第19話
019
ロベルト達三人は階段を降りていくと、当たり前だが真っ暗で何も見えない。
そんな当たり前のことに三人は笑い合い、ワイワイと騒ぎながら階段を降りようとするが、調子に乗ったロベルトが転びそうになったので、鞄から魔道具を出し灯りをつけて階段を降りた。
階段を降りると重厚な鉄の扉が三人を迎え、沙希が魔力を流し扉を開く。
部屋に入るとスイッチがあり、押してみたら灯りがついた。
部屋の造りはシンプルでダイニングスペースとトイレ、シャワー室に部屋が二部屋。
沙希とみなみが探索しようと言い出したので、ロベルトは二人の後ろに続いて内部を見ていく。家具やベッドは既製品で揃えてあるが、床や壁天井などは木材にも見えるが硬く、そして僅かに魔力が込められている見た事がない素材だ。
ロベルトは一通り見て回りダイニングの椅子に腰を落とし周囲を見渡していると、この場所は麗奈達のパーティーが拠点として使っていた場所だと気付いた。
壁の一面にはダンジョンの地図が貼られ、魔物の生息地やメモ書き、精霊の拠点などが書いてあった。
ロベルトは写真が貼ってある箇所が目に入り、席を立ち、写真を間近で見て驚く。
そこには麗奈達のパーティーと今日会った毛むくじゃらの戦士達が映っていた。
しかも今日会った彼よりもずっと背が高く、全身の筋肉が凄い。
ロベルトがその写真を食い入るように見ていると、みなみが声をかけてきた。
「あ。モンゴリさん達だー」
「え、え。え?みなみちゃんモンゴリさんってこの生物全員のこと言ってたの?」
「そうだよー。でもね配信してるから言えなかったけどモンゴリさんは精霊なんだよ」
「そうそう!精霊だけど精霊の守護者なんだよー!」
ロベルトは衝撃的な事実に口を大きく開けたまま固まってしまう。
そんなロベルトを見てみなみが心配そうに「おいたん」と声をかけると、固まっていたロベルトが正気を取り戻す。
それからみなみは「それでね――」と言葉を続け、モンゴリのことを更に掘り下げて話をしていく。
多くの精霊は実体がなくシンプルに言えばマナが具現化した生命体。
基本的には視認することも、触れることも出来ない存在ではあるが精霊にも弱点はある。
それは精霊自体がマナでもある為、魔法による捕獲や魔力を纏う攻撃に弱く、物理攻撃が出来ないという点だ。
それらの弱点を補うのが実体を持つ精霊。
彼らは守護者と呼ばれており、魔法攻撃に強く物理的な攻撃や防御力を備えた戦闘専門の一族。
モンゴリ一族はそのひとつだ。
もちろん戦闘だけが主な役割ではない。実体があるという事は誰にでも交流することができ、精霊との橋渡しをすることも可能。
悪意を持って接する人間に警告することが出来るし、見える分抑止力にもなる。
精霊達は基本、争い事は好まないし、平和に過ごしたい生物なのだ。
起源は定かではないがこのような実体を持つ精霊が生まれたのは、精霊を護る為ではないかとも言われていおり、守護者の一族は悠久の時を精霊達と共に歩んでいるという。
「おー!めちゃくちゃカッコいいな!」
「でしょー!モンゴリさんは凄いんだよー」
「そうそう。父上に何度も写真見せられてたから沙希達、おいたんのことモンゴリさんだと思っちゃったの。ごめんねおいたん」
「おいたん。ごめんなさい――おいたんのマナ、精霊みたいに綺麗だったから勘違いしちゃったの」
謝る二人にロベルトは気にしてないと笑い飛ばす。
今日会った毛むくじゃらの戦士が精霊を守護するような凄い生物だとは思ってもいなかった。
ロベルトは感嘆の声をあげ、今日貰った首飾りを手に取りじっくりと見ていると、沙希もまたロベルトの首飾りを興味深く見ていた。
その様子を見たロベルトは首飾りを外し、沙希へと渡す。
沙希が首飾りを手に取って観察していると、何かに気づいたようで急に立ち上がって写真を指す。
「おいたんおいたん!これ見てー」
「あ。一緒のやつじゃん」
「そうそう。父上と一緒のやつだよー!これ付けてるの父上しかいないし、おいたんもこれでモンゴリ一族だねー」
「え、え。待って待ってどういうこと?」
