第3話
─レティーラ王国西部バルドン伯爵領に、とある少年がいました。その少年は生まれた時から体が弱く、病もあり、幼い頃には親を亡くし、路頭に迷いました。そこに、亡くした病弱な息子の面影を見出したバルドン前伯爵は彼を養子に迎えました。しかし、高齢だった前伯爵は亡くなってしまいます。後ろ盾を失った彼は、現伯爵の令嬢に、無理な体を動かし雑用をさせられます。そして、伯爵令嬢がセレスティナ貴族学園に入学することが決まると、少年も世話係として共に入学することが決まりました。その少年は体を動かしすぎたせいで、必要最低限しか喋らない、動かない様になるのでした─
「これが師匠の役となります」
あまりにもぶっ飛びすぎた設定で話にならない。
こんな作り物感満載の設定、逆にバレてしまうのではないか?
「潜入する七賢者の方々にはこれくらいの設定を追加しておきました。 これほど盛っておけばそうそう詮索されないでしょうからね。
ちなみに、『夢見の魔女』殿は師匠の幼馴染であり、師匠と共にバルドン伯爵領の世話係として編入させます。 体が不自由な少年を支える少女という設定なので覚えておいてください。
あと、『沈黙の魔女』殿については、東部のザガン伯爵についていくようにしております」
「助かる」
1人で体が不自由な設定なら出来ることは限られるが、ペアしかも親友とも呼べる『夢見の魔女』がいるなら心配はない。
懸念材料であった『沈黙の魔女』が別行動なら、もう心配は何も無い。
「王子殿下と王女殿下、どちらを重点的に護衛すればいい?」
「…そうですね。 『沈黙の魔女』殿はフィリップ殿下を任せていますので、セフィル殿下の重点的にお願い致します。 勿論、二人ですので両方を護衛するのが望ましいですが」
たしかに、護衛をするうえで3人もいれば2人は護衛、1人はサポートに回れる。
『沈黙の魔女』と会うのは忍ばれるものの、納得の行動である。
しかし、そこで思い出す。
「…待て、そうなるとバルドン伯爵令嬢も入学することになるぞ」
「おや、『沈黙の魔女』殿と全く同じことをおっしゃるとは…」
「黙れ」
「コホン。 …事前にバルドン伯爵に話をつけ、一人娘のイザベル嬢に協力させてもらいます」
ミリアはここ最近で一番驚いた顔をしたと自覚した。
ここまで馬鹿な設定を許容するとは思えなかったからだ。
「変な手を使って脅迫まがいなことはさせていないだろうな」
「そこは勿論です。 そもそもそのような手を使う必要すらありませんでした。
以前バルドン伯爵領で2つの厄災並びに翼竜の群れに対処された時のことは覚えていますか?」
「あぁ」
覚えているも何も、つい1ヶ月前に対処したばかりの案件である。
「その恩は一生ものだと仰った時はもう清々しい気分でした。 まさかあれほどまでうまくいくとは思はなかったので」
「質問は以上。 ご苦労だ、帰れ」
そうして彼はまたもやはたき出した。
潜入に協力させてもらうバルドン伯爵、伯爵令嬢への挨拶へ向かうのは明日。
今日で準備を終わらせなければならない。
* * *
夜になり、支度を終えてからは、ミリアは俯いていた。
ネロとメロを両脇に抱えてだ。
「ちょ、苦しいって!」
「今回は賛成! 苦しいんですけど!」
「…んぁ、ごめん」
彼はそう言い二匹を放す。
「ねぇミリア、心配そうにしてるけど、そもそも貴方に護衛なんて出来るの?」
「舐めるな、私でもそれぐらいはできる。
問題は貴族学園に潜入することだ」
そう、彼にとって、護衛の難度は高いが、出来ないほどではない。
しかし、学園生活に関しては、全くをもって自信がないのである。
ミリアはかつてセレスティナ貴族学園も含まれる三大学園の内ゴードン魔術学園に通っていたが、魔術師を目指し入学する者は貴族が多かった。
もちろん庶民もいたが、割合は貴族が9割である。
そんな状況であればいじめが多発するものだが、ミリアはいじめに遭わなかった。
逆にいじめを助けると、いじめてる奴らはミリア達近づかなくなった。
なんやかんやあって、ミリアが論文を発表してからは妬みの目で見られることが多くなった。
というような経緯の学園生活のため、普通の学園生活を演じられる気がしなかったのだ。
「ミリア、前向きに考えましょう?
例えば『沈黙』ちゃんと仲良くなるチャンスじゃない!」
「…いや、それは…」
「もしくは『夢見』とももっと仲良くなれるかもしれねえぜ!」
「う〜ん…」
ミリアは『夢見の魔女』とはもっと仲良くなりたいものの、『沈黙の魔女』と仲良くなりたいかどうかは微妙である。
というか、あまり近づきたくないのだ。
「いやもういい!
明日の自分に任せることにするぞ、私は!」
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