短編語り草集

鈴代羊@執筆作業渋滞中

第1話 横断歩道

 とある小学生の男の子が作文を発表しています。

 その少年の名前は健太けんたくん、運動が得意な元気な男の子です。

 彼の父は警察官で交通のお仕事をしています、彼のお祖父ちゃんは昔は父と同じお仕事をしていましたが、としで引退してからは近所の子供たちの登下校を見守るボランティア活動を積極的にしています。



 そんな、お祖父ちゃんとお父さんから聞いた話をします。

 お祖父ちゃんは僕の通っている学校の前にある横断歩道の話をし始めました。    

 お祖父ちゃんは子供の頃に同じ学校に通っていたすみれちゃんというクラスで一番可愛い女の子がいたそうです。お祖父ちゃんは仲良く、その子とは近所でよく登下校を一緒に行っていたそうです。

 そんなある日、菫ちゃんは事後で亡くなりました。

 学校前の横断歩道でわき見運転をしていた車に引かれて、亡くなりました。

 お祖父ちゃんは家に帰ると、何年も前に亡くなった僕のひいお祖母ちゃんに抱きついていっぱい泣いたそうです。

 それから数週間後のある日、お祖父ちゃんが下校しようとすると、菫ちゃんが横断歩道の前でお祖父ちゃんを待っていました。

 お祖父ちゃんは菫ちゃんと手をつなごうとしましたが、菫ちゃんは嫌がってはいませんが断ります。

 不思議に思っていると、菫ちゃんは

「私、さびしくて向こうに行けないんだ」

 とかなしみをにじませながらお祖父ちゃんに言いました。お祖父ちゃんは一緒に帰ろうと言い、菫ちゃんと手を繋ぎ、逆の手でピンッと真っ直ぐ手を上に上げて横断歩道を菫ちゃんと渡りました。

 横断歩道を渡りきり、お祖父ちゃんが菫ちゃんのほうを見ると、菫ちゃんはいませんでした。おかしいです、菫ちゃんとはずっと手を繋いでいました。横断歩道を渡る時は車はちゃんと止まっていました。

 お祖父ちゃんは家に帰ってご飯を食べている時に、その答えにたどり着きました。菫ちゃんは、もう寂しくなくなって向こうに行っちゃったんだ、とお祖父ちゃんはまた、亡くなった僕のひいお祖母ちゃんに泣きながら抱きついたそうです。



 それから数十年後、お祖父ちゃんが父親になり、僕のお父さんが同じ学校に通っている頃、下校の時に横断歩道で菫ちゃんを見つけました。

 菫ちゃんは小学生の姿ではなく、大学生ほどで右手には杖をついていたそうです。

 あとで知った話ですけど、亡くなった人は身体の一部の機能が機能しなくなるそうです。菫ちゃんの場合は目でした。

 お父さんは菫ちゃんの杖をついていない手を繋ぎ、一緒に横断歩道を渡ったそうです。お父さんが菫ちゃんのほうを見ると、菫ちゃんの姿はまたいなくなっていました。



 それから数十年後の今年の今日、僕は登校中に菫ちゃんを横断歩道に見つけました。

 菫ちゃんの姿は小学生でもなく、大学生ほどでもなく、腰が曲がり杖をついているお祖母ちゃんでした。

 僕はお祖母ちゃんの杖をついていない手を繋ぎ、横断歩道を渡りました。僕が菫ちゃんのほうを見ると、菫ちゃんはしっかりと目の前にいました。菫ちゃんはいなくなっていませんでした。

 僕は菫ちゃんと一緒に学校に来て、今日の授業参観にはお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、お父さんとお母さん……そして、菫ちゃんが一緒に、僕の姿を見てくれています。

 その一文で作文は締められた。


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