第4話:風の神官 ベルという女
(リディアベル視点)
サナを追い出した翌日。
“清らかな風”の面々は、ギルド職員の立会の元、新たな魔術師の加入手続きを行っていた。
優雅な手つきで書類へサインする魔術師の細い指から、顔へと目を移す。
魔法王国でも名高い、風魔術師の名門――フリューベイル子爵家。
その四男、アレクシオン=フリューベイルは、推薦状を持ち、魔法学校を繰り上げ卒業するほどの風魔術師らしい。
わずかに淡い緑を返す金髪は、長く美しく整えられ、
女性と見違えるほどの顔立ちは、優しく包み込むような温かさの中に、かすかな鋭さを宿している。
派手で見栄えが良い風魔法を使う彼のパーティーへの加入希望に、私はあの地味女を追い出してまで答えたのだ。
――そう、私の夢をかなえるために。
リディアベル=クロスヴォートは、帝国の交易都市クロスヴォートを治める子爵家の三女として生を受けた。
しかし、妾腹のリディアベルの待遇は、決して良いものではなかった。
旅の踊り子であったお母さまは、アイツ……父親の誘いを断ることができず、私を身ごもり、生んだと同時に追い出されたらしい。
見た目が良くなりそうな子供だった私は、貴族として最低限の礼儀教育を受けた後、“問題なく生活できるように”と監視の日々を送ることになった。
私はこのまま、アイツの手ごまとして生きるのなんて、まっぴらごめんだった。教会では清貧に暮らすその裏で司祭を篭絡し、熱心な信徒の証である“聖印”を発行させた。
その後、婚約の話が上がり、子爵家に戻されそうになった時、私は教会から脱走し、姿をくらませた。
巡礼の旅と称して国境を越え、いくつかの街を経た後に“ベル”という名で冒険者になった。
そしてすぐさまギルドの職員を誑し込み、有望そうな冒険者を集めたパーティー“清らかな風”を結成した。
私の見た目と話術、そして聖印を“強い奇跡が使える証”として演出した結果、パーティーの中でも中心的な人物として認められるようになった。
私の目標は冒険者として成り上がり、父親であるクロスヴォート子爵を見返すことだ。一般的な冒険者は、粗野で聖印のことも知らないように学がない者ばかりだ。
しかし、英雄と呼ばれるような高位の冒険者は、貴族に匹敵するような名声と経済力を持つものもいるという。最悪、私自身がそんな冒険者になれなくても、この美貌を駆使して、英雄の妻となることはできるだろう。
どちらにしろ、冒険者との出会いを求めるなら、私も冒険者になった方が、都合がよかったし、生活の糧を得る必要もあった。
結成してしばらくした後、魔術師の男が離脱したのは想定外だったが、残りの三人は、私を聖女のように崇め、下僕のように尽くしてくれるようになった。
このパーティーを捨てるのはもったいなく、パーティーメンバーの補充という形で、魔術師を補充して、パーティーの活動を続けた。
ここが一つの転機だったのかもしれない。補充された魔術師の男は、体も気も小さい貧弱な男で、私は優しく接する一方で、パーティーの報告書の作成や道具の補充などの雑用を徐々に押し付けることに成功した。
その男が気を病みパーティーを抜けたら、誑かしたギルド職員の男を使ってパーティー離脱の理由を改ざんし、似たように気の弱い魔術師を採用することを繰り返した。
――パーティーの実力についていけないようになったから。
――ベルに近づくのが目的で、最近は付きまといまでしている。
――雑務を請け負うと言いながらパーティー資金に手を付けていたから。
解雇の理由を毎回変えておけば、不審に思われるどころか、むしろ私には気遣いや励ましの言葉が向けられた。
十分な実績を積み、そろそろより高いランクのダンジョンがある街へと移動しようというとき……
この街での最後の魔術師としてパーティー加入させたのが、あの地味女――サナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます