第10話 始まりは始まりを連れてくる

 食事が終わり、ソフィアはトレイを片付けて食堂を出た。フーヤオは、人間の姿のまま彼女の隣を歩いている。周囲の生徒たちはまだ二人の姿に好奇の視線を向けていたが、彼らは何も気にしないように廊下を進んだ。

「いやぁ、人間というものは、なかなかに面白いものじゃな!余の姿を見ただけで、あれほどの騒ぎになるとは思わなんだ」

 フーヤオは、楽しそうに笑いながら言った。彼は舞台役者のように、食堂での出来事を振り返っている。

「……」

 ソフィアは何も言わず、ただ前を見て歩いていた。

「黙りこくってばかりだが、どうしたソフィア。余の態度がそんなに気に食わなかったか?」

 フーヤオは、少しだけ心配そうにソフィアの顔を覗き込んだ。彼の声には、いつもの明るさに加えて、かすかな不安が混じっていた。

「……別に」

 ソフィアは、顔をそむけて答えた。

「嘘をつけ、余には分かるぞ」

 フーヤオは、ソフィアの心を見透かすかのように言った。

「……何でもないから」

 ソフィアは、それ以上言葉を続けなかった。その時、彼女の瞳にほんの一瞬だけ、感情の光が灯ったような気がした。それは困惑か、それともかすかな安堵か。フーヤオは、その小さな変化を見逃さなかった。

「……そうか」

 彼は、それ以上は聞かなかった。ソフィアが、少しずつでも心を開いていくことを願って、ただ静かに彼女の隣を歩いた。


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 部屋に戻ると、机の上に一通の手紙が置かれていた。ソフィアが手にとると、それは学園長からのものだった。

「およ?ソフィア、手紙が置いてあるぞ?」

 フーヤオは、人間体のまま、ソフィアの肩越しに手紙を覗き込んだ。

「……学園長から?」

 ソフィアが封を開けると、中には簡潔なメッセージが書かれていた。

『ソフィアさんへ

 明日から、生徒たちをよろしくお願いします。学年は1年のみですが、担当していただくクラスは一週間ごとに変わります。今週はアエルとなります。

 改めてになりますが、よろしくお願いします。』

 ソフィアは、その手紙をじっと見つめる。明日から、彼女は「監督生」として、魔力を持つ生徒たちの中に身を置くことになる。

「……頑張らなきゃ」

 ソフィアの口から、無意識に言葉がこぼれ落ちた。それは、自分自身に言い聞かせているようでもあり、誰かの期待に応えようとしているようでもあった。

「そうじゃな」

 フーヤオは、ソフィアの頭にそっと手を乗せた。彼の声は、静かに、そして力強く響いた。

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