第11話
011
A級ダンジョン『虹色の道』攻略初日。
この日、ロベルトのコメント欄は配信前にも関わらず多くの視聴者が集い賑わっていた。
というのも前日の休みの日に沙希とみなみ、そしてロベルトの三人が撮影した動画をアップしていたのだ。
その動画にて『虹色の道』を三人で踏破すると宣言していたのが理由である。
加えて沙希とみなみが高校の普通入試が難しいのでダンジョン攻略頑張るから、学校関係者さん推薦して下さいとアピール。
二人の切実な願いにコメント欄が草を生やす。
最後に女帝――麗奈が保護者として出演。
『虹色の道』踏破者の一人でもある麗奈が、自信を持って踏破出来ると言い切り、加えて、
『明日、明後日の配信内で全ての探索者、魔法士が驚くような事が起きるわ。いえ世界中の人が驚くことになるかもね。事案が起きたら公式の方で発表するから楽しみにしててね』
と、匂わせて動画を締めた。
実は『虹色の道』の踏破時の映像は残されていない。
麗奈が現役の頃、ダンジョン内で配信を行う技術、システムが構築されていなかった為、カメラマンを同行させて撮影し、後日動画を流すしか当時は方法がなかった。
今回踏破すれば初めての映像となるだろう。
故に視聴者達の期待は大きい。
普段動画や配信に出ない麗奈が踏破出来ると言ったことや匂わせの件も話題を集め、配信前には既に去年の混合チーム戦以上の視聴者が集まっていた。
▽▼▽
配信は前回同様、ロベルトの「どんぶり飯は〜」の挨拶から開始された。
そしてロベルトに紹介され沙希とみなみが出て来るとコメント欄が騒つく。
二人はいつもと同じジャージ姿。
そんな二人を心配して、騒つくコメント欄にみなみが気づき、
「はぁ。今日は心配性のおじたんが多いんなー。みなみたちは最強なんだよー!」
「そうだそうだ!皆沙希たちのこと舐めすぎー」
「こらーコメント欄。草食わすぞー!」
「草でも口に突っ込んどけー!」
と、二人は普段と変わらない様子。
それに対してロベルトはソロ配信では使っていなかった大きな盾を背負っている。
シールドブロックの魔法を習得している今、必要ががないようにも見えるが万が一に備えて、半年ぶりに大盾を持って来ていた。
ロベルトの装備は大盾にロングソード。
沙希とみなみはいつも背負っていた大きなリュックサックがなく、替わりに沙希が肩掛け鞄を身体に巻いているだけ。
二人が手ぶらなこともあって、ここでも心配するコメントが流れ出す。
これに対して沙希とみなみがポケットから銀色の筒――魔道具を取り出して起動。
手に持つ魔道具は一瞬で淡い光を放つ剣となり、それはまるでライトセーバーのよう。
沙希とみなみが「ウチらはこれがある」とドヤ顔で胸を張るが、これにコメント欄が「オモチャ自慢しないで」と茶化す。
「オモチャじゃないんですけどー!ほら皆見てー!石も斬れるんだよー」
「魔法も弾くんだぞ!」
「うおー!まじか。カッコいいじゃん!二人ともそんなん先に教えてよー!」
「実はおいたんの分もあるんだよー」
「うおぉぉぉぉ!いいの?!いいの?!」
「おいたんも今日からじぇだいの騎士!」
「今日はスターウォーズごっこしよ!」
ライトセーバーにコメント欄に湧く。
実はこのライトセーバー、未発売のもので初お披露目。
未発売の理由は起動する難易度が高く、起動出来る探索者が限られてしまうから。
剣を出すこと自体が難しく、魔力糸同様に物体を経由して魔力を放出するのが難しいのである。
因みにこのライトセーバーを作るきっかけになったのは沙希の父親がスターウォーズ好きでよく見ており、それを沙希とみなみに布教した結果見事にハマり、麗奈にお願いして作って貰ったのだ。
もちろん沙希の父親も現在愛用している。
そしてライトセーバーを貰ったロベルトは嬉しそうに飛び上がり、その姿は誕生日プレゼントを貰う子供の様で本当に嬉しそう。
早速起動させてみるが上手く起動出来ず、沙希からコツを教わると、少し練習しただけで出来るようになった。
