第5話 テスト結果 

 お泊まりからあっという間に1ヶ月が経った。


 あの日は結局日をまたいだあたりで犬飼いぬかいさんよりも先に寝てしまって、起きたときにはオセロは0対64で負けていた。私が寝たあとにズルをしたんだろう、多分写真もたくさん撮られていると思う。


 最近は時間が過ぎるのが本当に早い。これまでは学校が長いと思っていたけれど最近は犬飼さんを眺めていると気付けば6限終了のチャイムが鳴っている。


椿つばきちゃん、期末テストの順位なんだけどさ……」

 朝にテストの順位が返却されてから様子のおかしい犬飼さんがうつむきながらふらつきながら話しかけてくる。

 

 そういえば彗星を一緒に見に行く約束とかしてたっけ。結構勉強頑張ってたし赤点は回避してるだろうけど正直に言うとトップテンは厳しいと思う。


「トップテン入れなかったよ~」

 目を潤ませながら抱きついてくる。


「はいはい、泣かないの」

「でも椿ちゃんと彗星見たかった……」

 犬飼さんの悲しそうな顔を見るとお願いを聞いてあげたくなってしまう。


「まあ一回椅子に座って落ち着きなさい。私がなんて言ったか覚えてる?」

 私は犬飼さんに席を譲ってから問いかけてみる。


「たしか『期末テストで学年順位が10位以内に入ったら一緒に彗星を見に行ってあげてもいい』って言ってた……」

「10位に入らなかったら一緒に彗星見ないって言ったかしら?」

 こじつけだった。ほんとは10位に入らなかったら見に行くつもりはなかったけど、2ヶ月付き合ってみて私も一緒に彗星を見たいと思った。


「言ってない……」

「じゃあ泣くことないでしょ、涙拭きなさい」

 ハンカチを差し出すと、犬飼さんはきょとんとして私を見上げてくる。


「えっと……どういうこと?」

 犬飼さんってこういうところは鈍感なのよね。


「まだわからないの?一緒に彗星見に行くって言ってるの」

 そう言うと、目をキラキラとさせた犬飼さんが抱きついてくる。


「椿ちゃんありがと~」

 暑苦しいし、涙を人の制服で拭うのはやめて欲しい。だけど私の腕の中で泣いている犬飼さんを離したくないとも思った。


「クリスマスに彗星が見れるらしいからついでに見るだけよ。もし行かなかったらクリスマスデートもなくなっちゃうでしょ?」

「椿ちゃん……彗星がいつ見れるか調べてくれてるの?」

 私の制服に埋めていた顔をひょいと出して上目遣いで聞いてくる。


「別に彗星とかクリスマスとか楽しみにしてたわけじゃないけど?犬飼さんが悲しむのが嫌だっただけで……」

「ほんと椿ちゃんはツンデレなんだから」

 最近は私のほうがからかわれてばかりだ。


「私今日はひとりで帰るから……」

 クリスマスプレゼントを一緒に見に行こうと思ったけど、犬飼さんのことを考えてばかりなのがバレたのに一緒に買い物するのは嫌だからやめることにした。


「じゃあ私も友達と帰ろ~」

 最近は犬飼さんが友達と話しているだけでも落ち着かない。


「尻軽女……」

 無意識にそんなことをつぶやいてしまっていた。犬飼さんを傷つけようと思ったわけではない。

「嫉妬してるのかわいいね~」


 犬飼さんはくるっと踵を返して通学バッグを肩にかけ、友達の方に駆けていく。

 友達と帰ってる姿を眺めてるだけなのに、胸がきゅっと締め付けられるような感じがした。


 ◇


 前々から選んでおいたマフラーをショッピングモールで買ってラッピング袋に入れてもらった。用事も済んだしさっさと帰って最近あんまり読めてない本を読もう。


 エスカレーターに向かっているとアクセサリーショップで犬飼さんが友達といるのを見かけてしまった。確か森田もりたさんだっけ?

 

 店内に入ってふたりの会話に聞き耳を立てる。


「やっぱこっちのブレスレットのほうが似合うかもな~」

「どっちでもいいんじゃない?」

「一生使って欲しいから大人になっても使えるようなやつがいいの!」

「桜はほんと一途だな~」

 森田さんが犬飼さんの頭をぽんぽんしているのを見て何かがぷつりと切れた。


「なにやってんのよ」

 気付けば声をかけていた。

「椿ちゃん!?これは浮気とかじゃなくて、クリスマスプレゼント一緒に選んでもらおうと思っただけだから!」


「じゃあさっき頭ぽんぽんされてまんざらでもなさそうだったのはどういうこと?」

 私は目の奥がぐっと熱くなっているのを感じながら問い詰める。


「それは……」

「ごめんね藤宮さん嫌だったよね」

 森田さんが深々と頭を下げてくる。


「私にとって桜は友達だけど藤宮さんにとっては大切な恋人だもんね。心配させちゃったのは本当にごめん。だけど桜はサプライズでプレゼントしたいって言ってるから今日だけふたりで買い物させてくれないかな?」

 顔を上げて事情を説明してくれた。だけど私にそれを話しちゃうとサプライズじゃなくなると思う。


「話しちゃったらもうサプライズじゃないじゃん!」

「確かにそうだね」

 あははと笑い合うふたりを見るとなぜかもやもやしてしまう。だけど犬飼の笑顔を見れたのでプラマイゼロだ。


「クリスマスは絶対私と過ごしてよね」

「当たり前じゃん!」

 犬飼さんがサムズアップしてくる。


「すみませんお客様、もう少し声のボリュームを下げていただけませんか?」

 気付けば店内の視線が私たちに刺さっていた。

「ごめんなさい」

 そう言ってお店をあとにする。


 いつも左にいる温かみがない分今日の帰り道は寒い。

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