DEADLINE 23:17

@Stonemisaki29031952

DEADLINE 23:17

前書き(optional)


「残り時間、わずか19分──。

高城玲奈は、自分の過去と対峙し、命をかけた謎に挑む。

誰も知らない“最終の答え”とは?」


目次

1. プロローグ

2. 第1章 最初の封筒

3. 第2章 封じられたファイル

4. 第3章 赤坂カフェ

5. 第4章 汐留への指示

6. 第5章 ビルの最上階

7. 第6章 USBの真実

8. 第7章 汐留タワー到着〜黒幕直前

9. 第8章 再生の鍵

10. 第9章 23:17(最終章)


プロローグ


金曜の夜、東京。

外資系コンサルの高城玲奈は、会議を終えて駅に降り立った瞬間、思わず顔をしかめた。秋雨前線。濡れたアスファルトの匂いと、冷たい雨粒。コンビニの明かりが、夜道に不自然な四角い光を落としていた。


「タクシー、拾えるかな……」

そう呟きながらポケットを探ったとき、指先に紙の感触があった。


──そんなものを、入れた覚えはない。


取り出した紙には、自分の名前と一行の赤い文字。

「死亡推定時刻:本日23:17」


腕時計に目を落とす。

22:58。


心臓が一瞬で冷たくなる。


その時、スマホが震えた。非通知。

通話ボタンを押すと、低い声が囁くように告げた。


「あなたが生き延びられるかは──これからの19分にかかっている」



第一章「最初の封筒」


声は淡々と続いた。

「謎を解け。答えはあなた自身の中にある」


ぶつり、と一方的に切れる。


玲奈は周囲を見渡した。人影はない。

ふと、足元に茶色い封筒が落ちていることに気づいた。

こんなもの、さっきまでなかった。


しゃがんで拾い上げ、破れそうな勢いで開く。

中には二つの紙。

ひとつは、都内の地図。

もうひとつは、無意味に見える数字の羅列。


4 - 1 - 9 - 7 - 3


「……暗号?」


息をのむ。だが同時に、既視感が脳裏をかすめた。

この数字を、どこかで見たことがある。


オフィス。

数年前、炎上して終わったプロジェクトの内部コード。

自分のキャリアで、唯一の汚点。


ぞわり、と背筋に寒気が走る。


「どうして……これを?」


握りしめた紙が、雨にじわりと濡れていく。

地図に赤く印がついていたのは──玲奈の会社のオフィス。


時計は22:59。

刻一刻と、23:17が迫っていた。



第二章「封じられたファイル」


玲奈は濡れた髪をかき上げながら、自分のオフィスに足を踏み入れた。

金曜の夜のオフィスは異様なほど静かで、誰もいないフロアに照明だけが冷たく灯っている。


パソコンを起動すると──デスクトップに見慣れないアイコンがひとつ。

「23-17.zip」


クリックすると、パスワード入力を求められた。

その下には一文が表示されている。


“You failed once. Do you still remember the cost?”

(お前は一度失敗した。その代償を覚えているか?)


「……私の失敗を知ってる?」


あの炎上プロジェクト。

資料の中に、彼女しか知らない“致命的な数字”があった。

──損失額、4億1,973万円。


玲奈は無意識にキーボードを叩く。

「41973」


一瞬でzipファイルが解凍される。


中に入っていたのは、たった一つのテキストファイル。


【次の場所】

赤坂 ○○○(※カフェの名前)


