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「ありがとうございましたー!」


小さな声でそう言って、荷物を受け取った客に軽く頭を下げる。

二股のしっぽがふわりと揺れ、鈴がちりんと鳴った。

依頼を終えてホッと息をつき、腕の中の伝票を確認する。――これで本日の配達は終了だ。


思えば、あの街道をただ歩いていた頃が嘘のようだ。

森を抜け、足を進めて、気づけば石畳の広がる大きな城塞都市に辿り着いていた。


時は過ぎ、一週間後。

ここ――〈グラン=フォルティア〉と呼ばれる城塞都市で、私は相変わらず配達をしていた。


幸い、仕事には困らなかった。

この世界でも、物を運ぶ者は重宝される。まして私にはスキル【宅配】がある。

手をかざせば荷物を安全に預かり、指定された場所に確実に届けられる。

さらに、スキルには空間収納の特性が付いていた。


「……トラック分の容量、か」


思わず独り言を呟く。

前世で慣れ親しんだ数字に思わず苦笑する。

ただ、この世界では馬車が荷物を満載しても到底入りきらないような量だ。それを私ひとりで運べるのだから、依頼人たちの評判は上々だった。


「助かるよ、クロちゃん!」

「さすが、猫の嬢ちゃんだな!」

「猫のお姉ちゃんだ!」


そう声をかけられるたび、胸の奥がくすぐったくなる。

今では街の風物詩にもなっているようだ。

リアルではただの三十路の配達員。けれど今は、猫耳と二股のしっぽを揺らしながら、街の中を駆け回る小柄な猫又配達員。


「……それにしても」


私は街角で立ち止まり、周囲を見渡す。

商人、冒険者、兵士――そして人間ばかりではなく、獣人の姿も混じっている。

耳や尾を持つ者、体に鱗を生やした者、角を持つ者。


「……ちゃんと、私らしい獣人もいるんだな」


思わず胸を撫で下ろす。

もしこの街に私しか“異形”がいなかったら、と考えると胃が痛くなっていた。

けれど、どうやらそういう心配はないらしい。


二股のしっぽを軽く振って歩き出す。鈴がまた鳴り、今日もまた、次の配達へと私を誘っていた。


ただ、一つだけ困ったことがある。


「……どうも、女の子として見られてるらしいんだよな」


何度も「いやいやいや!私は男だって!!」と説明しているのに、この小柄な身長、華奢な体つき、外ハネした長髪と…あとこの声……完全に女の子として扱われてしまう。


「そこのお嬢ちゃん、配達ご苦労さん!」

「ちっちゃいのに偉いねぇ、気をつけて帰るんだよ」


――どこに行っても“お嬢ちゃん”だ。


「……いや、男なんだけど……」


小さくぼやいてもしっぽの鈴がちりんと鳴るばかり。説明すればするほど相手は首を傾げ、「冗談はやめなよ」と笑って取り合ってくれない。


……ただ、まぁ。悪い気はしない。


配信者――猫山クロとして活動していた頃、ファンアートでは女の子にされることも多かった。セーラー服やメイド服、時にはドレス姿。最初は照れくさかったが、正直、嫌ではなかった。むしろ、そういう絵を自分から「もっと見たい」と思っていたくらいだ。


「……でもなぁ」


都市の中心部の噴水の前。

私は立ち止まり、水面に映る自分の姿を覗き込む。

緑のニット帽から伸びる猫耳、結ばれたTシャツの裾から覗くへそ、小さなスニーカー。

どこからどう見ても、女の子にしか見えない。


「……この姿で女装って……」


ぽつりと呟き、すぐに頭を振った。

うん、考えるのはやめておこう。

余計なことを考えると、余計に恥ずかしくなる。


「まぁ、似合うとは思うけどさ……」


二股のしっぽを揺らしながら歩き出す。

鈴がまた小さく鳴り、胸の奥のざわめきを紛らわせるように響いた。

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クロネコ配達日記 タカ丸 @MixP1125

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