第四章
仮面のミト
私はミト。
月と星の交わりから、過去と未来を読み取る者。
祖父は「豚のおじさん」と呼ばれた伝説の召喚士であったが、私がその才を受け継ぐことはなかった。
けれども幼き頃から夜空を見上げれば、流れる星々が未来の断片を告げてくれた。
しかしそれは祝福ではなく、しばしば呪いのようであった。
ある夜、ひとりの子を授かった。
その小さな産声を聞いた瞬間、悟った。
この子は人の身にありながら、紛れもなく「豚召喚士」の力を継ぐ者。
そして近い未来に「瞳違いし者」と出会い、紋章の呼応を果たす者。
それがこの世界を導く唯一の道だと、月の雫がそっと囁いた。
だが同時に、影が迫ることも月の光が告げていた。
悪しき大魔王ザヤキュッ*ト。
その魔の手はやがてこの子を狙い、命を奪おうとする。
震えながら決断する。
母として抱きしめ続けたい衝動を殺し、この子を自らの手から離さねばならぬと。
占いの館を営み、細々と生計を立てていた。
そこに頻繁に通ってくれた子のいない初老の夫婦に、この子を託した。
二人が優しく抱き上げる姿を見たとき、安堵の温もりと、母としての淋しさが同時に胸を締めつけた。
それでも心の奥では、嵐のような不安が渦巻いていた。
その夜、月の巡りが不吉に乱れた。
月の影が映し出す。
血に染まった館、夫婦の崩れ落ちる姿。
そして泣きながら彷徨う、小さな背。
——ああ、駆け寄りたい。抱き上げ、共に逃げたい。
だが、それは許されぬ。
手を伸ばせば定めは崩れる。
「瞳違いし者と紋章の呼応」——それこそが唯一の希望。
その道を絶つわけにはいかない。
ただ祈り、夜空を仰ぐ。
月の光が未来を示していた。
巡幸の馬車。
王と王妃が、あの子を抱き上げる光景。
その道を信じるしかなかった。
……さらに、月の光は見せていた。
やがて姫に出会う。
その口から浴びせられるのは優しい言葉ではない。
罵倒。その鋭い響きが、容赦なく心を抉るだろう。
けれど、それでよい。
打たれてなお立ち上がることで、強さを得る。
そして仲間の背を追い、必死に汗を流すことで友情を育む。
影の中で、その成長を喜ぶしかない。
……だが、その先は月も記してはくれぬ。
呼応の時が訪れるのか、そして生き延びることができるのか。
白き帳に覆われ、閉ざされている。
祈ることしかできない。
月よ、どうかあの子を導いてくれ。
月明かりに、涙が一条。
⸻
なんじゃ、今回はわしの出番がまったく無かったわい。しょんぼりじゃのう。
まあよい、実はこの章には歌もあるんじゃ。
『バズーカ王国物語 第四章』
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聴けばまた違う涙がこぼれるやもしれんぞ。
次なる章を楽しみに待つがよい。
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