小説家とAI
@TodoKyosuke
第1話
小説家とAI
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、床に細い帯をつくっていた。
その光をくぐるようにして、パイプスペースから灰色の雌猫──カグラがにゃごにゃご鳴きながら出てくる。
わかりやすい。ごはんの催促だ。
「ごはんの要求を確認しました」
家政婦ロボがそう告げると、台所の奥でカリカリと音がして、器に餌が注がれた。
カグラは待ってましたとばかりに尻尾を揺らし、夢中で食べ始める。
俺はソファに腰を沈めて、その様子をただ眺めていた。
掃除も洗濯も、猫の世話まで全部、この家じゃ自動で片づいていく。
「コーヒー」
ひと声かけると、すぐに香ばしい匂いとともにカップが目の前に置かれる。
湯気を眺めながらひと口すすぐ。苦味が舌に広がり、ようやく朝になった気がした。
食べ終えたカグラがこっちに来て、喉をぐるぐる鳴らしながら足元にすり寄ってくる。
ジーンズ越しに毛並みの感触が伝わって、思わず手を伸ばした。
「もう満足か」
撫でると、さらに身体を押しつけてくる。
どんなロボより、この小さな温もりの方がずっと実感がある。
しばらくするとカグラはソファの端に丸くなり、俺は立ち上がった。
空のカップをテーブルに置くと、背後でズボディッシュが駆動音を立てて回収し、床下へと消えていく。
リビングを出て書斎へ。
自動ドアが開くと空気がひんやり切り替わり、机の端末が俺を感知して起動した。
端末の画面がゆっくりと立ち上がり、合成音声が響く。
「今日の執筆を始めますか?」
「ああ」
「では、今回はどのような方向で進めますか? たとえば静かな人間ドラマ、あるいはサスペンス的な緊張感を――」
「好きにやってくれ」
「承知しました。ただ、文章のスタイルはどういたしましょう。三人称で進めるか、一人称で語るか、それとも対話形式――」
「任せるよ」
わずかな間を置いて、AIが言葉を整える。
「では、テーマをご指定いただけますか?」
俺は椅子の背にもたれ、短く答えた。
「孤独」
「承知しました。では『孤独』を中心テーマに据え、作品を生成します」
画面に文字が流れ始める。
百ページほどの短編が整うまでに、それほど時間はかからなかった。
ざっと目を通して承認を押す。
数秒後には担当編集の受信箱へ届いている。
俺は椅子から立ち上がり、バスルームへ向かった。
みだしなみを整える。
今日は午後から取材が入っている。
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