無職おじさんVtuberで社会復帰!

上村 有

無職になったサラリーマン。


 私はしがないサラリーマン。秋津商事に勤めてかれこれ20年以上、浮いた話もなく、ただ仕事に追われる毎日を送ってきた。だが、それも今日で終わってしまった。


 秋津商事が倒産したのだ。


 珍しいことではないのかもしれない。だが、54歳という年齢で無職になるとは夢にも思わなかった。幸い、両親から受け継いだ家があり、残業続きで使う機会もなかったため貯金もそれなりにある。しばらくはなんとかなるだろう。しかし、先のことを考えると決して明るい気持ちにはなれなかった。


「これからどうすりゃいいんだ……」


 倒産を告げられたあと、いつも昼食をとっていたベンチで途方に暮れる。どれほど時間が経ったのか、気づけば正午。強い日差しが差し込み、9月だというのに残暑のせいでやけに暑い。無意識に漏れたため息は、思った以上に大きく響いた。


「叔父さん?」


 ふいに声をかけられる。顔を上げると、スーツ姿の若い女性が立っていた。どこか見覚えがある。そして彼女は「やっぱりおじさんだ」とひとり笑っている。


 内心、「まあ確かに君から見たら私はおじさんだろうが、見ず知らずの人におじさんおじさんと連呼されるのはなかなかきついぞ」と思う。


「あの、どちら様ですか?」


 恐る恐る尋ねると、彼女は信じられないものを見るような顔をした。


「叔父さん、いくら何年も会ってないからって、姪の顔を忘れるなんて酷すぎない?」


 腕を組み、口を尖らせる仕草は、昔から姪の亜紀が怒ったときによく見せたものだった。


「亜紀なのか?!」


「全然気づいてなかったの? 私はすぐ叔父さんだってわかったのに」


「いや、どこかで見たことがあるような気はしていたんだ。ただ、10年以上も会っていなかったんだ。気づかなくても仕方ないだろう」


 「え〜」と不満げにぶつぶつ言う亜紀。最後に会ったのは、彼女が小学校6年生のころだった。子どもの成長した姿なんて、十年も会わなければわからなくても当然だろう。


「それにしても亜紀、こんなところでどうしたんだ?」


 これ以上小言を言われたくなくて、慌てて話題を変える。亜紀はまだ納得いかない表情をしつつも答えてくれた。どうやら職場が近く、今日は同僚と昼食を食べに出ていた帰りらしい。その途中、ベンチで落ち込んでいる私を見つけ、声をかけてくれたのだという。


 視線を向けると、少し離れたところに同僚らしい女性が立っている。


「それで叔父さん、こんなところで何してるの?」


「ああ……ついさっき会社が倒産してな。どうしたものかと途方に暮れてたんだ」


「えっ! 叔父さん、あのブラック企業、倒産しちゃったの?! 大変じゃん!」


 姪にこんな姿を見せるとは情けない。しかも「ブラック企業」とはっきり言わないでほしい。……いや、そうじゃないかと薄々気づいてはいたのだけれど。

 そんな私の内心など知らぬ顔で、亜紀はいきなり自宅の場所を尋ねてきた。変わっていないと答えると、「じゃあ夜に行くね」と言い残し、同僚とともに職場へ戻っていった

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