DEADLINE 23:17
@Stonemisaki29031952
DEADLINE 23:17
前書き(optional)
「残り時間、わずか19分──。
高城玲奈は、自分の過去と対峙し、命をかけた謎に挑む。
誰も知らない“最終の答え”とは?」
⸻
目次
1. プロローグ
2. 第1章 最初の封筒
3. 第2章 封じられたファイル
4. 第3章 赤坂カフェ
5. 第4章 汐留への指示
6. 第5章 ビルの最上階
7. 第6章 USBの真実
8. 第7章 汐留タワー到着〜黒幕直前
9. 第8章 再生の鍵
10. 第9章 23:17(最終章)
プロローグ
金曜の夜、東京。
外資系コンサルの高城玲奈は、会議を終えて駅に降り立った瞬間、思わず顔をしかめた。秋雨前線。濡れたアスファルトの匂いと、冷たい雨粒。コンビニの明かりが、夜道に不自然な四角い光を落としていた。
「タクシー、拾えるかな……」
そう呟きながらポケットを探ったとき、指先に紙の感触があった。
──そんなものを、入れた覚えはない。
取り出した紙には、自分の名前と一行の赤い文字。
「死亡推定時刻:本日23:17」
腕時計に目を落とす。
22:58。
心臓が一瞬で冷たくなる。
その時、スマホが震えた。非通知。
通話ボタンを押すと、低い声が囁くように告げた。
「あなたが生き延びられるかは──これからの19分にかかっている」
第一章「最初の封筒」
声は淡々と続いた。
「謎を解け。答えはあなた自身の中にある」
ぶつり、と一方的に切れる。
玲奈は周囲を見渡した。人影はない。
ふと、足元に茶色い封筒が落ちていることに気づいた。
こんなもの、さっきまでなかった。
しゃがんで拾い上げ、破れそうな勢いで開く。
中には二つの紙。
ひとつは、都内の地図。
もうひとつは、無意味に見える数字の羅列。
4 - 1 - 9 - 7 - 3
「……暗号?」
息をのむ。だが同時に、既視感が脳裏をかすめた。
この数字を、どこかで見たことがある。
オフィス。
数年前、炎上して終わったプロジェクトの内部コード。
自分のキャリアで、唯一の汚点。
ぞわり、と背筋に寒気が走る。
「どうして……これを?」
握りしめた紙が、雨にじわりと濡れていく。
地図に赤く印がついていたのは──玲奈の会社のオフィス。
時計は22:59。
刻一刻と、23:17が迫っていた。
第二章「封じられたファイル」
玲奈は濡れた髪をかき上げながら、自分のオフィスに足を踏み入れた。
金曜の夜のオフィスは異様なほど静かで、誰もいないフロアに照明だけが冷たく灯っている。
パソコンを起動すると──デスクトップに見慣れないアイコンがひとつ。
「23-17.zip」
クリックすると、パスワード入力を求められた。
その下には一文が表示されている。
“You failed once. Do you still remember the cost?”
(お前は一度失敗した。その代償を覚えているか?)