【残り時間】

12分


時計は23:05。

冷や汗が背中を伝った。

解凍したテキストを閉じた瞬間、画面が突然ブラックアウトした。

モニターに白い文字が浮かび上がる。


「本当にその答えで正しいと思うのか?」


玲奈の背筋が凍る。

次の瞬間、パソコンのスピーカーから再びあの低い声が流れた。


「あなたが入力した数字は確かに鍵を開けた。だが、それは“表の答え”にすぎない。

 もし裏の答えを見つけられなければ、ここで終わる」


画面に新たな暗号が出現した。


S1F - L3 - P9


「……これ、何?」


玲奈は一瞬考え、頭の中に電流が走った。

──S1F。自分のオフィスの「South 1st Floor」。

──L3。ロッカーの3番。

──P9。プロジェクト9。


あの時、最後まで破棄できなかった紙資料を入れたロッカー。

誰も知らないはずの場所。


急いで移動し、ロッカーを開けると──中にUSBがひとつ。

差し込むと、画面に再び文字が現れる。


「正しい裏答えを入れよ。制限時間は残り10分。」


玲奈は歯を噛みしめる。

パスワード欄には桁数すら表示されていない。

ヒントは──何もない。


「……本当に私を知ってる人間しか、これ解けないじゃない」


時計は23:07。

数字が、頭の中でぐるぐる回る。


第三章「赤坂カフェ」


玲奈はUSBの画面を睨みつけたまま、指先を止めた。

ヒントはない。残り時間は……23:08。


「ダメだ、ここで詰まったら本当に殺される」


思い切ってUSBを抜き、バッグに突っ込む。

そして地図に示されていた赤坂のカフェへと走り出した。


夜の街を濡れたヒールで駆け抜ける。

タクシーを拾う余裕なんてない。

頭の中で、自分を嘲笑うような声が響く。


──“謎を解けるのは自分だけ”

──“でも今の私は、解けなかった”


その自己否定をかき消すように、玲奈は息を切らしながら店にたどり着いた。


赤坂の路地裏にある、古びたカフェ。

金曜の夜なのに、客はひとりもいない。

扉を押して入ると、カウンターの上にノートパソコンが一台だけ置かれていた。


画面には大きく、数字のカウントダウン。


09:12


残り時間は、9分12秒。


「……次は、ここで何を?」


カフェの奥から、カップを置くような小さな音が聞こえた。

玲奈は振り返る。


──そこに座っていたのは、かつての上司だった。


第四章「告白の代償」


カフェの奥、ランプの下。

コーヒーの湯気の向こうで、懐かしい顔がゆらめいた。


「……部長?」


玲奈の声は、震えていた。

数年前のプロジェクト炎上と同時に姿を消した、元上司・岸本。

会社を去ったきり、消息すら分からなかった人物が、なぜここに。


岸本はゆっくりと視線を上げた。

その目には、かつての威圧感も、責任感もなく、ただ疲れ切った影だけが宿っている。


「……玲奈。よく来たな」


彼の前には同じ型のノートパソコン。

画面には、玲奈のものと同期するように、カウントダウンが進んでいた。

08:55──


「どういうことなんですか。これは……あなたが仕掛けたんですか?」

問い詰める声に、岸本は小さく笑った。


「俺が? 違う。俺はただ……お前と同じように試されているだけだ」


「試されてる?」


「そうだ。あの時の失敗の責任を、誰もが押し付け合った。お前も、俺も。だが“本当の責任”を知る人間は、まだどこかにいる」


玲奈の心臓が跳ねた。

──あのプロジェクトには、裏の帳簿が存在した。

炎上の“原因”を握っていたのは、彼女と岸本だけのはずだった。


「じゃあ、このゲームを仕組んだのは……」


岸本は答えず、ただ視線をパソコンに戻した。

新しいウィンドウが開く。


【問題】

“過去の罪を認め、ここに記せ。偽れば、命はない。”


カーソルが点滅している。

玲奈は凍りついた。


「書けって……何を?」


岸本の手が震える。

「俺は、もう一度あの数字を入力するつもりだ……。それで終わらせたい」


玲奈は必死に首を振る。

「それじゃ駄目! “表の答え”はもう解いたはずよ。ここで求められているのは、もっと深い……“裏切りの名前”」


その瞬間、モニターに赤文字が現れた。


──【残り時間:6分47秒】


玲奈の脳裏に、当時の会議室がよみがえる。

あの時、机を叩いて数字を改ざんするよう迫った人物。

表では英雄、裏では破壊者。


「……まさか」


震える指先で、玲奈はキーボードに名前を打ち込もうとした。


その瞬間、岸本の手が彼女の手首を掴む。

「やめろ……それを入力したら、お前も、俺も戻れなくなる」


玲奈は歯を食いしばった。

画面のカウントは無情に進む。


06:22──


玲奈はキーボードに伸ばしかけた指を、ぎりぎりで止めた。

──本当に名前を打ち込むのが正解なのか?


