第20話
「ヤーサ君、当たりましたの!」
朝から上機嫌なエルに何のことかと首をかしげる。
「宝くじかなんか?」
「もっといいものですわ!」
ますますわからないがエルの調子をよくするため、魔力の操作をしようと触ったらあることに気が付いた。
おなかの辺りにに異物を感じることに。
「えええええええるちゃん、なななんかいいい異物があるよ!」
「異物があるって言い方は無いと思いますの」
「てことはやっぱり……」
「はい、私とヤーサ君の子供ですの」
あまりのことに言葉を失う。
「その、言葉が出てこない」
「うふふ。言葉は要りませんわ。その、抱きしめてもらえま――」
もう抱きと言った時点でヤーサは動いていた。
エルを優しく、力強く抱きしめた。
不安が山積みではあったもののいざできてみると感慨深いものがある。
エルとの愛の結晶、考えるだけで何かがこみあげてきた。
ついでに勢い余って口づけを交わす。
「エルちゃん、大好き、愛してる」
「私もですわ」
それからの日々はあっという間だった。
エルは仕事もやめ体調を整えることに全力を注ぎ、ヤーサはこれまで以上に過保護になった。
師匠に必要なことから必要なさそうなことまでひたすら聞き備えた。
最後の方は師匠もあきれていた。
「それは心配しすぎなんじゃねぇか?」
「そんなことは無いですよ!」
世界で最も進んでいると言ってもいいほどの情報を嫌なほど集めたのだ。
それでも健常者の情報でありエルみたいな体が弱い人に対して通じるかわからなく心配は尽きない。
「師匠、話は変わりますけど神の存在って信じてます?」
「いるよ」
即答。
宗教なんてばからしいと常々言っているような師匠が即答したのだ。
これにはヤーサも多少びっくりした。
「この世界にはな、どえらい性格がわるい女神さまが一人いるよ」
「性格が悪い女神ですか?」
「あぁ、知識だけが目当てで呼び出したはいいけど自分の綺麗な世界に種は撒かせないぞなんて感じの女神がいるんだよ。あと上から眺めてたまに自分の好きなような展開に
なるよう手を加えてくる最悪の女神だな。アイツのせいで俺はA級戦犯よ」
やたら饒舌に語る師匠。
後半は笑いながらだが恨みつらみはしっかり伝わってくる。
「まぁ、どうせ会えないだろうから関係は無いだろうがな」
気にすんな、と師匠は話を締めた。
月日は流れ、エルの出産となった。
しっかりとできることを整え最善を尽くしたヤーサ。
幸いエルの体調は悪化することなくこの日を迎えることができた。
エルの手を握り魔力の循環を促し、あとはひたすら応援し続けるヤーサ。
握られた手に力が入る。
永遠につづくかのように思われた時間だったかやっとその時が訪れた。
生命の誕生、いろんなことがあっという間でヤーサは自分が何をしていたかなどもうすでに覚えていない。
ついでに言うとそこからの記憶もなんとなく曖昧である。
「可愛い女の子ですよ~」
気が付いたら赤ちゃんを抱いて泣いていた。
「もう、パパは無き虫さんですの」
エルが苦笑していた。
新しい呼称で現状が変化したことを実感する。
それでも涙を押えることができずエルに何か言おうにも言葉が出てこない。
無理矢理なんでもいいからと感謝の言葉をひねり出した。
「あ……りが、とう」
不格好だがしっかりとエルには伝わった。
「はい」
「エ……ママ、愛してる」
「私もですわパパ」
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