「……私の失敗を知ってる?」
あの炎上プロジェクト。
資料の中に、彼女しか知らない“致命的な数字”があった。
──損失額、4億1,973万円。
玲奈は無意識にキーボードを叩く。
「41973」
一瞬でzipファイルが解凍される。
中に入っていたのは、たった一つのテキストファイル。
【次の場所】
赤坂 ○○○(※カフェの名前)
【残り時間】
12分
時計は23:05。
冷や汗が背中を伝った。
解凍したテキストを閉じた瞬間、画面が突然ブラックアウトした。
モニターに白い文字が浮かび上がる。
「本当にその答えで正しいと思うのか?」
玲奈の背筋が凍る。
次の瞬間、パソコンのスピーカーから再びあの低い声が流れた。
「あなたが入力した数字は確かに鍵を開けた。だが、それは“表の答え”にすぎない。
もし裏の答えを見つけられなければ、ここで終わる」
画面に新たな暗号が出現した。
S1F - L3 - P9
「……これ、何?」
玲奈は一瞬考え、頭の中に電流が走った。
──S1F。自分のオフィスの「South 1st Floor」。
──L3。ロッカーの3番。
──P9。プロジェクト9。
あの時、最後まで破棄できなかった紙資料を入れたロッカー。
誰も知らないはずの場所。
急いで移動し、ロッカーを開けると──中にUSBがひとつ。
差し込むと、画面に再び文字が現れる。
「正しい裏答えを入れよ。制限時間は残り10分。」
玲奈は歯を噛みしめる。
パスワード欄には桁数すら表示されていない。
ヒントは──何もない。
「……本当に私を知ってる人間しか、これ解けないじゃない」
時計は23:07。
数字が、頭の中でぐるぐる回る。
第三章「赤坂カフェ」
玲奈はUSBの画面を睨みつけたまま、指先を止めた。
ヒントはない。残り時間は……23:08。
「ダメだ、ここで詰まったら本当に殺される」
思い切ってUSBを抜き、バッグに突っ込む。
そして地図に示されていた赤坂のカフェへと走り出した。
夜の街を濡れたヒールで駆け抜ける。
タクシーを拾う余裕なんてない。
頭の中で、自分を嘲笑うような声が響く。
──“謎を解けるのは自分だけ”
──“でも今の私は、解けなかった”
その自己否定をかき消すように、玲奈は息を切らしながら店にたどり着いた。
赤坂の路地裏にある、古びたカフェ。
金曜の夜なのに、客はひとりもいない。
扉を押して入ると、カウンターの上にノートパソコンが一台だけ置かれていた。
画面には大きく、数字のカウントダウン。
09:12
残り時間は、9分12秒。
「……次は、ここで何を?」
カフェの奥から、カップを置くような小さな音が聞こえた。
玲奈は振り返る。
──そこに座っていたのは、かつての上司だった。
第四章「告白の代償」
カフェの奥、ランプの下。
コーヒーの湯気の向こうで、懐かしい顔がゆらめいた。
「……部長?」
玲奈の声は、震えていた。
数年前のプロジェクト炎上と同時に姿を消した、元上司・岸本。
会社を去ったきり、消息すら分からなかった人物が、なぜここに。
岸本はゆっくりと視線を上げた。
その目には、かつての威圧感も、責任感もなく、ただ疲れ切った影だけが宿っている。
「……玲奈。よく来たな」
彼の前には同じ型のノートパソコン。
画面には、玲奈のものと同期するように、カウントダウンが進んでいた。
08:55──
「どういうことなんですか。これは……あなたが仕掛けたんですか?」
問い詰める声に、岸本は小さく笑った。
「俺が? 違う。俺はただ……お前と同じように試されているだけだ」
「試されてる?」
「そうだ。あの時の失敗の責任を、誰もが押し付け合った。お前も、俺も。だが“本当の責任”を知る人間は、まだどこかにいる」
玲奈の心臓が跳ねた。
──あのプロジェクトには、裏の帳簿が存在した。
炎上の“原因”を握っていたのは、彼女と岸本だけのはずだった。
「じゃあ、このゲームを仕組んだのは……」
岸本は答えず、ただ視線をパソコンに戻した。
新しいウィンドウが開く。
【問題】
“過去の罪を認め、ここに記せ。偽れば、命はない。”
カーソルが点滅している。
玲奈は凍りついた。
「書けって……何を?」
岸本の手が震える。
「俺は、もう一度あの数字を入力するつもりだ……。それで終わらせたい」
玲奈は必死に首を振る。
「それじゃ駄目! “表の答え”はもう解いたはずよ。ここで求められているのは、もっと深い……“裏切りの名前”」
その瞬間、モニターに赤文字が現れた。
──【残り時間:6分47秒】
玲奈の脳裏に、当時の会議室がよみがえる。
あの時、机を叩いて数字を改ざんするよう迫った人物。
表では英雄、裏では破壊者。
「……まさか」
震える指先で、玲奈はキーボードに名前を打ち込もうとした。
その瞬間、岸本の手が彼女の手首を掴む。
「やめろ……それを入力したら、お前も、俺も戻れなくなる」
玲奈は歯を食いしばった。
画面のカウントは無情に進む。
06:22──
玲奈はキーボードに伸ばしかけた指を、ぎりぎりで止めた。
──本当に名前を打ち込むのが正解なのか?
カーソルは点滅を続け、残り時間は無情に減っていく。
05:58──
「……違う。これは“誘導”だ」
玲奈は小さく呟いた。
岸本が顔を上げる。
「誘導?」
「そうよ。名前を入力した瞬間に、責任を“押し付けた”って証拠にされる。誰かが私たちを犯人に仕立て上げようとしてるのよ」
岸本の瞳が揺れた。
彼もまた、同じ違和感を感じていたのだろう。
玲奈はUSBを再び差し直し、画面を隅々まで見渡した。
──入力欄の下に、かすかに灰色で薄れている英字。
通常なら気づかないノイズのような文字列。
「……待って、これ」
玲奈は目を凝らす。
logfile_hidden://
「隠しログ?」
ショートカットを打ち込むと、画面が一瞬ちらつき、新しいフォルダが開いた。
中には複数のテキストファイル。
そして最後にひとつだけ、赤いアイコンのファイルがある。
TRUTH.key
残り時間──04:12。
震える指で開くと、画面いっぱいに数式のような暗号が展開された。
【裏の答えは “数字” ではなく “出来事”】
【2019/07/14──誰がその会議に欠席していた?】
「……あの時の会議?」
玲奈の記憶がよみがえる。
重要な意思決定の日。数字が改ざんされる直前、確かに“ひとりだけ”欠席していた人物がいた。
「まさか……」
残り時間は、03:57。
玲奈の心臓は、鼓動のたびに鋭く胸を突き上げる。
岸本が低く呟いた。
「玲奈……思い出せ。お前だけが知ってるはずだ」
第五章「深層の扉」
玲奈は、息を呑んだ。
欠席していた人物──確かに思い出せる。だが指は動かなかった。
「……おかしい」
「何がだ?」と岸本が問いかける。
「2019年7月14日って……確かに改ざん直前の会議だけど、あの日“欠席した人”は複数いたはずよ。表向きは体調不良、海外出張……言い訳はいくらでもつけられる。なのにどうして設問が単数形なの?」
岸本の顔が引きつる。
「つまり……また誘導か」
玲奈は深くうなずいた。
「ええ。これは“誰か一人を選ばせるための罠”よ」
残り時間──02:44。
パソコンの隅に、再びノイズのような文字列が浮かび上がる。
hidden://mirror
玲奈は迷わず入力した。
画面が一瞬真っ暗になり、モニターに新たな画面が開く。
そこに映し出されたのは──
防犯カメラのログ映像。
2019年7月14日、深夜のオフィス。
誰もいないはずの会議室に、人影が映っていた。
「……!」
玲奈は思わず前のめりになる。
映像の中の人物は、会議を欠席したことになっていた幹部の一人──だが、彼は机に座り、確かに数字を書き換えていた。
その瞬間、画面に新しい指示が浮かぶ。
【裏の答え】
“真実は記録に残る。証言ではなく、証拠を選べ。”
カーソルが再び入力欄に点滅する。
玲奈は震える手を抑えながら、人物の“名前”ではなく、映像ファイルのパスをコピペして打ち込んだ。
──Enter。
時計は23:15。
残り、2分。
画面が一気に白く弾け、低い声が再び響いた。
「……選んだな。お前は“人”ではなく“証拠”を差し出した」
一瞬の静寂。
そしてカウントダウンは──止まった。
00:00で、完全に。
玲奈の全身から力が抜け、椅子に崩れ落ちる。
岸本が信じられないというように彼女を見た。
「……お前、どうして……」
玲奈はかすれ声で答える。
「だって……人を犠牲にしたら、あの時と同じになっちゃうから」
カフェに、時計の秒針だけが響く。
その静寂を破るように、ノートパソコンの画面に新たな文字が浮かんだ。
【一次試験クリア】
【次の“審判”は、赤坂ではなく──汐留】
第六章「沈黙の余韻」
真っ白になった画面を見つめながら、玲奈はしばらく呼吸を忘れていた。
カウントダウンは完全に止まり、代わりに浮かんでいるのは【一次試験クリア】の文字だけ。
「……生きてる」
ようやく声が漏れる。
手のひらには冷たい汗。
全身の力が抜け、椅子に深く沈み込む。
向かいに座る岸本は、ただじっと玲奈を見つめていた。
「……よくやったな」
その言葉には、かつて部下に向けていた厳しい響きはなかった。
むしろ敗北を悟ったような、どこか弱々しい響き。
「部長……どうして、あなたもここに?」
玲奈はようやく問いかけた。
岸本は深く息を吐き、手元のカップを見つめる。
「……俺も呼ばれたんだ。お前と同じようにな」
玲奈の眉が動く。
「“呼ばれた”? 誰に?」
「知らない方がいい」
即答だった。だが、その声には恐怖が滲んでいる。
玲奈は唇を噛む。
「……じゃあ、部長は“黒幕”じゃないんですね」
