さいごまで、いっしょ

かいせい

とってこい

第1話

「なぁなぁ、見てみぃやぁ!お魚、ぎょおさんおるで!取り放題やなぁ!」

「せやね。母さん、喜ぶやろな。」

「たんと取っとこや、晩飯にしちゃるんよ。」

「うん、それがええな。」


 傍に流れる小川を見て、釣り竿とカゴを持った薬研やげんは、はしゃいで飛び回った。蝉がみぃんみぃんと鳴いて季節は夏を告げているのに、薬研は白くて長い薄手のシャツを着ていた。そんな薬研を見て、後に続く清士郎せいしろうは見ている方が暑苦しいと、自身の半袖のシャツを捲り上げた。


「はよ来いやぁ、セーシロ!逃げられちまうで!」

「そんな逃げへんよ。今時期の魚はゆぅくり泳ぐんや。」

「そやの?」

「せや。焦りは禁物、のんびり行こや。」

「セーシロが言うんなら、そぉやろな!」


 薬研はやけにひどく清士郎に信頼を置いていた。周りから見ても分かるほどには。清士郎はそのことについては特に咎めていなかった。むしろ自分にこんなにも執着してくれる友人がいるというのは気持ちが良かったのだ。


「さあ、なんぼ取ろ?」

「晩飯、うちで食うん?」

「え、ええの?」

「多分、母さんもええって言うと思うで。」

「ほんまぁ!んなら、セーシロのおかぁのぶんも、取らなね。」


 薬研はその大きな口をニッカリと開けて笑って見せた。清士郎もそんな彼を見て微笑み、釣り竿を手に取った。

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