第3話 休日と年下男子

「うーん」

休日のショッピングモールは、多くの家族ずれやカップルで賑わっている。

そのキラキラに目がくらみそうになりながら、雑貨屋さんに入った。

引っ越しの際に荷物は運んだものの、クッションなどはダメになったものも多い。

部屋の雰囲気も変わったし、新しいものを選びに来たのだが―


「高いなぁ・・・」


可愛いふわふわなピンクのクッション、見た目は可愛らしいが、値段は可愛くない。


「さすがにアラサーでこれは・・・ダメかな」


まいはクッションを置くと、マグカップの方へ視線を移した。

コロンとした丸みを帯びた優しい曲線が特徴的なマグカップが目に入った。

白色の無地でシンプル。

部屋に置いても良さそうだ。

このマグカップに美味しいコーヒーを淹れて、のんびりと過ごすのもいい。


「舞さん、どうぞ」


高瀬たかせくんが笑顔でコーヒーの入ったマグカップを差し出してくれる姿を想像してして、一人で恥ずかしくなる。


(何想像してるんだか)


手を伸ばしてマグカップに触れようとすると、誰かと手が触れる。

同じマグカップを手に取ろうとしたようだ。


「あ、ごめんなさい」


「こちらこそ。・・・あれ?」


顔を上げると、高瀬が立っていた。


「こんにちは」

「こ、こんにちは」


高瀬は白いシャツに黒のジーパン姿でシンプルだが、スタイルの良さがより際立っている。

キラキラオーラが出ていて、目を閉じてしまいそうだ。


「お買い物ですか?」

「あ、えっと、はい。引っ越して、物が色々と」


先ほどまで高瀬のことを想像してせいで余計に胸がドキンと跳ねる。

そんな舞の姿に気にもせず、ニコッといつものように甘い笑顔を向けた。


「このマグカップいいですよね」

「えぇ。コロンとして可愛いし、これでコーヒー淹れたら美味しそうだなって」


恥ずかしさから早口になってしまう。

くすっと笑いながら、高瀬は落ち着いた声で「わかります」と頷いた。


「た、高瀬さんも買い物ですか?」


高瀬がきょとんとした顔でこっちを見ている。

そういえば、名前をお互い言ってない。

高瀬くんの名前知っているって、もしかしてまずいと気づいたが、今更言った言葉は戻せない。


「えっと、あの・・・」

誤魔化そうにも言葉が出てこない。

そんな舞に高瀬は爽やかなまま、「僕は仕事前に散歩がてら来てみたんです」と答えた。


「あ、そうなんですか・・・」


「あの・・・」

高瀬のクリっとした小動物のような可愛い瞳がこちらを見ている。

「は、はい」


「お名前、お伺いしてもいいですか?」


「私は、・・・永野ながのまいです」


「永野さんっていうんですね。お名前をお伺いしたいと思ってたんですけど、なかなかタイミングがなくて」


高瀬はそう言うと、照れくさそうに頬を掻いた。


「僕は、高瀬たかせ悠真ゆうまです」


「高瀬・・・悠真さん」


「はい。改めて宜しくお願いします」


高瀬がくしゃっと笑うと、マグカップを手に取った。


「このマグカップ、引っ越し祝いにプレゼントします」

「え、いや、そんなの悪いです」

舞が申し訳ないとマグカップに手を伸ばそうとすると、ひょいと高く持ち上げられる。

「これから仲良くしてくださいね」

そう言うと、高瀬はそのままレジへ向かった。


「はい、どうぞ」

高瀬から紙袋を受け取る。


「ありがとうございます!あ、あの、良ければなんですが、お茶しませんか?お礼に奢りますから」


当たって砕けろ精神で舞は思い切って高瀬を誘ってみた。

断られるリスクもあるが、お礼でお茶を誘うのは自然だ。


舞からの提案に高瀬が少し悩むように顎に手を当てた。


「いや、あの無理には・・・」

「いえ、お茶にはいきたいのですが、良ければ僕の行きたい店でもいいですか?」

「はい、ぜひ」


高瀬についていくと、ショッピングモールから10分ほど歩いたところにある、古民家カフェに着いた。


「こんなところにカフェがあったんですね」

「最近できたみたいで、コーヒーの味を試してみたかったんです」

窓際の席に案内されて腰を掛ける。

「高瀬さんって仕事熱心なんですね」

「いや、コーヒーが好きなだけです。アルバイトを始めてまだ3ヶ月くらいなんですよ」

「ご注文はお決まりでしょうか?」

店員さんに声をかけられメニューに目をやる。

「ホット」と言いかけて、高瀬が「えっと、永野さんはいつものでいいですか?」 とニコッと笑った。


「・・・ハイ」


「じゃあホット2つにミルクは1つで」


「かしこまりました」


自分の好みを覚えてくれているのはやっぱり嬉しい。

「高瀬さんはブラックで飲まれるんですね」

「はい。甘いのはそんなに得意じゃないんです」


向かい合って顔を見ていると、陶器のような綺麗な肌のハリ、きめの細かさが若さを物語っている。

美しい。

何を話そうか迷っていると、コーヒーが運ばれきた。

コーヒーの香ばしい匂いが漂い、思わず目を閉じて匂いを嗅ぐ。


「ふぅ」


舞が目を開くと、高瀬が柔らかく目を細めてこちらを見ている。


「あ・・すいません。なんだか幸せそうで見とれちゃいました」


高瀬の一言に顔が熱くなる。


「いい匂いですね」


高瀬も匂いを嗅ぐと、ゆっくり一口コーヒーを飲んだ。


「美味しい」


舞も一口飲んでみると、まろやかな苦みで、口当たりがよく、フルーティさも感じる。

「ほんとだ。美味しい」

「来てみて良かった。前から来たかったんですけど、なんとなく一人では行きづらくて」

辺りを見回すと、カップルや家族ずれが多い。

「永野さんのおかげで来れました。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げる高瀬が可愛くて、胸がときめいてしまう。

「お役に立てて良かったです」

その後はアルバイトがあるといつものカフェに高瀬は向かい、舞は家へ帰った。


コトン


テーブルに高瀬にもらったマグカップを置いてみる。

思った通り、部屋の雰囲気にあっている。


「プレゼント・・・もらっちゃったな」


嬉しくてマグカップを見てニヤついてしまう。

「これから仲良くか~」

引っ越してきてよかった。

舞はマグカップをそっと優しく撫でた。

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