第22話
時が流れていくのはあっという間なもので、エルは頑張り年末となった。
もはや手を動かすこともできない。
「ヤーサ君、星を見に行きましょう」
「待って、そんな体調で外に出るのは……」
「大丈夫ですわ。と言ってももう自分じゃ動けないのでまたあの時みたいにおんぶして貰わないとですけれど」
「そんなことは問題じゃないよ!」
「ヤーサ君男らしくないですわよ」
「だって、だって」
「ヤーサ君は優しすぎるのが少し問題ですの。最後位笑ってまでとはいかなくても笑顔で見送ってほしいですの」
「そんなの無理だよぉ」
「最近のヤーサ君は本当に泣いてばっかですの」
もうっとため息をつくエル。
エルは運命を受け入れていて穏やかである。
反対にヤーサは受け入れられなくて苦しんでいる。
それでもエルの願いを叶えるためにエルの体を持ち上げた。
スミレの防寒も済まし三人で星が綺麗に見えるところへと向かう。
外に出て、下にビニールシートをひきエルを後ろから抱きしめるように座った。
「綺麗ですの」
「うん……」
「暖かいですの」
「俺もだよ」
腕の中のエルの体温は暖かい。
もう限界だなんて信じられないほどに。
「ヤーサ君」
「なに?」
「呼んだだけですの」
「そっか」
あんなに見たかったエルの笑顔を見ることが辛い。
「ねぇ、ヤーサ君。私、楽しかったよ」
――やめてくれ。
「何もかもが」
――もう終わりみたいな言い方をしないでくれ。
「こうやって一緒に星を見たこと」
――またいつだって一緒に見ればいいじゃないか。
「意味もなく抱き合っていたこと」
――いつまででも抱き合って居ようよ。
「キスもいっぱいしましたね」
――まだしたりないよ。もっともっとしていようよ。
「最高の宝物も恵んでもらいましたの」
――まだこれからだよ。これから二人で見守っていこうよ。
「最後には苦労しか掛けませんでしたわね」
――あんなのは苦労じゃないよ。
エルの言う通り最近泣いてしかいない。
やはり笑ってお別れなどできるわけがない。
「エルちゃん、命を、命を分け合う魔法って知ってる?」
「やっと口を開いてくれたと思ったら、突然なんですのそれ?」
「都市伝説なんだけどね、愛し合う二人がお互いの寿命を足して平等に2で割る魔法なんだって」
「ふーん」
興味がなさそうである。
「びっくりするほど、どうでも良さそうだね」
「だって、そんなものがあったとしても私は絶対に使いませんもの」
僕は、藁にもすがる思いだと言うのにも関わらず彼女はにべもなく興味、必要が無いと切り捨てる。
「……なん、で」
「あら、当たり前のことを聞きますのね」
「だって……」
「自分に置き換えてみればすぐにわかると思いますわ」
「わか、んないよ」
本当は、彼女が言う通りすぐにわかった。
わかってしまった。
けれども、本当のことを言いたくなくて……。
それでも、どうにか口から捻り出したのは嘘だと直ぐにわかってしまうようなたどたどしいものだった。
「嘘ですの」
僕の下手くそな嘘は彼女には当然のように通じない。
「嘘じゃない」
「絶対に自分の方が寿命が短いなんて分かってて平等にしようとなんてしないですわ」
「…………」
「ここで嘘をついてするよなんて答えたところで私の意見は変わりませんことよ」
「僕は、それでも…………」
「ダメ、ですの」
「嫌、嫌だよォ」
ぽろぽろと情けなく涙まででてきてしまう。
「そんな情けない事言わないでくださいまし。ほら男の子なんだから」
「どこにも、行かないで欲しい」
「難しい注文ですの」
「ずっと一緒にいてよ」
「無茶ばっかり言わないでくださいまし」
「………………」
「でも、これだけは言えますわ」
「………………」
「愛してます」
「僕、も、だよ」
「そんなものがあったとしても私は使いたくないですわ。ヤーサ君の時間を奪うなんて絶対に嫌ですの」
エルはあったとしても拒絶するとはっきり宣言した。
「それに私、なんだかんだありましたけど運命の女神さまには感謝しているのですの。こんなにも幸せな人生は無いと思いますわ。ヤーサ君にこんなにも愛して貰ってヤーサ君の腕の中で逝ける、最高の人生ですの。だからそんなに悲しそうな顔をしないでくださいませ」
――無理。無理だよエルちゃん。
「ヤーサ君、今何時ですの?」
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