第16話 回想を聞きます

「___特殊相対性理論ってさ、特殊ってつくけど、そっちの方が分かりやすいよな。無印相対性理論の方がむずいって、どんな罠だよ。時間返して欲しかったよ」


「は、、、はぁ、、、?」


「あとさ、強い力とか、弱い力とか止めろよ。全然弱くないくせに。重力の方が全然弱いのに、もっとカッコいい名前付けろよな、ヴァルハラとか」


「う、、、うん、、、?」


牢屋に囚われている少年に、私はにわか知識の科学を語っている。

なぜかって?


「、、、、、、、で、今に至る訳ですよ、、、って聞いてますぅっ??」


青髪負けヒロイン___ハシウという名前らしいが、その少女が口を尖がらせてかわいらしく怒る。

彼女はずっと、回想シーンを滔々としゃべり続けていた。


「長い、それに女特有の時系列しゃべり止めて、試しにもう1回最初から話してみ?」


「えぇ、、、1時間も喋ったのにまた?えっと、わたしはロタウって町で生まれて、お母さんはロイナ、お父さんはダイシ、で、お父さんのお父さんは___」


「おい止まれ。お前は聖書か。なんで家系図遡ろうとしてんの?その時点で聞くのやめたからね、僕。はい、飛ばして次」


「えっと、、、ロタウでは、ワシカって友達がいて、いつも一緒に遊んでたの。ワシカはいつも朝の7時くらいにうちに来て、一緒に遊ぼうって言うんだけど、あ、ワシカはね、一個上のお姉さんなんだけど、、、」


「止まれ。ワシカめっちゃ重要人物なのかと思って聞いてたけど、その後20年くらい出てこなかったな」


「え?だってワシカは病気ですぐに死んじゃったから」


「お亡くなりになってたんかい!じゃぁ登場させるなよ!リソースの無駄だよっ!」


「で、でも、ワシカとの別れで悲しんでたところを、イトゥー様に支えられたから、、、」


「じゃぁそれだけを言えよっ!むしろさっきその情報なかったぞ!1個上とか年齢どうでもいいんだよっ!!」


「うぅぅぅぅう、難しいですぅぅぅぅぅぅ」


ハシウは私の詰めにすっかり怯えてしまって、小さくなってしまった。

まずい、なるべく端的に要件を伝えるという、社会人的能力がベースになりすぎて、異世界少女を怖がらせてしまった。

ここは譲歩するしかない。


「要するにだ、間違ってたら訂正して欲しいんだが、イトゥーは、ある帝国時代の貴族、その五男に生まれたと。で、母親は使用人だった。貴族の五男は土地も貰えず、財産も引き継げない、ましてや使用人から生まれた子ならなおさら。で、お兄さんたちに母子ともに虐められて過ごしていて、それに耐えかねた母は老衰するように死んだ。でも、不幸の最中、魔法の才能があることが分かった。それで奴は政治闘争に嫌気がさして、1人田舎でひっそりと暮らすことに決めた。それが母の願いでもあったから。で、お前や、メインヒロインの、、、なんだっけ、、、あぁ、そう、レオーナだっけ、と出会うと。で、三人で仲睦まじく暮らしていたが、ひょんなことから悪名高い堕天使使いを倒した。で、それが皇帝の耳に入り、なんやかんや、帝政の中心に祭り上げられた、、、であってるか?」


「す、すごいです、、、完璧です、、、天才ですか?でも、私たちの冒険をそんな簡単にまとめないでください、語るに涙の話がもっと、、、」


「いや、いい。溢れかえってるから、めっちゃオーソドックスだから、耳タコだから」


うん。

THE、だよね。

それこそ異世界生活。

きっと、どこかでお兄さんたちを見返す場面とかあったんだろうなって思うよ。

それこそ日曜劇場で親の仇に土下座させるみたいな。

「お母様に詫びろぉぉぉぉおぉぉ」とか言ったんだろうな。で、「くっぉぉぉぉぉおぉぉぉ」とか言いながら、土下座したんでしょう。

分かる、分かる。


「で、そこまでは良いとして、なんであんな名前を呼んじゃいけないような闇の存在になってるの?」


帝国が崩壊して共和制になったから?

