第4章:日本対アメリカ ― これが、V.B.L

 ブザーが鳴った瞬間、アリーナの空気が張り詰める。

 これは世界大会で中途半端に終わった因縁の戦い――“アメリカのリベンジマッチ”。

 あの時、アメリカは不可解なラグに悩まされ、本来の力を出し切っていなっかた。

 日本も、どこか後味の悪さを抱えたまま優勝を掴んだ。

 今日こそ、互いが胸を張って語れる「本当の決着」がつく。


 「レディース・アンド・ジェントルメン――待ちに待った一戦!」

 実況の声が会場を震わせ、観客は総立ち。手拍子、口笛、名前を叫ぶ声が渦のように広がる。


 ボールが高くトスアップされる。

 イーグルがまるで空気を支配するように跳び、ジャンプボールを制す。


 「ジャンプボールはアメリカ! イーグルが制した!」

 実況の声に、客席から「イーグルーー!」という歓声が飛ぶ。


 序盤からアメリカは圧巻の個人技を見せる。

 シルキーがトップでレッグスルー――股下を通すドリブルでディフェンスを揺さぶる。

 「速い! シルキー、切り込む!」

 さらにチェンジオブペース、緩急をつけて一気にギアを上げると、

 わずかに空いたスペースからプルアップジャンパー。


 ボールがリングを弾き、ネットが心地よい音を立てる。


 「入ったーっ! シルキー、ミドルレンジで鮮やかに先取点!」

 実況が煽り、観客席が揺れる。


 「彼女は、3Pだけじゃないのか?」

Hare Showが口走るが、日本も負けてはいない。


 Hare Showが一歩踏み込み、スターターステップ

――一瞬で重心を前に乗せて相手を止め、

 そこからビハインドザバックパス!


 「おおっ! 背中通した!」観客が一斉にどよめく。


 ボールはマジックのようにYUTAの手に収まり、インサイドアウトで相手を外に揺さぶる。

 「抜いた! 抜いたぞ!」観客の声が弾む。

 QUEENがロールターン――体を回転させる切り返しでゴール下に切り込み、

 フィンガーロールで柔らかく沈めた。


 「決まったぁー! 日本、同点に追いついた!」

 客席から「QUEEN!」「最高ー!」の声援が飛ぶ。


 攻守がめまぐるしく入れ替わる。

 イーグルはギャロップステップで間合いを詰め、フェイドアウェイ。

 「空中で後ろに下がった!?」実況が叫ぶ。

 ボールはリングに吸い込まれた。


 次のアメリカの守備ではテイクチャージ、体を張って正面からNOVAが止めれる。

 「うわぁ、止めた!」「あれを正面で受けるのかよ!」観客のどよめきが広がる。


 NOVAは立ち上がりながら苦笑いした。

 「さすが……簡単には抜かせてくれないか」


 次のポゼッション。

 NOVAはヘジテーション――一瞬止まって相手の体重移動を誘い、

 シザーステップ、両足を交差するようにして逆を突く。

 さらにシャムゴッド――

ボールを遠くに突き出してから一気に引き戻し、相手を置き去りにする。


 「おおおおっ、出たー! シャムゴッド!」観客が総立ちになった。

 そのままステップバックからスリーポイント――クリーンヒット。


 「決まったぁぁぁぁ! 日本、逆転!」

 観客席は拍手と雄叫びで揺れた。


 アル=ナジール戦で見た「一糸乱れぬ歓声」とは違い、ここでは誰もが思い思いに叫び、泣き、笑っている。


 NOVAは胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。

 「……やっぱり、こういったゲームが気持ちいい!」

 QUEENがちらりとNOVAを見たが、何も言わず、同じ方向を見つめた。


 QUEENは次の攻撃でジャブステップからドライブ、

 YUTAはチェンジオブペースとロッカーモーションでDFを翻弄し、

 スクープショットを沈める。


 「日本、完全に乗ってきた!」実況が叫ぶと同時に、観客がリズムよく手拍子を始める。


 残り十秒。戦況は、一進一退、スコアは同点、アメリカボール。

 イーグルがトップで構える。NOVAが正面から対峙する。


 「ラストショットだ!」観客の声が一斉に重なる。


 右へフェイント、左へドライブ――NOVAが反応する。

 だがイーグルはスピンムーブからジャンプショット!


 ブザーと同時に放たれたボールは美しい放物線を描き、リングに吸い込まれた。

 試合終了。スコアはわずか2点差でアメリカの勝利。


 会場は爆発したような歓声と拍手で埋め尽くされた。

 「最高のゲームだー!」「これがVBL!」観客が叫ぶ。


 「……惜しかったな」YUTAが息を整えながら呟く。

 「でも、最高の試合だった」QUEENが胸を張る。

 NOVAは悔しさを噛み締めながらも、心の奥から笑みを浮かべていた。


 「これが、V.B.L……」

 Hare Showが大げさに両手を広げる。「青春だろ! バスケは魂だ!」


 イーグルが歩み寄り、右手を差し出した。

 「なかなか、やるな!いつかまたやろう」

 NOVAは少しはにかみながら、その手を握った。

 「……今日の試合、V.B.Lイチかも!」


 会場はさらに大きな拍手で包まれ、誰もがこの瞬間“本当のV.B.L”を感じていた。


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