第3話 自分が精霊使いだと知ります
「幸福値、カンストねぇ」
眼鏡をかけた優男が、細目をさらに細くして言う。
「嘘はついてない。人間というものは主観でしか生きられない、可哀想な生き物だからな」
金髪の髪の女がシステムとやらを瞬きもせず凝視しながらだった。
男がそれを背中から覗き込む。
「それにしても、最愛の妻は連日のように無職の男と浮気、ヒモという奴だなこれは。金は全て旦那から横流し。妻は日中働いていると言っているが、それも不倫相手の父の個人事務所で、親公認のもと、日中から情事にふけってると____ああ、ひどい、、、娘はこいつとの子どもなのか。それに、、、ほう、娘は娘で、父親から買い与えられた本など1つも読んでおらず、援助交際につぐ援助交際、ちょっとエッチなライブチャットで荒稼ぎ。父親のことは小遣いをくれる男としか思っていない。本当の父親は誰かとうに知っていて、いつも三人で楽しく食事に、と。無論、金は田中太郎が稼いだものだ。それに就職もしてないじゃないか、初任給として一緒に飲んだ日本酒は安酒も安酒。あとは、、、同僚たちは面倒臭い仕事をぜんぶ田中太郎に押し付け、大学でも学科長だのなんだの、研究する間もなかった、、、。友人たちは彼を財布替わりとして、みんな、誰も、あいつのことが好きな奴は一人もいない。両親すら、彼を産んですぐに不仲になっている。父も母も、どちらも浮気ばかりで、自分たちの子どもを幼少の頃から邪魔だと思っていた、、、すごいな、これは。あまりにも、鈍感すぎやしないか?」
「ああ、自分の娘だと信じて疑わない、そういう能天気さと鈍感さに、妻も苛立っていたようだ」
「確かにな、普通気づくだろう」
「己を幸福で恵まれている人間だと、本当に根っから思っていたらしい」
「それで、なんでこの男を送った?」
「前世で何かしら不満や、満たされない思いがあれば、転生先でその負のエネルギーを発散して何事かを為すはずだ、とそう人間の力を信じていたが、あまり上手くいっていない。そうであるならば、この能天気で悲惨な幸福者にしてみようと思ってな。希有な存在は、イレギュラーとして役立つかもしれない」
「なるほどな、まぁ一理ある。隠れていろというのは?」
「時が来るまでは、余計な波風が立たない方がいいだろう?それに、こういうお人好しは、勝手に表舞台に出てくるはずだ。他者に流されてな」
「君はひどい女神だ。だが、仕事ができる」
「ああ、私はシゴデキ女神だからな」
金髪の女神、その黄金の瞳もまた、眼球の中で雷が鳴り続けているかのように輝いていた。
▲▽
私は攻撃的な変態である。
相手が引くほどに、拒絶をあらわにする度に、攻撃力を増すタイプである。
でも、その分というか、向こうから来られるのには尋常じゃない嫌悪感がある。
「お姉ちゃんの太もも気持ちいい?ねぇ、気持ちいい?イっちゃう?」
5歳児相手に何を言ってるんだこの女神は。
現世だったらそっこー逮捕だ。
さっきから膝枕で寝させられているこちらの顔に涎が垂れてきている。
厳密に言えば、大量の涎が、その大きすぎる胸に一度池を形成してから垂れてきている。
まじ汚い。
雨はようやく止んだのに、非常に局所的な豪雨である。
「ねぇ、お姉ちゃん、女神って何?」
だが、私はこのチャンスを逃すまいとそう質問した。
この機会を逃せば、そうそうこの世界について聞く人間もいないのだ。
私からの主体的な発言ということもあり、その怪鳥はいきいきと語り始めた。
いわく、この世界の人間以外の生物は、その高潔さによって下記のように分類されるらしい。
大天使、天使、高級精霊、中級精霊、低級精霊、堕天使、魔物、悪魔、魔人。
後ろに行けばいくほど、汚れた存在とされるとのこと。
あれ?
この鳥は女神とか名乗ってなかったか?