岸本は苦笑いを浮かべた。
「もし俺だったら……わざわざ自分もこの試験に巻き込むか?」
確かに、と玲奈は思った。
だが、それでも彼が全てを知っていることは明らかだった。
──【次の審判は汐留】。
画面に浮かんだ文字が、再び玲奈を現実へ引き戻す。
彼女は静かにノートパソコンを閉じ、バッグにしまった。
「……行くんですか?」と岸本。
玲奈は頷いた。
「行かなきゃいけないんでしょう。ここで立ち止まったら、本当に殺される」
岸本は少しの間黙っていたが、やがて低く呟いた。
「……なら、俺も行く」
玲奈は目を見開いた。
「え?」
「俺には……果たさなきゃならない“借り”がある」
岸本の声は震えていた。
その言葉に、玲奈は言葉を失う。
──あのプロジェクトの失敗。
──4億1,973万円の損失。
その“借り”とは一体、何を意味しているのか。
カフェの静寂を破るように、雨音が強くなった。
玲奈は立ち上がり、岸本を一瞥する。
「……なら、一緒に行きましょう。汐留へ」
岸本はゆっくりと頷いた。
その瞳には、何かを決意した光が宿っていた。
第七章「汐留の闇」
深夜の雨に濡れる街を抜け、玲奈と岸本はタクシーを降りた。
時計は23:42。
指定された汐留のオフィス街は、週末の夜にもかかわらず不気味なほど静まり返っていた。
高層ビルの谷間。
地図アプリに示された赤いピンは、一棟の旧館へと導いている。
今では使われていないはずの、外資系企業の元本社ビル。
「……電気がついてる」
玲奈が呟く。
確かに、ビルの最上階だけがぼんやりと明かりに照らされていた。
二人は息を潜めながらエントランスへ近づく。
自動ドアは、まるで待ち構えていたかのように、静かに開いた。
「……開いてる」
玲奈の背筋に寒気が走る。
無人のロビー。
受付の机に、ぽつんと置かれた黒いタブレットが光を放っていた。
画面にはただ一文。
【二人で来たことを確認した。次の審判を開始する】
岸本が険しい顔でタブレットを睨む。
「……“二人で”って……最初から想定されていたのか」
その時、ロビー全体が低いブザー音に包まれた。
エレベーターが動き出す。
上昇表示──最上階、38階。
玲奈と岸本は無言のまま見つめ合った。
選択肢はない。
二人はエレベーターに乗り込んだ。
上昇するにつれ、金属のきしみ音が耳に重くのしかかる。
沈黙の中、液晶の数字がひとつずつ上がっていく。
──35。36。37。
そして、38階。
扉が開いた瞬間、二人は息を呑んだ。
フロアの中央に、巨大なスクリーンが設置されていた。
そこに映し出されていたのは──
玲奈と岸本、そして数人の幹部の映像。
過去の会議、笑顔、握手……
だが次の瞬間、画面が切り替わる。
「……これ……!」
玲奈の声が震える。
スクリーンには、当時の“改ざんの瞬間”が鮮明に映し出されていた。
数字を書き換える手元。
すべてが記録されている。
そして文字が現れる。
【二人のうち、一人だけが“次”へ進める】
【選ぶのは──お前たち自身だ】
ロビーに警告音が鳴り響く。
背後の扉が、自動で閉まった。
玲奈は岸本を見た。
岸本もまた、玲奈を見返していた。
その目は──覚悟を決めた人間の目だった。
第四章「汐留タワー」
夜の汐留。
ガラス張りの高層ビルが月明かりを反射し、どこか無機質な冷たさを漂わせていた。
玲奈と岸本は、タクシーを降りると無言のまま自動ドアへ向かう。
内部は閑散としており、人気はない。だが、その静けさが逆に不気味だった。
「……本当に、ここなの?」
玲奈の問いに、岸本は頷くだけだった。
二人はエレベーターに乗り込み、指示された階を押す。
表示板の数字が上昇するたびに、玲奈の鼓動も速くなる。
23階で、電子音とともに扉が開いた。
暗い廊下の奥、ひとつだけ光の漏れる扉。
「USBを持っていろ」
岸本が小声で言う。
玲奈はバッグの中のUSBを握りしめた。
その瞬間、彼女のスマホが震える。
画面には、再び赤いカウントダウン。残り時間は——00:11:59。
(あと12分……)
喉が渇く。足が勝手に震える。
それでも、玲奈は歩みを止めなかった。
光の漏れる扉の前に立つ。
岸本がハンドルに手をかけた。
「ここから先は……もう後戻りできないぞ」
低い声が響いた瞬間、扉が静かに開いた。
暗闇の中に浮かぶひとつの人影。
背を向けたまま、巨大なモニターの前に立っている。
画面には無数の「名前」が並び、その中でいくつかの文字が点滅していた。
玲奈は息を呑む。
(あれは……ターゲットリスト?)
