不器用とスープジャー
葛籠澄乃
第1話
中学時代のこと。冷えた身体に布団を被せる。厚着をしても、どんなに布団を被っても、心まで冷え切ってしまって涙が溢れてしまいそう。鏡を見たら自分でもわかるほど酷い身体をしている。浮き上がった肋骨。細い手脚。青緑の血管。頭痛がして、関節痛も酷い。普段からあまり食べないので、買う必要もない冷蔵庫の中はほぼ空だ。だからといって今から買いに行く力もない。ほぼ顔の見合わせることのない父に連絡を入れる。実に学費の連絡をした以来なので、数ヶ月ぶりだった。『熱が出ました。ゼリーを買ってきてほしいです。お金は部屋前に置いておきます』スマホも僕も、ベッドの上に吸い込まれて目を瞑る。
しばらくして起きたときは部屋前で物音がした。鍵をかけているので、部屋に入ってくることはない。気配が消えたのを確認して、扉を開ければゼリー飲料と、スープジャー。蓋を開ければ温かな卵スープだった。口をつければ、食道の位置がわかるほど熱く、腹まですとんと落ちていった。冷えていた身体がすぐに温まっていくのを感じる。久々に触れた愛情というか安堵感に、声を殺して涙を溢れさせた。スープを飲み干したあと、布団の中はようやく暖かいと思えた。
天井を見上げ、前髪を撫でる。父と離婚をしてもういなくなった母はどう撫でてくれていたっけ。遠すぎる朧げな記憶の中、何度か撫でて寝入ってしまった
不器用とスープジャー 葛籠澄乃 @yuruo329
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