「お姉ちゃんは、女神なんだよね?」
「はぁ、はぁ、そうだよ、はぁ、はぁ、テネーちゃん。きゃぁ!名前呼んじゃった!!」
吐息が生暖かい。
部屋の湿度が尋常じゃなく高いのは先ほどまで降っていた雨のせいだろうか。
「女神は、その分類にいないよ?」
「ああ、、、はぁ、、、そうなの、、、よく気づいたね、えらいね、賢いね、エッチだね」
「うんそうだねエッチだね。で、なんでないの?」
「それはね、、、はぁ、、、はぁ、、、女神は大天使の中から、数百年に1度しか生まれないから、、、だよ、、、、運命だね?」
「え、、、それじゃぁ、、、もっとも高潔ってこと?」
「そうだよ、この世で最も高潔な存在。今は世界に7体だけ、運命だね?」
「そっかお姉ちゃんすごいんだね」
「運命だね?」
「ううん、違うよ」
は?
こいつがこの世で最も高潔な存在?
一気に話の信用度が地に落ちた。
まるで聞く価値がないほどに。
「ねぇ、他には?他には聞きたいことない?お姉ちゃんの黒子の位置とか、まぁ黒子ないんだけど、あと、お風呂で体洗う時はどこからとか、まぁ、常に綺麗だからお風呂入んないんだけど」
「じゃぁ、、、なんか、、、魔法とかそういうのは?」
女神だの大天使だのがいるなら、そういうものもあるのかもしれないと思ったまでだった。
だが、
「うん、あるよ。えっとね、人間は三種類いて、魔法を扱える
「え、、、そうなの?」
「お姉ちゃんとお話しできてるから、間違いないよ?」
まさかの、こっちの世界でも私は才能に恵まれていたのか!?
何が不遇だ、あの糞女神。
そういえばあいつ、私に女神って言われても否定しなかったな。
じゃぁこのエゼとか言うのと同じか?
「じゃぁじゃぁ、魔法とか武芸は?」
「う〜ん、正式な才能は、学校に行って、測定の魔法を使える人に見てもらわないと何とも言えなくて」
「あ、学校とかあるんだ」
「もちろんあるよ。才能の測定は学校以外ではできないの」
「なんで?」
「ほら、ちゃんとお勉強もしないのに、能力だけ高いって知っちゃったら、いろいろいけないことしちゃうでしょ?拘束魔法であれこれ、精神干渉魔法であれこれ、感覚増幅魔法であれこれ。だから学校でしっかり教育を受けるっていう義務と引き換えに、自分の力を知る権利が与えられるの」
あれこれの内容がひどい_____いや、もういちいち反応するのはやめよう。話が進まん。
「そっか、学校は何歳から?」
「7、、、歳から、、、だから、、、あと、、、2年、、、くっ、、、離れたくない!!!ああ、でもでもでも!!!お金がないと行けないから!!良かったねっ!?家ビンボーで!!ゲボ親で!!」
ひどい言いようだ。
己の欲望にあまりにも忠実すぎて失礼に過ぎる。
悲しい顔を私がしたのか、鳥、もといエゼは取り繕うように、
「大丈夫!!魔法も武芸も、お姉ちゃんが教えてあげるから!!」
「でも学校に行かないとじゃないの?」
「ふふん!!お姉ちゃんは女神!!その辺はお茶のこさいさいってもんよ!!」
どんと任せなさいということなのだろうが、自分のでかすぎる胸を叩く。叩いた後に無駄に揺らして反応を見るのはやめてほしい。どんな感情も湧いてないから、無だから、無。
その後、どうしても一緒に寝たいというエゼに、
「僕、汚いから、綺麗なお姉ちゃんを汚したくない、、、こんなに綺麗なのに、、、」
って目を見つめて言ったら、透明な鼻血らしきものを吹き出して気絶した。
私は白目をひんむいて倒れたエゼを無視して、小屋の壁に寄り添うようにして目を閉じる。
精霊使いの才能。
珍しい、希有な才能。
少しだけ心が沸き立つのを感じながら、ゆっくりと眠りにつく。
母親に打たれた頬はまだ痛むが、案外すぐに意識は遮断された。
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