第2話
「ぎょおさん取れたな!晩飯、困らへんわ!」
「せやね。」
清士郎と薬研は、カゴにたくさんの魚を入れて、家路についた。ほとんどは小さいのだったが、その代わり腹が膨れるだけの量はあった。二人はその日の晩飯を、何の味にするかで話を膨らませた。
「母さん、ただいまぁ。」
「セーシロのおかぁ、お邪魔しまぁす!」
「おやおかえり、まぁたそんなぎょうさん⋯、ほらあがりぃや。薬研ちゃんもいらっしゃい、いま湯船張ったるからね。」
清士郎の母はキヨ子と言った。彼女は清士郎からカゴを受け取ると、そのままキッチンの桶に流し込んだ。それから湯船の手配をし、着替えを清士郎と薬研に持たせると、さっさと入りんしゃい、と彼らを脱衣所に押し込んだ。と、同時に清士郎と薬研は顔を見合わせた。
「あ、あんな⋯、」
「わかっちょる、俺、出てくから。部屋行っとる、上がったら言うてや。」
「あ、あんがとなぁ、セーシロ。すぐ出るから!」
「気にせんでえぇ、汗かいとるし、ゆっくり入りや。」
複雑そうな薬研をよそに、清士郎は脱衣所を出て、二階の自分の部屋に向かった。いつものことだった。薬研は自分の肌を人に見せたがらない。暑い夏なのに、長袖のシャツや長ズボンを好んで着るのはこれが理由だった。過去になぜ隠すのか、と聞いたことがあったが、薬研は悲しそうな、困ったような、そんな顔をして口を噤んだ。清士郎は無理に聞くことはしなかった。そこまでして聞くような強欲者ではなかったし、いつか話してくれるだろう、と思っていたからだ。
「⋯あ、薬研、パーカー忘れちょる。」
以前、薬研が清士郎の家に遊びに来た時に置いて行ったパーカーが、部屋にそのままにしていたのだ。案の定、長袖のものではあるが。清士郎は届けようと脱衣所まで降りると、敷居の襖越しに薬研がいるのを感じた。
「薬研?おる?」
「んあ、セーシロ?すまん、おれの長袖のパーカー、取って欲しいねん。この前ガッコ行く時ん置いてもうたやつ⋯。」
「あるで、届けに来たん。」
「あんがと!そんで、この隙間から手ぇ伸ばして欲しいねん。」
襖の隙間から、言われた通りに手を伸ばすと、清士郎は驚いて思わず手を引っ込めた。その際、パーカーはうまく手渡せたのか分からなかったけれど、向こうの薬研は何かを着る行動をしていたから、きっと成功した。が、それよりも。
「⋯薬研?」
「んー?」
「ちゃんと、あったまっとる?」
「ん?んー、ちゃあんと入ったで?どないした?」
「や⋯、手ぇ、冷たかってん。お湯でんかったらすまんと思て⋯」
「あぁ、おれ、まったん冷えしょー?なんよ。指先冷たくなるらしいねん、おかぁが言うとった。気にせんでえぇよ。」
「⋯ほうか。」
さいごまで、いっしょ かいせい @kaisei-9
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