カーソルは点滅を続け、残り時間は無情に減っていく。

05:58──


「……違う。これは“誘導”だ」

玲奈は小さく呟いた。


岸本が顔を上げる。

「誘導?」


「そうよ。名前を入力した瞬間に、責任を“押し付けた”って証拠にされる。誰かが私たちを犯人に仕立て上げようとしてるのよ」


岸本の瞳が揺れた。

彼もまた、同じ違和感を感じていたのだろう。


玲奈はUSBを再び差し直し、画面を隅々まで見渡した。

──入力欄の下に、かすかに灰色で薄れている英字。

通常なら気づかないノイズのような文字列。


「……待って、これ」


玲奈は目を凝らす。

logfile_hidden://


「隠しログ?」


ショートカットを打ち込むと、画面が一瞬ちらつき、新しいフォルダが開いた。

中には複数のテキストファイル。

そして最後にひとつだけ、赤いアイコンのファイルがある。


TRUTH.key


残り時間──04:12。


震える指で開くと、画面いっぱいに数式のような暗号が展開された。


【裏の答えは “数字” ではなく “出来事”】

【2019/07/14──誰がその会議に欠席していた?】


「……あの時の会議?」

玲奈の記憶がよみがえる。

重要な意思決定の日。数字が改ざんされる直前、確かに“ひとりだけ”欠席していた人物がいた。


「まさか……」


残り時間は、03:57。

玲奈の心臓は、鼓動のたびに鋭く胸を突き上げる。


岸本が低く呟いた。

「玲奈……思い出せ。お前だけが知ってるはずだ」


第五章「深層の扉」


玲奈は、息を呑んだ。

欠席していた人物──確かに思い出せる。だが指は動かなかった。


「……おかしい」


「何がだ?」と岸本が問いかける。


「2019年7月14日って……確かに改ざん直前の会議だけど、あの日“欠席した人”は複数いたはずよ。表向きは体調不良、海外出張……言い訳はいくらでもつけられる。なのにどうして設問が単数形なの?」


岸本の顔が引きつる。

「つまり……また誘導か」


玲奈は深くうなずいた。

「ええ。これは“誰か一人を選ばせるための罠”よ」


残り時間──02:44。


パソコンの隅に、再びノイズのような文字列が浮かび上がる。

hidden://mirror


玲奈は迷わず入力した。

画面が一瞬真っ暗になり、モニターに新たな画面が開く。


そこに映し出されたのは──

防犯カメラのログ映像。


2019年7月14日、深夜のオフィス。

誰もいないはずの会議室に、人影が映っていた。


「……!」

玲奈は思わず前のめりになる。


映像の中の人物は、会議を欠席したことになっていた幹部の一人──だが、彼は机に座り、確かに数字を書き換えていた。


その瞬間、画面に新しい指示が浮かぶ。


【裏の答え】

“真実は記録に残る。証言ではなく、証拠を選べ。”