沙希から唐突に告げられたモンゴリ一族認定にロベルトは焦り散らかす。
そんなロベルトに沙希が詳しく話していく。
沙希の父親が若い頃、モンゴリ一族に弟子入りし、修行をつけて貰っていた。そして修行を終え、彼らと別れる時に首飾りを貰った、と自慢気に話していたという。
しかもその首飾りはドラゴンの魔石を使っており、精霊により特殊な付与が施してある貴重な物。
沙希は首飾りを見ながら「これもドラゴンの魔石だよー」と笑みを浮かべる。
モンゴリ一族の首飾り。
実はこれ、モンゴリ一族の里に入る鍵にもなっている。
首飾りの詳しい原理は不明だが、麗奈達のパーティーで探索を探していた時、沙希の父親だけ突然その場から消えていなくなり、消えた当の本人はいつの間にかモンゴリ一族の里にいた事があったらしい。
「すげぇ!瞬間移動か」
「そうそう!だからおいたんもモンゴリさんのおうちに行けるはずだよ」
「よっしゃあぁぁー!あ。でも俺、言葉わかんねぇわ。どうしよう?」
「おいたん。もうお話し出来るじゃん」
「そうだよー!おいたんモンゴリさんと会ったのマナの覚醒する前だからお話し出来なかったけど今なら出来るよ!おいたん精霊さんとお話ししてたじゃん」
「うおしゃー!まじか」
ロベルトが声をあげて喜ぶ。
マナの覚醒で精霊と話せるようになったこととモンゴリの話が繋がらなかったようだ。
モンゴリも精霊なので二人がいう通りロベルトは話すこと出来るだろう。
モンゴリの話が一区切りし、それから三人はお腹が空いたから晩ごはんを食べようという話になった。
食事類は大輝が大量に作ってくれている。
沙希の魔法鞄から夕食用に作った食事を取り出し三人で並べていく。
並べられた食事はパーティーでもするかのようにとても豪華でしかも大量に用意してある。
オムライスに骨つき鳥もも肉、シチューにグラタン。山のように積み上げられたから揚げ。その他の料理もテーブルいっぱいに並べられた。
そして三人でいただきますをし料理を堪能。
三人の食事風景はまるで子ども達がパーティーではしゃいでるようにも見えて微笑ましく、本当に楽しんでいるのがよくわかる。
▽▼▽
そんな中、入り口の扉の方から「バウ」と犬のような鳴き声。
沙希とみなみがその声に「ライジンだ」と反応し扉の方へと走った。
二人が扉を開けるとライジンの姿が見えた。
入り口の半分以上がライジンの顔で埋め尽くされている。
ロベルトは想像した倍以上の大きさに思わず「でけえ」と声をあげるとライジンは誇らし気に「バウ」と応えた。
とりあえず中にライジンを入れると、ライジンは入るなりテーブルの上の料理に目が釘付けだ。
「ライジン!みなみ達に会いに来たん?」
「バウ!」
「え。おいたんに届け物?」
「バウバウ。くぅーん」
「いいよー!一緒に食べよう!」
「ライジンは本当に食いしん坊だなー。食事時を狙って来たん?」
「バウ」
ライジンはロベルトに届け物をしに来たようだが、とりあえず先にごはんが食べたいようだ。
真っ白な美しい長い毛に獰猛な肉食獣の体躯のライジン。実は麗奈と契約している精霊でもある。
モンゴリ一族と同じく実体のある精霊種。
そのあたりの事情を食事をとりながらロベルトに話していく。
「え。精霊って使役出来ないって言ってなかったっけ?」
「おいたん。しえきと契約は違うんだよ!」
「そうそう!色々条件があるんだー」
精霊と契約出来る者の数は少ない。
沙希とみなみが住む村でも契約している者はごく一部。
少ない理由は条件がある為だ。
精霊と契約を結ぶにはまず精霊との相性。
精霊は感情や思想を視ることができる。大抵はこの時点で弾かれる。
次に体内マナの総量。
精霊と契約すると一定のマナが精霊へと強制的に流れていく。そんな理由があって魔力量が多い者しか契約が出来ない。
そして精霊が他の者と契約をする理由の根幹。
理由があってマナが正常に機能しなくなってしまい、この世界での終点を誰かと共に見送りたいと想う精霊が選択肢の一つとして契約を結ぶという。