その影がゆっくりと振り返ろうとした——。
玲奈はタワー最上階の会議室に足を踏み入れた。
ガラス張りの窓の外では、東京の夜景が雨に滲んでいる。
煌めく光の海が、まるで彼女を奈落に誘うようだった。
中央のテーブルにはノートPCが一台。
その画面には、いつもの赤い文字。
【残り時間 04:39】
「……ここで、終わるの?」
玲奈は乾いた唇を噛みしめた。
その瞬間、背後の自動ドアが音もなく閉まる。
冷たい風が頬を撫で、足音がゆっくりと近づいてきた。
「……ようやく来たな、玲奈」
聞き覚えのある低い声。
振り向いた玲奈の目に映ったのは──
かつての上司でも、同僚でもない。
長身の男が、闇の奥から姿を現す。
濡れた黒いコートを肩で払い、鋭い視線を玲奈に突き刺した。
「まさか……あなたが……?」
玲奈の瞳が大きく見開かれる。
忘れたはずの過去、封じ込めたはずの記憶。
そのすべてが、この瞬間に蘇ろうとしていた。
「……やはり来たか、玲奈」
暗がりから歩み出てきたのは──かつての直属の上司、岸本だった。
スーツ姿はあの頃と変わらず整っているのに、眼差しだけが冷たく歪んでいる。
「部長……どうして……?」
玲奈の声は震えていた。
岸本はゆっくりとテーブルのノートPCに手を置いた。
画面には【残り時間 03:58】と赤く光っている。
「お前が“失敗したプロジェクト”──あれは本当にお前一人の責任だったと思うか?」
「……違う……」
「そうだ。だが、世間も会社も、そして俺も、お前一人に責任を押し付けた。それが都合よかったからだ」
岸本は薄く笑った。
「だが俺は忘れていない。あの時失われたもの──4億1,973万円。その代償を、ようやく取り戻す時が来た」
玲奈は一歩後ずさる。
「私を殺して……何になるの?」
「殺す? いや──これは“裁き”だ。お前が最後に解けるかどうかで、生きる資格を決める」
ノートPCの画面が切り替わり、暗号の羅列が現れる。
冷たい電子音が響いた。
【Final Key: REBIRTH】
「……最後の謎だ。これを正しく入力できれば──生き延びられる」
岸本は椅子に腰かけ、まるで裁判官のように玲奈を見下ろした。
玲奈の鼓動が、耳の奥で爆音のように響いていた。
時計は23:15。
残り、わずか二分。
第八章「再生の鍵」
玲奈の視線は画面に釘付けになった。
【Final Key: REBIRTH】
残り時間は、00:58。
「……REBIRTH……再生……?」
思考が空回りする。
パスワード入力欄に指をかけた瞬間──岸本が薄笑いを浮かべた。
「早くしろ。お前が遅れれば、爆弾は容赦なく作動する」
玲奈の心臓が跳ね上がる。
画面の下には確かに、小さく【FAILURE=爆破】と赤字で点滅していた。
──REBIRTH。
単なる単語じゃない。
これは「入力」じゃなく「行動」だ。
玲奈の中で電流のようにひらめきが走る。
「……そういうこと……?」
23:16:22。
残り、38秒。
玲奈は迷わずPCを掴むと、テーブルの端から床に叩きつけた。
ガラスが砕けるような破壊音。
モニターが黒く弾け飛び、赤いカウントダウンが途切れる。
「なっ──!」
岸本が立ち上がる。
玲奈は息を荒げながら、震える声で叫んだ。
「再生するのは……私よ。あなたのゲームなんかじゃない!」
次の瞬間、会議室の照明が一斉に落ち、警報のような電子音が鳴り響いた。
停電か、あるいは──仕掛けの発動か。
真っ暗な空間に、玲奈と岸本の呼吸だけが響く。
そして。
ガラス越しの夜景に一瞬、稲光が走った。