カーソルが再び入力欄に点滅する。


玲奈は震える手を抑えながら、人物の“名前”ではなく、映像ファイルのパスをコピペして打ち込んだ。


──Enter。


時計は23:15。

残り、2分。


画面が一気に白く弾け、低い声が再び響いた。


「……選んだな。お前は“人”ではなく“証拠”を差し出した」


一瞬の静寂。


そしてカウントダウンは──止まった。

00:00で、完全に。


玲奈の全身から力が抜け、椅子に崩れ落ちる。


岸本が信じられないというように彼女を見た。

「……お前、どうして……」


玲奈はかすれ声で答える。

「だって……人を犠牲にしたら、あの時と同じになっちゃうから」


カフェに、時計の秒針だけが響く。

その静寂を破るように、ノートパソコンの画面に新たな文字が浮かんだ。


【一次試験クリア】

【次の“審判”は、赤坂ではなく──汐留】


第六章「沈黙の余韻」


真っ白になった画面を見つめながら、玲奈はしばらく呼吸を忘れていた。

カウントダウンは完全に止まり、代わりに浮かんでいるのは【一次試験クリア】の文字だけ。


「……生きてる」

ようやく声が漏れる。


手のひらには冷たい汗。

全身の力が抜け、椅子に深く沈み込む。


向かいに座る岸本は、ただじっと玲奈を見つめていた。

「……よくやったな」


その言葉には、かつて部下に向けていた厳しい響きはなかった。

むしろ敗北を悟ったような、どこか弱々しい響き。


「部長……どうして、あなたもここに?」

玲奈はようやく問いかけた。


岸本は深く息を吐き、手元のカップを見つめる。

「……俺も呼ばれたんだ。お前と同じようにな」


玲奈の眉が動く。

「“呼ばれた”? 誰に?」


「知らない方がいい」

即答だった。だが、その声には恐怖が滲んでいる。


玲奈は唇を噛む。

「……じゃあ、部長は“黒幕”じゃないんですね」


岸本は苦笑いを浮かべた。

「もし俺だったら……わざわざ自分もこの試験に巻き込むか?」


確かに、と玲奈は思った。

だが、それでも彼が全てを知っていることは明らかだった。


──【次の審判は汐留】。


画面に浮かんだ文字が、再び玲奈を現実へ引き戻す。

彼女は静かにノートパソコンを閉じ、バッグにしまった。


「……行くんですか?」と岸本。


玲奈は頷いた。

「行かなきゃいけないんでしょう。ここで立ち止まったら、本当に殺される」


岸本は少しの間黙っていたが、やがて低く呟いた。

「……なら、俺も行く」


玲奈は目を見開いた。

「え?」


「俺には……果たさなきゃならない“借り”がある」

岸本の声は震えていた。

その言葉に、玲奈は言葉を失う。


──あのプロジェクトの失敗。

──4億1,973万円の損失。


その“借り”とは一体、何を意味しているのか。


カフェの静寂を破るように、雨音が強くなった。

玲奈は立ち上がり、岸本を一瞥する。


「……なら、一緒に行きましょう。汐留へ」


岸本はゆっくりと頷いた。

その瞳には、何かを決意した光が宿っていた。


第七章「汐留の闇」


深夜の雨に濡れる街を抜け、玲奈と岸本はタクシーを降りた。

時計は23:42。

指定された汐留のオフィス街は、週末の夜にもかかわらず不気味なほど静まり返っていた。


高層ビルの谷間。

地図アプリに示された赤いピンは、一棟の旧館へと導いている。

今では使われていないはずの、外資系企業の元本社ビル。


「……電気がついてる」

玲奈が呟く。

確かに、ビルの最上階だけがぼんやりと明かりに照らされていた。


二人は息を潜めながらエントランスへ近づく。

自動ドアは、まるで待ち構えていたかのように、静かに開いた。


「……開いてる」

玲奈の背筋に寒気が走る。


無人のロビー。

受付の机に、ぽつんと置かれた黒いタブレットが光を放っていた。


画面にはただ一文。


【二人で来たことを確認した。次の審判を開始する】


岸本が険しい顔でタブレットを睨む。

「……“二人で”って……最初から想定されていたのか」


その時、ロビー全体が低いブザー音に包まれた。

エレベーターが動き出す。

上昇表示──最上階、38階。


玲奈と岸本は無言のまま見つめ合った。

選択肢はない。

二人はエレベーターに乗り込んだ。


上昇するにつれ、金属のきしみ音が耳に重くのしかかる。

沈黙の中、液晶の数字がひとつずつ上がっていく。


──35。36。37。


そして、38階。


扉が開いた瞬間、二人は息を呑んだ。


フロアの中央に、巨大なスクリーンが設置されていた。

そこに映し出されていたのは──


玲奈と岸本、そして数人の幹部の映像。

過去の会議、笑顔、握手……

だが次の瞬間、画面が切り替わる。


「……これ……!」

玲奈の声が震える。


スクリーンには、当時の“改ざんの瞬間”が鮮明に映し出されていた。

数字を書き換える手元。

すべてが記録されている。


そして文字が現れる。


【二人のうち、一人だけが“次”へ進める】

【選ぶのは──お前たち自身だ】


ロビーに警告音が鳴り響く。

背後の扉が、自動で閉まった。


玲奈は岸本を見た。

岸本もまた、玲奈を見返していた。


その目は──覚悟を決めた人間の目だった。


第四章「汐留タワー」


夜の汐留。

ガラス張りの高層ビルが月明かりを反射し、どこか無機質な冷たさを漂わせていた。


玲奈と岸本は、タクシーを降りると無言のまま自動ドアへ向かう。

内部は閑散としており、人気はない。だが、その静けさが逆に不気味だった。


「……本当に、ここなの?」

玲奈の問いに、岸本は頷くだけだった。


二人はエレベーターに乗り込み、指示された階を押す。

表示板の数字が上昇するたびに、玲奈の鼓動も速くなる。


23階で、電子音とともに扉が開いた。

暗い廊下の奥、ひとつだけ光の漏れる扉。


「USBを持っていろ」

岸本が小声で言う。


玲奈はバッグの中のUSBを握りしめた。

その瞬間、彼女のスマホが震える。

画面には、再び赤いカウントダウン。残り時間は——00:11:59。


(あと12分……)