それだけであんなんになる?


「えっと、レオーナが他の男との間に子供を作ったからです」


「は?レオーナって、メインヒロインの?」


「どちらがメインかはまだ議論の余地がありますが、まぁ、良いでしょう、そうです」


「え、、、マジ?」


「マジです。でもまぁ、気持ちは分からなくないですよ、帝政が崩壊してからというもの、俺はもっとやれる人間だ、こんなところにいるような人間じゃない、みんな見下しやがって、と酒を飲み、煙草を吸い、ぐだらぐだらしてましたから。なんとか二人で、もう1度かんばりましょうって、外に出そうとしましたけど、一切やる気ないみたいで。愛想が尽きてもおかしくないです」


えぇぇ。リアルぅ。

なんでそこだけテンプレート外れてくるん?

良く分からないけど、ヒロインって、どんなときでも主人公を支えるものだと思っていたよ、アイドルと違って。

でも、そうか、ヒロインだって、偶像ではないということか。

愛は、お互いに努力してこそ維持できるものだと、夫婦生活を振り返って思う。


「出会ったときは、レオーナはすごく精神的に参っていて、そこをイトゥー様が助けたの。だから、レオーナがすごくイトゥー様にべったりだったんだけど、、、だんだんイトゥー様の方が、レオーナの行動とか、言動に厳しくなって、最後の方はちょっと出かけただけで、男の匂いがするって怒って酒瓶投げたりしてました」


ああ、あるあるだな。

依存されてた方が、いつの間にか相手に依存するようになる奴だ。

いつも自分を頼ってきて、自分がいないとダメだ、と思い過ぎるあまり、こっとも一緒に落ちていく奴。

そうやって女関係で仕事まで駄目になる後輩を無限と見てきた。

だからよく飲みの席で先輩風を吹かして言ったのだ。付き合うなら、自立した、自分に自信のある女性にしなさいと。


「転生してまで引きこもりになったのか、、、いや、アイドルのことを考えると、現世で生きてても同じことになっていただろうな、、、で、そのレオーナは?」


「イトゥー様に囚われてます」


「殺されてないだけましか、、、お前はどうしたい?負けヒロイン__いや、ハシウ」


「私は、、、罪を償って欲しい、です。たくさん、子どもたちを殺しました、止められなかった私も、、、だから、一緒に、罪を償いたい、、、そして、いつか、それがずっと先でも、元に戻って欲しい___」


「人間は元に戻ることはない。進むだけだ___それでも、いいのか?」


「___うん___だって、、、楽しい思い出、、、たくさん、、、忘れられないから、、、一緒にご飯を食べて、狭い部屋でみんなで一緒に寝て、、、朝も、夜も、ずっと一緒で、、、それで、、、うう、、、うううううああああああ、戻りたいよぉぉおぉぉおぉ__」


ハシウは流れる涙も鼻水もごしごしと手で拭いながら、しゃがみ込む。

まるで小さい子供に戻って駄々をこねるように。


「泣くな、ハシウ。荒城の月を歌おう。月の光は過去も未来も変わらず私たちを照らすが、人間は変わっていく。そうだろう?それは良い方にも、悪い方にもだ」


また合唱が始まる。

人生は、その短さにも関わらず、紆余曲折ある。

失意のどん底で死ぬこともあれば、我が世の春で終わることもある。

それは誰にも分からない。

だからこそ、その最後の一瞬まで、人生が上向くことを諦めてはいけない。


いま荒城のよわの月 替わらぬ光たがためぞ

垣に残るはただかづら 松に歌うはただあらし


「ありがとう、晩翠先生。あなたのおかげで、人生を歩んでいけます。ほら、みんなも感謝を!」


「「「ありがとう、晩翠先生!!!」」」


外の時間は分からない。

だが、おそらく未来永劫輝き続ける月が、私たちのことを照らしてくれていることだろう。


「さぁ、絶望の乗り越え方を、あいつに教えに行こうか___」







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