第18話 階段を降ります

「出でよ、ママぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁ!!」


ああ、私は何度、この情けない声をあげないといけないのだろう。


___例えばだ。


最愛の人が目の前で殺されて、それはこの異世界では十分にありうる話に思えるが、その時も私はこうして泣きながら叫ぶのか。

え、ダサすぎない?

すでに直近、3回目なんですけど。

ス○オだってそう毎話、母を求めて騒いでなどいない。


「うるせぇな!!お姉ちゃんはもう働かないって言ってんだろうがっ!!殺すぞ!!」


おうおう。

過激派のニートだ。

深夜の社会問題を扱うドキュメンタリーとかで見たことある。

真っ白で綺麗な翼を取り戻した女神、もとい低級聖霊のエゼがそこにいた。

私とハシウは子どもたちが収容されていた牢獄を飛び出し、ひたすらに階段を降っていたときだった。

私は咳払いを1つして、女らしい声を演じ、


「そんなこと言ってどうするの?お母さんだっていつまでも生きてないのよ?」


「金おいてってから野垂れ死ねっババアっ!」


やばすぎるよ、エゼお姉ちゃん。

いや、エセ女神。

変態度が減少して、クズ度が急上昇している。

なんなのその最悪なトレードオフ。


「もうお母さん知らない!家、出てくからっ!」


「飯はどうすんだよ!飯はっ!あぁぁん?」


「あんたって子は、本当に。もうあんたも殺してお母さんも死ぬ!!」


「勝手にしろ!こんな風になったのは全部ババアのせいだ!!」


それはあれだろうか。

私が低級精霊使いだから、エゼも低級になってしまったとか、そういう文句だろうか。そして、私はいつのまにこの子のお母さんになったんだろうか。


「冗談はさておき、エゼお姉ちゃん。僕らで、あの男に勝てるものかしら?」


「勝てる訳ねぇだろうがっ!こちとら10センチ浮くのが精一杯なんだぞ!」


「まずその過激な口調やめてね、結構うざいから、殴りたくなるから」


「あ、、、ごめんねテネーちゃん、女神が汚い言葉を使うっていう背徳感で軽くイッちゃってた」


走って前をいくハシウが、ドン引いた顔でちらりと後ろを見た。

分かるよ、その気持ち。

ごめんね、私の精霊、頭おかしくて。

やっぱり、世間一般的にもおかしいよね、こいつ。


「ちなみにハシウは強いの?」


私は取り繕うように対話の相手を変える。


「わたしは、、、イトゥー様には到底かないません。武人ではありますが、、、」


「あ、魔法じゃないんだ?髪、青いのに?」


「なんで髪が青いと魔法使えると思うんですか。これは普通におしゃれです」


「民族のなんかとかでもないのかよ、この世界の美容師優秀すぎだろ」


前世的に、アニメのキャラとかが髪を染めているイメージがなかったのだ。

そうだよね、普通、染めてそういう色になるよね。

偏見でした。年頃の少女らしいおしゃれでした。


「イトゥー様が、お前は二番手だから青が良いっておっしゃられたので、、、」


「あいつ最低だなっ!!女の子はいつだって誰かの1番であるべきだろう!!」


おお、あまりの衝撃に格好良い台詞が出た。

キ○タクとかにしか言う権利ない言葉じゃない?

やだ、転生してイケメン度増しちゃったよ、私。


「ずっきゅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅん!!かっこいぃぃぃいぃぃ!その言葉、心とお股にささっちゃうぅぅぅうぅぅうぅぅぅぅぅうぅ」


「お前な、なんでそんな扱い受けて、怒らないんだよ」


「え、、、あれ?、、、これ幻聴?聞こえてない?」


ハシウがこちらを振り返りながら首を傾げる。

そうだよ、幻聴だよ。

だって私には何も聞こえてないから、低級精霊の気色悪い絶叫なんか。


「え、えっと、、、わたしにとっては、イトゥー様と一緒にいられることが最善なんです」


「違うな。最善と思いたいだけだ。ここで奴を自分から捨ててしまえば、全てが嘘になってしまうように感じるから、そうしたくないだけだ」


「聡明ぃぃいぃぃぃぃ!!深いぃぃいぃぃぃい!!深いのスキ♡」


「、、、あの、、、ちなみにその精霊、、、悪魔じゃないですよね?」


「話を逸らすな。いいか、人はな、他人に大切にされればされるほど、自分でも自分を大切にするようになる。だが、他人に雑に扱われれば、自分も雑に扱うようになる。ガラスを丁寧に磨いている人を見れば、それがダイヤモンドだと周りは思うだろう。でも、ダイヤモンドもテキトーに扱われれば、ガラスにしか見えない。今のお前は、自分のことをガラスだと思っている。本当は、誰かにとってのダイヤモンドのような存在なのに、だ」


決まった。

金言を与えてしまったよ。

ここ、振り返って名シーンになるかしら。


「あの、、、本当に5歳ですか?」


あ、しまった。

ハシウが怪訝な顔をしている。

完全に自分が5歳児であることを失念していた。

そうだよね、仮にキ○タクが5歳でもこんなこと言わないよね。


「って、、、お母さんが言ってました、だから、ハシウさんも、誰かの1番になるべきだよ?」


ギリギリセーフだ。

今後も、同様の事象が起きると想定されるため、「〜て言ってました、誰かが」を濫用していこうと思う。


「はぁ〜〜〜??こいつがダイヤモンド??ブッサイクじゃないですかぁ?全っ然、お姉ちゃんの方が綺麗ですけど?神フェイスですけど?女神ですけど????」


そしてこの女神はいつの間にか自信を取り戻してやがる。

目をガン開いて、ハシウに接吻でもする勢いで睨め付けている。

もうそれ、互いの鼻と鼻、くっついてるよね?

ヤンキーでもそんなガンの飛ばし方しないよ?だって汚いもん。

ハシウは関わりたくないのか、目を逸らして階段を降り続ける。

ごめんなさい、うちの子、馬鹿で。


そんなこんなしていると、最下層に出た。

入ってきたときは朽かけたアパートメントに見えたが、ここまで地下が深いとは思わなかった。

広いホールのような空間に、イトゥーと、女性らしき人物の姿が見える。


「______まじキッショ!!なんで私の名前、体に彫ってるの?ほんとキモい。お前がどこで死のうが、どんな悪さしようが、私にはなんの関係もないから。あのさ、自分の顔、鏡で見てからそういう台詞言ってくんない?イケメンならまだ許せるけどさ、その身分で未練がましいとか、ほんとキモい以外の言葉がないわ」


ごめんなさい。

先ほどまで、イケメンにしか許されない台詞を吐いていました、私。

調子に乗っていました。

なんかさ、あれだよね、愛想を尽かした女の人の言葉の辛辣さって、この世の全ての男性にとって、一言でも致死量だよね。

ほら、見て。

イトゥー、血眼で暴れ出しちゃったもん。

ここ、異世界であってるよね?歌舞伎町とかじゃないよね?

警察とか、来てくれないよね?


「きゃーーーえっちーーーーーー!」


エゼがどこかのマリリンのように荒れ狂う風にスカートを押さえながら、そう気の抜ける声で言った。















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