喉が渇く。足が勝手に震える。

それでも、玲奈は歩みを止めなかった。


光の漏れる扉の前に立つ。

岸本がハンドルに手をかけた。


「ここから先は……もう後戻りできないぞ」


低い声が響いた瞬間、扉が静かに開いた。


暗闇の中に浮かぶひとつの人影。

背を向けたまま、巨大なモニターの前に立っている。

画面には無数の「名前」が並び、その中でいくつかの文字が点滅していた。


玲奈は息を呑む。

(あれは……ターゲットリスト?)


その影がゆっくりと振り返ろうとした——。


玲奈はタワー最上階の会議室に足を踏み入れた。

ガラス張りの窓の外では、東京の夜景が雨に滲んでいる。

煌めく光の海が、まるで彼女を奈落に誘うようだった。


中央のテーブルにはノートPCが一台。

その画面には、いつもの赤い文字。


【残り時間 04:39】


「……ここで、終わるの?」

玲奈は乾いた唇を噛みしめた。


その瞬間、背後の自動ドアが音もなく閉まる。

冷たい風が頬を撫で、足音がゆっくりと近づいてきた。


「……ようやく来たな、玲奈」


聞き覚えのある低い声。

振り向いた玲奈の目に映ったのは──

かつての上司でも、同僚でもない。


長身の男が、闇の奥から姿を現す。

濡れた黒いコートを肩で払い、鋭い視線を玲奈に突き刺した。


「まさか……あなたが……?」


玲奈の瞳が大きく見開かれる。

忘れたはずの過去、封じ込めたはずの記憶。

そのすべてが、この瞬間に蘇ろうとしていた。


「……やはり来たか、玲奈」


暗がりから歩み出てきたのは──かつての直属の上司、岸本だった。

スーツ姿はあの頃と変わらず整っているのに、眼差しだけが冷たく歪んでいる。


「部長……どうして……?」

玲奈の声は震えていた。


岸本はゆっくりとテーブルのノートPCに手を置いた。

画面には【残り時間 03:58】と赤く光っている。


「お前が“失敗したプロジェクト”──あれは本当にお前一人の責任だったと思うか?」

「……違う……」

「そうだ。だが、世間も会社も、そして俺も、お前一人に責任を押し付けた。それが都合よかったからだ」


岸本は薄く笑った。

「だが俺は忘れていない。あの時失われたもの──4億1,973万円。その代償を、ようやく取り戻す時が来た」


玲奈は一歩後ずさる。

「私を殺して……何になるの?」


「殺す? いや──これは“裁き”だ。お前が最後に解けるかどうかで、生きる資格を決める」


ノートPCの画面が切り替わり、暗号の羅列が現れる。

冷たい電子音が響いた。


【Final Key: REBIRTH】


「……最後の謎だ。これを正しく入力できれば──生き延びられる」

岸本は椅子に腰かけ、まるで裁判官のように玲奈を見下ろした。


玲奈の鼓動が、耳の奥で爆音のように響いていた。

時計は23:15。

残り、わずか二分。


第八章「再生の鍵」


玲奈の視線は画面に釘付けになった。

【Final Key: REBIRTH】

残り時間は、00:58。


「……REBIRTH……再生……?」


思考が空回りする。

パスワード入力欄に指をかけた瞬間──岸本が薄笑いを浮かべた。


「早くしろ。お前が遅れれば、爆弾は容赦なく作動する」


玲奈の心臓が跳ね上がる。

画面の下には確かに、小さく【FAILURE=爆破】と赤字で点滅していた。


──REBIRTH。

単なる単語じゃない。

これは「入力」じゃなく「行動」だ。


玲奈の中で電流のようにひらめきが走る。

「……そういうこと……?」


23:16:22。

残り、38秒。


玲奈は迷わずPCを掴むと、テーブルの端から床に叩きつけた。

ガラスが砕けるような破壊音。

モニターが黒く弾け飛び、赤いカウントダウンが途切れる。


「なっ──!」

岸本が立ち上がる。


玲奈は息を荒げながら、震える声で叫んだ。