玲奈はその光の中で岸本の顔を見た──驚愕と恐怖に染まった表情を。
轟音。
ビル全体が揺れる。
玲奈の意識は闇に飲み込まれていった。
第九章 (最終章)「23:17」
ノートPCを叩きつけ、赤いカウントダウンを止めた瞬間。
会議室に響いたのは、金属の軋む音と電子警報の低い唸り。
岸本の目が、驚愕と恐怖で見開かれる。
「な……なにを——!」
玲奈は息を整えようとしたが、胸の鼓動は荒く、全身に力が入らない。
外の夜景が揺れ、ビル全体が低い振動に包まれた。
「……REBIRTH」
自分自身に言い聞かせるように呟く。
ガラス越しに稲光が走る。
轟音。
天井のライトが一斉に瞬き、停電と揺れが同時に襲った。
玲奈の視界は一瞬、真っ白に染まる。
そして……暗闇。
呼吸の感覚すら消え、時間の感覚もなくなる。
ただ、最後に耳に残ったのは、岸本の呆然とした声——
「……玲奈……?」
秒針の音も、街の灯りも、すべてが消えた。
赤い文字の警告は、もはやどこにもない。
時計は……23:17。
その時、玲奈は――光の中にいるのか、それとも闇の中にいるのか、誰も知らない。
静寂だけが残り、物語はそこで終わった。
23:17」最終版構成
プロローグ
金曜の夜、東京。
外資系コンサルの高城玲奈は、駅でポケットに入っていた紙に書かれた赤い文字を見て凍りつく。
「死亡推定時刻:本日23:17」
非通知の電話が鳴り、低い声が告げる──「これからの19分にかかっている」。
⸻
第1章「最初の封筒」
駅で拾った茶色い封筒の中には、都内の地図と暗号の数字。
玲奈は過去の炎上プロジェクトの内部コードに気づき、恐怖と混乱に駆られる。
⸻
第2章「封じられたファイル」
オフィスに戻ると見慣れないzipファイル。
パスワードは自分しか知らない数字──過去の失敗の代償で解く。
ファイルを解くと次の場所、赤坂カフェと残り時間が示される。
⸻
第3章「赤坂カフェ」
赤坂の古びたカフェに到着。
カウンターのノートPCに表示される残り時間と暗号。
玲奈は自己否定と恐怖に押し潰されそうになりながらも、謎を解くために立ち向かう。
⸻
第4章「汐留への指示」
USBに現れた新たな暗号を手がかりに、玲奈は岸本と共に汐留へ移動。
夜の街を駆け抜け、時間制限の中で心理戦が始まる。
⸻
第5章「ビルの最上階」
汐留タワーに到着。
無人のはずのビルで、緊張と恐怖が増す。
残り時間はわずか4分。玲奈は岸本と共に暗号を追い、心理的圧迫に耐える。
⸻
第6章「USBの真実」
最後の暗号【REBIRTH】がただの文字ではなく、行動を示すことが明かされる。
玲奈は限られた時間の中で、自分の選択を迫られる。
⸻
第7章「汐留タワー到着〜黒幕直前」
最上階の会議室で、かつての直属の上司が現れる。
過去の改ざんやプロジェクト失敗の映像が映し出され、玲奈は最終選択に直面する。
⸻
第8章「再生の鍵」
玲奈はUSBを叩きつけ、カウントダウンを止める。
警報と轟音がビルを包み、岸本の表情は驚愕に歪む。
REBIRTHの意味を理解した玲奈は行動で答えを示す。
⸻
第9章(最終章)「23:17」
停電と揺れの中、意識が闇に沈む玲奈。
最後に残ったのは静寂と23:17の時刻だけ。
生死は不明。衝撃と余韻を残したまま、物語は幕を閉じる。
DEADLINE 23:17 @Stonemisaki29031952
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