TCG迷宮
ちびまるフォイ
動かざる真実
「姫……。いったいどこに囚われているのだろう」
TCG迷宮にやってきた冒険家だったが、
事前に準備していたあれこれは迷宮に入るなり消失。
この迷宮では不思議な力が作用しているのは本当だった。
「これは……?」
足元をみると1枚のカードが落ちていた。
『
カードを発動すると相手の知らない真実を自分が一つ話す。
「誰かの落としものだろうか?」
とりあえずカードを拾って迷宮をさまよい歩く。
このようなカードは他にも色んな場所で拾うことができた。
------
『
指定した植物を最大まで成長させる。
『リソース・シェア』
1度消費したカードを選択して発動。その効果を得る。
『
指定した時間の時系列を指定の順に入れ替える。
●自分にある記憶だけが対象
------
「どれもこれも……役に立たないものばかりだ。
もっと剣を作り出すとかそういうカードは無いのか……」
カードを拾いながら迷宮を歩き続ける。
もはやカードを道しるべとして撒いていったほうが有益なんじゃないかとさえ思う。
そのとき、足元のスイッチを踏んだ感触。
ゴゴゴと明らかに何らかの仕掛けが動く音がする。
「イヤな予感……」
迷宮の通路の奥から巨大な丸い鉄球が転がり落ちてきた。
「うわぁああ! やばい! 潰される!!」
必死に走って逃げるが通路は狭く、隠れる場所など無い。
鉄球はみるみるその距離を詰めていく。
「なにか! なにか無いのか!?」
手元にあるのはカードだけだった。
そして唯一使えそうなものも1枚だけだった。
「これだ!
鉄球のサイズを小さくする!!」
迷宮カードの効果が発動した。
迫りくる巨大な鉄球はあっという間にビー玉サイズに縮小。
コツンと自分のつま先にぶつかって終わった。
「こ、これがTCG迷宮……。やっとわかってきたぞ。
この迷宮ではカードの効果が絶対なんだ……!」
これまで拾っていたカードもけして無駄じゃない。
このカードを使い、姫を見つけ出して脱出してみせる。
鉄球の落ちてきた場所まで戻ると、
ちょうどトラップの開始位置にはカードが1枚あった。
キラキラ加工もされており、迷宮でもレアそうな見た目。
--------
『
カード1枚を対象に発動する。
カードに含まれるテキスト2文字のみ、別の言葉に置き換える。
--------
「また何に使うのかわからないカードを……」
迷宮内では
今回のように一体どう使えばいいかわからないカードもあった。
わかりやすいものはすぐ使ってしまうので、
手札に残るカードといえば使い所がわからないものばかり。
「役に立つカードだけほしいんだけどなぁ……」
一体この迷宮にどれだけのカードがあるのか。
脱出するためのカードを手早く回収できればいいのに。
そう思いつつ手札のカードを改めて見返した。
そこに一つの可能性をひらめく。
「……今までは1枚ずつしか使ってなかったけど、
カードを同時に複数使うことってできるのか?」
手元に3枚のカードを用意した。
「カード発動! ウォール・ハック!!」
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『ウォールハック』
自分の円形周囲2mのすべてを把握する。
カードがある場合は回収する。
------
自分の周囲2mに認知能力が広がる。
「さらにカード発動!
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『
指定した植物を最大まで成長させる。
------
植物は近くにない。
特に何も起きない。
「3枚目!
さっきの植物成長のテキストを変更する!」
--------
『
カード1枚を対象に発動する。
カードに含まれるテキスト2文字のみ、別の言葉に置き換える。
--------
迷宮の宙にテキスト文字が浮かんだ。
変更できるのは2文字のみ。
変えるのは「植物」の二文字。
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指定した植物を最大まで成長させる。
↓
指定した範囲を最大まで成長させる。
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植物を対象としていたカード効果だったが、
他のカード効果の範囲を拡大させる内容になる。
これにより、最初に発動した『ウォールハック』の効果が改められる。
もとは周囲2mしか探知できなかったはずが、
『
すなわち迷宮全体が効果対象となった。
「ふはははは! やった! カードの複数使用はできるんだ!!」
"自分の円形周囲2mにあるカードを回収する。"のはずが、
"迷宮全体カードを回収する。"へとパワーアップしたことで、
散らばっているカードすべてを難なくゲット。
手元に集まったカードを見て一気に迷宮脱出への道筋が広がる。
「見えた! 脱出までのロードが!!