「再生するのは……私よ。あなたのゲームなんかじゃない!」


次の瞬間、会議室の照明が一斉に落ち、警報のような電子音が鳴り響いた。

停電か、あるいは──仕掛けの発動か。


真っ暗な空間に、玲奈と岸本の呼吸だけが響く。


そして。

ガラス越しの夜景に一瞬、稲光が走った。

玲奈はその光の中で岸本の顔を見た──驚愕と恐怖に染まった表情を。


轟音。

ビル全体が揺れる。


玲奈の意識は闇に飲み込まれていった。


第九章 (最終章)「23:17」


ノートPCを叩きつけ、赤いカウントダウンを止めた瞬間。

会議室に響いたのは、金属の軋む音と電子警報の低い唸り。


岸本の目が、驚愕と恐怖で見開かれる。

「な……なにを——!」


玲奈は息を整えようとしたが、胸の鼓動は荒く、全身に力が入らない。

外の夜景が揺れ、ビル全体が低い振動に包まれた。


「……REBIRTH」

自分自身に言い聞かせるように呟く。


ガラス越しに稲光が走る。

轟音。

天井のライトが一斉に瞬き、停電と揺れが同時に襲った。


玲奈の視界は一瞬、真っ白に染まる。

そして……暗闇。


呼吸の感覚すら消え、時間の感覚もなくなる。

ただ、最後に耳に残ったのは、岸本の呆然とした声——


「……玲奈……?」


秒針の音も、街の灯りも、すべてが消えた。


赤い文字の警告は、もはやどこにもない。


時計は……23:17。

その時、玲奈は――光の中にいるのか、それとも闇の中にいるのか、誰も知らない。


静寂だけが残り、物語はそこで終わった。


23:17」最終版構成


プロローグ


金曜の夜、東京。

外資系コンサルの高城玲奈は、駅でポケットに入っていた紙に書かれた赤い文字を見て凍りつく。

「死亡推定時刻:本日23:17」

非通知の電話が鳴り、低い声が告げる──「これからの19分にかかっている」。



第1章「最初の封筒」


駅で拾った茶色い封筒の中には、都内の地図と暗号の数字。

玲奈は過去の炎上プロジェクトの内部コードに気づき、恐怖と混乱に駆られる。



第2章「封じられたファイル」


オフィスに戻ると見慣れないzipファイル。

パスワードは自分しか知らない数字──過去の失敗の代償で解く。

ファイルを解くと次の場所、赤坂カフェと残り時間が示される。



第3章「赤坂カフェ」


赤坂の古びたカフェに到着。

カウンターのノートPCに表示される残り時間と暗号。

玲奈は自己否定と恐怖に押し潰されそうになりながらも、謎を解くために立ち向かう。



第4章「汐留への指示」


USBに現れた新たな暗号を手がかりに、玲奈は岸本と共に汐留へ移動。

夜の街を駆け抜け、時間制限の中で心理戦が始まる。



第5章「ビルの最上階」


汐留タワーに到着。

無人のはずのビルで、緊張と恐怖が増す。

残り時間はわずか4分。玲奈は岸本と共に暗号を追い、心理的圧迫に耐える。



第6章「USBの真実」


最後の暗号【REBIRTH】がただの文字ではなく、行動を示すことが明かされる。

玲奈は限られた時間の中で、自分の選択を迫られる。



第7章「汐留タワー到着〜黒幕直前」


最上階の会議室で、かつての直属の上司が現れる。

過去の改ざんやプロジェクト失敗の映像が映し出され、玲奈は最終選択に直面する。



第8章「再生の鍵」


玲奈はUSBを叩きつけ、カウントダウンを止める。

警報と轟音がビルを包み、岸本の表情は驚愕に歪む。

REBIRTHの意味を理解した玲奈は行動で答えを示す。



第9章(最終章)「23:17」


停電と揺れの中、意識が闇に沈む玲奈。

最後に残ったのは静寂と23:17の時刻だけ。

生死は不明。衝撃と余韻を残したまま、物語は幕を閉じる。

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