第4話「歪んだ愛情と、絶対の執着」
俺に対するゼノンの執着は、日に日に増していった。
それは城の者たちにも伝わっており、特にゼノンの側近である魔族、ヴァルトは俺をあからさまに敵視していた。
彼は昔からゼノンに心酔しており、どこからともなく現れた俺という存在が気に入らないらしかった。
「魔王陛下は、あのような人間ごときにうつつを抜かして……」
俺が一人で廊下を歩いていると、ヴァルトが嫌味っぽく話しかけてくるのは日常茶飯事だった。
俺はいつも無視を決め込んでいたが、その日は違った。
「陛下のお心も、いずれ貴様から離れる。所詮、人間は脆弱な生き物だからな」
そう言うと、ヴァルトは懐から小さなナイフを取り出した。
その刃には、禍々しい紫色の光が宿っている。毒か、呪いか。
「貴様のその顔に、少し傷をつけて差し上げよう」
ヴァルトがナイフを振り上げた瞬間、彼の腕が背後から現れた何者かに掴まれた。
見ると、そこには氷のように冷たい表情を浮かべたゼノンが立っていた。
「……ゼノン」
「今、何をしようとした?」
地を這うような低い声。
それは、俺が今まで聞いた中で最も冷たく、怒りに満ちた声だった。
ヴァルトの顔から一瞬で血の気が引く。
「ち、違います、陛下! 私はただ、この無礼な人間を教育しようと……」
「黙れ。俺の物に、誰が触れていいと言った?」
ゼノンの赤い瞳が、恐ろしい光を放つ。
次の瞬間、ヴァルトの体は黒い炎に包まれた。
悲鳴を上げる間もなく、彼の存在は跡形もなく消え去る。
あまりの出来事に、俺は声も出せずに立ち尽くした。
静まり返った廊下で、ゼノンは俺の方に向き直ると、壊れ物に触れるかのように頬を撫でた。
「すまなかった、ハルキ。怖い思いをさせたな」
その声は先ほどまでの怒りが嘘のように、ひどく甘い。
「お前の髪一筋たりとも、他の誰にも傷つけさせはしない」
彼は俺を強く抱きしめた。その腕の力強さに、俺は恐怖を感じた。
これは、愛情などではない。全てを支配し、独占しようとする、歪んだ執着だ。
もし俺が彼を裏切ったら、俺もあの側近のように、一瞬で消されてしまうのかもしれない。
なのに、どうしてだろう。
彼の腕の中で、俺は奇妙な安心感を覚えていた。
この男は、何があっても俺を守る。誰にも俺を渡さない。
その絶対的な執着が、恐ろしいはずなのに、心のどこかでそれを求めている自分がいることに気づいてしまった。
俺は、この孤独な魔王の独占欲に、少しずつ絡めとられているのかもしれない。
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