信仰深き世界に向けた一杯

ミト

喫茶店ディエス・ディヴェスへようこそ!


「リーベでまた紛争が起きたらしいですよ」


カフェには一人の客、常連のアルバスさんしか居ない。仕事も少しだけなので伝票を見ながら雑談を始めた。


「またか、まぁあそこは愛だもんなぁ…」


「そのせいで豆が高くなってね」


「どうせ修理代だろ?隠さなくてもいいよ」

そう言ってアルバスさんは鉄貨六枚を俺に渡した


「言いたいこと分かっちゃうかぁ!」


「まぁな、寂れた喫茶店に寄付だ」


「ありがとな、寂れたってのは余計だけど有り難く貰うよ」

 

「その代わりとして珈琲の挽き方教えてくれよな」


「もちろん」


「じゃあ明後日また来るから、その時に」


その一言を最後にアルバスさんはカフェを出た、喫茶店には鈴の音だけが響いていた


(ふぅ⋯疲れた⋯)


ため息混じりに席に腰掛けると

1日の疲れがどんと襲ってくるような感覚が生じ、全身の力を奪っていく

疲弊、という言葉が一番合っているだろうか

しかしながら、ただ疲れて居るだけだと何も進まない。ダラダラと立ち上がりキッチンへと向かった


開店前に挽いた豆を手に取り、温まっているドリッパーにフィルターをセットして⋯

お湯を沸かしたら中心から円を描くように、粉全体が湿る程度にお湯を注いで⋯

それを数分蒸らしたら今度はお湯を数回に分けて、中心から外側へ円を描くようにゆっくり注いで⋯目標の抽出量に達したためドリッパーを外せば⋯あとはカップに入れるだけ⋯


出来上がった一杯の珈琲を持って椅子に戻り、一息ついてから香りを楽しむ


窓からアルバスさんが香水店に入るのが見えた。また奥さんへのプレゼントだろうか⋯?

その光景を眺めて、珈琲を飲む

そんな静寂で豊かな時間は、突然の来客により壊されてしまった


「ルミナさーん?お店出てく準備は整いましたか〜?」


馬鹿にしたような声とあり得ない問いかけは、苛立ちを感じさせるには十分だった


「⋯言いましたよね、手放す気は無いって」


「⋯収入源この喫茶店だけですよね?私達としましては⋯ここで問題起こしても良いんですけどねぇ」


「それは困っちゃうなぁ⋯あ、扉越しで話すのもあれなんでどうぞ入ってくださいよ〜」


珈琲片手に扉を開く、すると二人の大男と貼り付けられた笑顔の男が立っていた


男は俺が珈琲を持つ手を動かすのを見た瞬間右に避け、苛立った様子で口を開いた


「「馬鹿にしてます?」」


俺と男の声が重なる

男は珈琲が掛けられていないこと

そして俺は 

「俺が、珈琲を、お客様に、かけるわけないですよね?」

珈琲への情熱を軽視されたことに


「大事にする気はなかったんですけどね」


「そうですか⋯」


男の目が開き、段階的に鋭くなっていく

男が指を鳴らし、二人の男に指示を送る

「道が狭いので一人ずつどうぞ〜」

珈琲をカウンターに置き、店内へと下がる


大男Aとでも名付けようか

その男の方へと軽快に飛び乗る、Aの後ろにいるBの顔面を蹴り飛ばすのと同時に体重を乗せてAの頭を床へ叩きつけた

充分だろうけど一応顎へ一蹴り入れていると

Bが汚れた顔で殴りかかってきていた

走って向かってくるもんだからその勢いを使って投げてみる⋯が⋯めっちゃ重いから作戦変更、肘で鳩尾殴って突き放す

男は呻いたが、そんな事気にせず急所を蹴り上げた男は少し悶え、顔が青くなって床に倒れる⋯可哀想に⋯


玄関に目をやると男は一切後退りもしないで俺を睨んでいる

「寂れた喫茶店ごときになんで?」


「秘密ですよ、お互い様ですね」


「⋯じゃあ俺も秘密で」


男がシャツのボタンを外し、ネックレスを曝け出す。三角形?のような飾りを額の前に置き、何かをブツブツと唱えている


「ルシ⋯⋯⋯よ⋯光⋯さず⋯⋯⋯」


「⋯信心深いんですね」


「えぇ、早く始めましょうか」

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