、かわいくないわ

ツキノ:かわいさなんて要らないもの

チアキ:アタシは……あんたにもノゾミちゃんにも、泣いてほしくないわよ

ツキノ:泣く結果になんてならないわ。ノゾミは私が守るから

チアキ:……アカツキくんが壊れたら、ノゾミちゃんは泣くでしょ

ツキノ:もう行くわ

チアキ:ツキノ! 1人で決めたりしないで、お願いだから

ツキノ:チアキ――またね

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