それから沙希を先頭に探索を開始。
三人は探索とは思えないくらいの異常な速度で森の中を駆けていく。
程なくしていくつか魔物が出て来るが、上層域によく出る小物なのでスルーし、ドンドン森の奥へと進む。
しばらく進むと中層域に生息する魔物が出て来るようになった。
ロベルトは現在沙希とみなみ、二人の後ろを走るがシールド魔法を自由に飛ばせる今、パーティーでやっていた頃と変わらず後ろからでも盾士としてフォロー出来る。
向かってくる魔物が二人に接敵する前、ロベルトはここだというタイミングでシールドを飛ばす。
魔物達はシールドで動きが止められ、間髪入れずに二人が魔物を仕留めた。
「うおー!おいたん凄い。めっちゃ楽だったよ」
「そうそう。いいタイミングだった。流石経験者だよー!」
「みなみたち、あんまりシールド使わないから勉強になるよー!」
「だねー。それに三人だと楽しいよねー!」
沙希とみなみがロベルトを褒めまくった。
ロベルトはパーティーでやっていた時と変わらず盾士として役割を果たしただけである。
しかし二人には新鮮らしい。
話を聞けば盾士と一緒に魔物と戦ったことが無く、こんなに楽を出来るとは思ってなかったという。
そもそも魔物と戦う時はいつも二人で戦っていたので、こういった誰かにフォローしてもらうこと自体が初めて。
楽しいねと言いながら笑い合う沙希とみなみ。
ロベルトはそんな二人の笑顔を見て和む。
それから時間を置かずに再び魔物が現れる。
オーガ四体だ。叫びながら向かってくる。
初めに動いたのがロベルト。
すぐにシールド魔法を飛ばしオーガの突進を抑え動きを封じ、続けてオーガ達の背後にシールドブロックを作った。
沙希とみなみが背後に作られたシールドブロックの意図に気付き、ニカッと笑う。
沙希とみなみはシールドブロックに魔力糸を射出。そして魔力糸に引き寄せられ、飛びながらスパスパとオーガ達の首を斬っていく。
ロベルトが作ったシールドブロックの高さも丁度良い感じに作られており、オーガ達は一瞬で命を落とす。
「おいたん!今のこれで正解?」
「おう!流石だな二人とも」
「面白かったー!一瞬何かなと思ったけど」
「楽しい楽しい!おいたん違うのもやって!次、何やるのー」
予想していなかった連携に沙希とみなみがはしゃぐ。
ロベルトはこの時、改めてパーティーでの戦闘の面白さを知った。
自分が思い描くイメージを二人が汲み取り、それに呼応して二人が動いて仕留める。
ロベルトには初めての経験。
やってみたら充実感に満たされ、めちゃくちゃ楽しかった。
麗奈から渡された連携の資料にハマると最高に気持ちいいと書いてあったことは本当だった。
そして沙希とみなみが次行こうと急かす。
ロベルトは魔石を回収していないことに気づき、沙希を呼び止める。
「沙希ちゃん。魔石回収しないの?」
「もうしてあるよー!ほらー」
「え。いつの間に?」
「おいたん。こうするんだよー!」
「え。消えた――うわ!瞬間移動した?スゲェー何それ?何それ?」
みなみがドロップ品の回収を実際にやって見せる。
沙希の手のひらにあった魔石が一瞬で消え、みなみの手のひらへと移動。
ロベルトは何が起きたのか分からなかった。
詳しく聞くと、二人はアニメでやってたからたくさん練習したという。
そんなことあるのか?とロベルトは内心思ったが口には出さなかった。
それは二人の瞳があまりにも真っ直ぐだったから。
なるほど、と思いロベルトは深く考えることを放棄した。どの道自分には理解出来ないと。
▽▼▽
三人がA級ダンジョン『虹色の道』を探索していた頃、魔法士協会の観覧ロビーでは三百人を超える魔法士達が三人の探索を見守っていた。
任務で出ている魔法士を除き、ほぼ全ての魔法士が三人の探索に注目。
その中には背が小さく幼顔の幼女の姿もあった。
この幼女――神崎雫、B級魔法士。
組織の上位層の一人でもある。
小さな体躯ではあるが二十歳を超えており、成人した女性で大学生。