沙希は補足として、マナに異常がある精霊でも人間の寿命よりも遥かに長く、契約しなくても、とある場所に還ることが出来る。
逆に契約すればマナは正常に機能するものの、精霊の寿命は大幅に縮まり、契約者と共に生を終えることが多いので精霊達にとっては一長一短があるという。
「おー?!なるほどな」
「ははっ。おいたんわかったフリしたー」
「え。何でバレた?」
「顔に出てたよー!」
「そうか気を付けないとな。ところでライジンもさっき言ってた守護者の一族なの?」
「そうだよー!でも契約自体はいろんな精霊さんと出来るんだー!」
精霊契約は実体がない精霊でも出来る。
むしろ実体のない精霊の方が圧倒的に数が多いのでライジンのような守護者の一族と契約出来たのは珍しいケースだ。
ライジンは別皿によそった料理を食べ終わると満足した様子で大きな声で鳴く。
その後ロベルトの側に歩みより、ライジン前足で何もない空間を叩く。
すると空中から銀色の指輪が現れた。
ライジンは指輪を前足で押し付けるようにして、そのままロベルトへと差し出す。
「バウバウ!」
「え。俺に?うわっ何この魔力すげぇ」
「バウ」
「麗奈さんから?あー変な輩に狙われてたからか?」
「バウバウ」
「有り難い。この指輪あれば狙われても大丈夫?そうかありがとなライジン」
「バウ!」
ライジンの届け物は身代わりの指輪。
今日の想定外の出来事を踏まえ、明日も狙撃される可能性があるかもしれないので、念のために急遽用意してくれたらしい。
二人の話では指輪は村で一番偉い人しか作ることが出来ない凄く貴重な品物で、小さな指輪の中に何重もの魔法陣が重ねてあるという。
ちなみにこの指輪も村へ入る時の鍵になっているようだ。
▽▼▽
ロベルトが指輪について話を聞いている時、ライジンはロベルトが空けた席を陣取り、再び料理に向かい合う。
よほど料理が気に入ったのだろう。
再び元気よく吠えて食事を再開。
沙希が隣で食べ過ぎは良くないと注意するが料理に夢中なライジンの耳には届かなかった。
テーブルの上に置かれた大量の料理がライジンによって全て無くなると、ライジンは用事があると言って颯爽と帰っていった。
「ライジンまたごはん食べに行く気なんな」
「ごはんのはしごする時の顔してた」
「え。あんなにいっぱい食べてまだ食べるつもりなの?」
「おいたん。ライジンの食いしん坊を甘く見てはいけないよー!放っておくと一日中食べてるんだから」
そう、ライジンの食い意地は凄い。
ライジンの優先度は麗奈以外はごはんをくれる人とそうではない人で別れる。
ごはんをくれる人の食事の時間帯はしっかりと把握しており、当たり前のような顔で料理を待ち、食事が終わると颯爽と消え、次の家へと顔を出す。
ちなみに沙耶はライジンの中で最下位の格付けに位置付けられ、沙耶が何か食べている時は奪って食べてもいい相手として認識されている。
沙耶の食べ物はライジンのもの。
沙耶が幼少の頃からそれは変わらず、沙希が寝ながらおやつを食べていればライジンがひょっこり顔を出しペロリと平らげていく。
完全に舐められているのだが、沙耶はライジンの行動を唯一自分にだけ甘えに来ているといまだに勘違いしている。
ロベルトがライジンの食べ物への執着に関心しているとある事に気付く。
「あれ?ライジンはどうやってダンジョンに入って来たんだ?」
「ライジンは転移魔法使えるんだよー」
「そうそう!精霊さんのトンネルを強化したみたいな魔法なんだー」
「ライジンすっげぇじゃん!」
ライジンは行ったことのある場所に転移することが出来る。
ちなみに沙耶が高校生の時には毎日送り迎えをしていて、その時の食べる量が過去最大だった。
ライジン曰く、とにかくお腹が空いている状態が続くらしい。その時は村と高校までの距離が相当あったので、大量のマナを消費していたのだろう。
ライジンが返ってからしばらく経ち、二人はロベルトにサプライズがあるという。なんだろと首を傾げるロベルトに二人は満面の笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。