最後のその時まで
篠原宙兵
プロローグ
「命を分け合う魔法って知ってる?」
子供のころ聞いた噂が耳に残っている。
単なる都市伝説の類でしかないのだけど、命を分け合うことが出来、最後のその時まで愛し合う二人でいられる夢のような魔法についての噂が。
僕は、そんな噂話を知っているかと最愛の彼女に尋ねた。
「命を分け合う魔法? 知りませんわ。なんですのそれ?」
彼女は知らないと答えた。
あまり興味すらなさそうに。
「都市伝説なんだけどね、愛し合う二人がお互いの寿命を足して平等に2で割る魔法なんだって」
「ふーん」
今の状況を打破出来るかもしれない話を聞いても彼女は本当にどうでも良さそうに相槌を打つだけだった。
「びっくりするほど、どうでも良さそうだね」
「だって、そんなものがあったとしても私は絶対に使いませんもの」
僕は、藁にもすがる思いだと言うのにも関わらず彼女はにべもなく興味、必要が無いと切り捨てる。
「……なん、で」
「あら、当たり前のことを聞きますのね」
「だって……」
「自分に置き換えてみればすぐにわかると思いますわ」
「わか、んないよ」
本当は、彼女が言う通りすぐにわかった。
わかってしまった。
けれども、本当のことを言いたくなくて……。
それでも、どうにか口から捻り出したのは嘘だと直ぐにわかってしまうようなたどたどしいものだった。
「嘘ですの」
僕の下手くそな嘘は彼女には当然のように通じない。
「嘘じゃない」
「絶対に自分の方が寿命が短いなんて分かってて平等にしようとなんてしないですわ」
「…………」
「ここで嘘をついてするよなんて答えたところで私の意見は変わりませんことよ」
「僕は、それでも…………」
「ダメ、ですの」
「嫌、嫌だよォ」
ぽろぽろと情けなく涙まででてきてしまう。
「そんな情けない事言わないでくださいまし。ほら男の子なんだから」
「どこにも、行かないで欲しい」
「難しい注文ですの」
「ずっと一緒にいてよ」
「無茶ばっかり言わないでくださいまし」
「………………」
「でも、これだけは言えますわ」
「………………」
「愛してます」
「僕、も、だよ」
夢のような命を分け合う魔法についての噂話。
もしその噂を信じ、魔法を探していたのならば今とは違う未来が待っていたのだろうか……。
こんな残酷な今が訪れると分かっていたのならば、もっと必死にそんな夢のような話を追い求めて抗うことが出来たのだろうか……。
今となってはそれも悩んでも仕方のないことだとはわかっているが、どうしても考えてしまう。
恵まれた魔法の才能がある僕ならば…………。
もっと早くから動いていれば少なからず何かが変わったのではないか…………。
刻一刻と残された時間が過ぎ去っていく中、僕はただ彼女を抱きしめ泣いていた。
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