神崎はぽかんと口を開けたまま、視線は三人を映す画面に釘付けだった。
その理由というのが沙希とみなみがポケットから取り出した魔道具――ライトセーバー。
彼女はこれまでに何度も何度も見てきた。
憧れであり、自分が魔法を始めたきっかけでもあるスターウォーズ。
教えられたのは父親だった。
マスターヨーダの勇姿を見せられ小さくても強くなれることを教わった。
ジェダイの証であり、夢にまで見たライトセーバーが二人の手元に。
胸の奥から情熱が溢れ出し、やっと本物に出会えたことに涙が出そうだった。
しかもスパッと石まで斬って、魔法まで弾いている。あれは紛れもない純正品。
早る気持ちをグッと堪え彼女は探索を見守る。
しばらくすると沙希とみなみがドロップ品を回収する映像が映し出された。
沙希の手のひらにあった魔石が一瞬でみなみの手のひらに。
思わず神崎は立ち上がり……呟く。
「あれは……フォース」
その驚愕の事実を目にした神崎。彼女の足は自然と更衣室へと向かっていた。
そして自分のロッカーにある二つの正装を手に取り悩む。
ジェダイの騎士とダースベイダー。
どちらで会いに行くべきか。
彼女はしばらく悩んだ後、ダースベイダーの衣装を手に取り着替え始めた。
更衣室を出ると何故か呼び止められる。
「おーい神崎ちゃーん。お前まさかその格好で外に出るんじゃねーだろうな?」
「ふっ。君は確かオビ=ナシだったかな?」
「ふざけんじゃねー!誰が帯なしなんだよ!」
呼び止めた男は雨宮。
彼はそのチャラい見た目に反して、組織内では面倒見がいいことで定評のある男。
雨宮はロベルトの配信で神崎の大好きなライトセーバーが出てから神崎の動向を見守っていたのである。
そして更衣室から出てきた神崎は雨宮の予想通り、ダースベイダーの格好で出てきた。
しかもしっかりとマスクまで装着して。
「ちょっと待て!どこに行こうとしてる?」
「ん。フォースの導くままに」
「かぁー!相変わらず話が通じねー!神崎ちゃん忘れたんか?こないだ室長から接触は控えろって言われたじゃんか」
神崎は足を止め雨宮を見向く。
そういえばそんなことを言われた気がする。
彼女は思い返す。
思い返すがどうも記憶にないようだ。と強引に結論を出し、このまま誤魔化そうと芝居を打つ。
「ん。そもそも我は神崎ではないぞ!」
「どー見ても神崎ちゃんだろ!その身長は」
「ふむ。少しフォースを使いすぎたか」
「神崎ちゃーん?誤魔化そうとしても無理だかんな!お前の面倒、何年見てきてると思ってんだよ!」
雨宮は神崎が高校生の時に魔法士協会に入ってから何かと気にかけて面倒を見ている。
神崎の暴走を雨宮が止める。
もはやここではよく見る光景であり、周囲の目もまたやってると微笑ましく見守っていた。
渾身の芝居を一瞬で見破られた神崎。
だがこんなことでは諦められない。
夢にまで見たライトセーバー。
作ってくれる魔道具メーカーを探し回った時もあった。
何が何でも手に入れる。
強い意志と情熱を持って神崎は思考を巡らせ、最終手段に打ってでる。
長年温めていた最後の切り札。賭けになってしまうが最後のカードを切ることにした。
「あっ、凛さーん!凛さーん!」
「は。どこに居んだよ神崎ちゃん?凛さんいねーじゃねーかよ!――ってクソッ逃げやがった!おーい!誰でもいいから神崎ちゃん捕まえてくれ!」
神崎は会議室の方を見上げて手を振り、雨宮の想い人、凛の名前を出し注意を逸らす。
釣られて雨宮が振り返った瞬間、神崎が全力で逃げ出した。
あまりにも姑息。
逃げ出す神崎を一部始終見ていた魔法士達が捕まえてようとするが、スルスルと躱し人混みを抜けていく。
神崎は小さいながらその機敏さは魔法士協会の中でもトップ。
そう簡単には捕まらない。
こうして逃げ延びた小さなダースベイダーは街の中へと解き放たれた。
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