いくぞ! 俺のターン(?)!! カード効果発動!!」
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『
手札を1枚捨てる。対象者の過去の記憶を得る。ただし記憶は直近10秒のもの。
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有り余る手札が1枚減ったことでたいしたことはない。
「俺が得る未来は……姫の記憶だ!!」
迷宮に効果がほとばしり、自分の脳内に姫の記憶がぶちこまれる。
姫がどこに囚われているかが把握できた。
「姫。そこにいたんですね。今助けます!
さらにカード発動!
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『
指定した時間の時系列を指定の順に入れ替える。
●自分にある記憶だけが対象
------
これにより時空操作の記憶には姫の記憶も対象にできる。
「カード効果で時系列を操作する!!
現在の時系列を、姫が捕まる前に移動させる!!」
カード効果により次元がぐにゃりと歪む。
姫が迷宮に囚われたから、自分が探しにきた……という時系列。
それが自分が探しに来たあとで、姫が囚われるように変容した。
つまりまだ姫はこの迷宮で囚われていない状態になる。
「カード発動! リソース・シェア!
一度使った
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『リソース・シェア』
1度消費したカードを選択して発動。その効果を得る。
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カードが
手に入れたカードをその場ですぐに使う。
「自分を対象に
体が一気に縮んでアリよりも小さくなる。
姫の記憶が入ったことで、どこに捕まるかも見える。
時系列も入れ替わったのでまだ囚われていないだろう。
ウォールハックで迷宮全ての地理も知り尽くしたので、
どこをどう行けば姫と合流できて脱出するかもわかる。
アリの体であれば壁の隙間をぬってゴールまで一直線。
「さあこれで一気に脱出だーー!!」
姫が囚われる予定の牢屋の前にたどり着く。
目の前には迷宮の出口さえ見える。
時系列が入れ替わったので、姫が魔王と一緒にちょうどやってくるところだった。
「姫! 探していました!!」
しかし引率の魔王は面白くない。
「貴様、いったいどうやってここへ来た……。
いやそんなことはもう良い。それより私は戦いを好まない」
「なんだと……!?」
「剣や魔法で戦うなど野蛮人の発想だ。
ここはカードで解決しようじゃないか」
「望むところだ! 今俺の手元にはカードがあるだけある!
お前なんかあっという間にやっつけられるぞ!」
「そうかそうか。だが私に効くのは1枚だけだ。迷宮の主を舐めるなよ」
「えっ……」
「ククク。焦ったようだな。では取引しようじゃないか。
今からお前にはなにか話をしてもらおう」
「は、話……?」
「その話が真実であれば、姫を解放しよう。
だが、お前は一生この迷宮で姫と囚われ続けることになる」
「もしも真実じゃなくて、嘘を話したら……?」
「嘘なら、お前は迷宮から脱出させてやろう。
だが姫は永久に迷宮に囚われたまま、私の過去の武勇伝を聞かされ続けるだろう」
「なんて拷問を!! ひどすぎる!!」
「さあ、話してもらおうか。お前の決断を!」
手元のカードを見つめ直した。
魔王に効くカードは1枚のみ。
しかし1枚だけじゃ全然意味がない。
魔王を洗脳するとか都合の良いカードは無い。
「いつまで悩んでいる? これ以上待つなら、姫の解放も貴様の脱出も無しだ」
「う、うぐぐ……」
「さあ、話せ。真実を選ぶか? 嘘を選ぶか?」
「ええい! もうわからん!! カード発動」
やぶれかぶれになって、最初の1枚を選択した。
-------
『
カードを発動すると相手の知らない真実を自分が一つ話す。
-------
「ははは! よりによってそんな一番役に立たないカードを!」
カード効果により自分の口が自然と動き出す。
迷宮の主である魔王すら知らない真実を話した。
「お前は……」
「なに? なんだ?」
魔王は半笑いで答える。
自分は最後に真実を話した。
「お前は……私を脱出させる!!」
カード効果により真実が語られた。
魔王はおおいに笑った。
「それだけか? ハハハ、肩透かしも良いところだ」
「だが……。これは紛れもなく真実だ。カード効果は絶対だからな」
「それがどうした?」
「俺は真実を話したぞ、さあ姫を解放しろ!」
「……へ?」
魔王もやっと理解が追いつくと、みるみる顔色が悪くなった。
『
魔王がカード効果に抗うこともできない。
魔王は告げられた真実どおり、冒険家を脱出させる。
そして冒険家は真実を話したので、姫を解放させるしかない。
冒険家は姫を連れ、迷宮の外へと脱出に成功した。
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