理と歪みの間──多元の掌編集
中島充
【掌編01】みかんを食べたい(純文学)
オレンジ色の丸い形。それが網の中にいっぱい入ってる。ヘタを取って小さい点の数を数えたら、中の実と一緒だったって聞いたことあるよね。初めて聞いた時に、実際に試してみた。一個違った気がしたのを思い出す。でも、よく気がついたよね。その人は暇な人なのかな。
網を破ってみかんを出した。網は簡単に破れて、ボクの手の中を転がる。そして、甘酸っぱい匂いがかすかにしてきた。じーっと見ながら考えてみると、みかんを包む袋って網のイメージがある。なんでだろう。でも、調べる気が起きないな。だって、見つめているとよだれが溢れてきちゃうから。
みかんのヘタを手のひらに置いて、おしりの部分をぶすりと刺した。指先からはひんやりとした柔らかい感じ。冷たいと言えば、やっぱりみかんを凍らせたやつだよ。給食の時にみんなでじゃんけんをしたっけ。あの時はむっちゃ盛り上がった。どれを出そうかなって、組んだ手の間からのぞいてみたんだ。見えもしない相手の手を想像するためにね。でも、全然勝てないの。ついつい、最初にぐーを出しちゃって、すぐに負けちゃう。
あらあら、話が飛び出ちゃったね。さてさて、ゆっくりとみかんの皮を破ってく。破った皮を広げてみると、まるでバナナの皮をむいたみたいに、きれいにむけた。これを地面に置いたら、誰かさんはすべって転ぶかな。もちろん、そんなことはしないけど。そうそう、みかんの皮は美容にいいって誰か言ってなかったっけ。でもね、レモンのパックもそうだけど、お肌にいいのかな。とてもそうは思えない。それに、後始末が大変だよね。
皮をむいた赤ん坊みたいなみかんが一つ、白いスジに覆われて、手のひらに座ってる。優しくなでなでしたら、小さなスジが手についた。目立つスジをきれいにすると、きっと苦味も減って甘くなる。口の中にちょっぴりアクセントに酸味を添えて。
口に一つを放り込むと予想通り、甘酸っぱさが広がった。二つ三つと食べ続けると、最後の一個がガリっとしたよ。種が一個入ってる。珍しいのか、ハズレなのかちょっとわかんない。それでも、きれいに食べちゃった。指にくっついたのは、小さな白いスジ。
まだまだ食べたくなって、新しいみかんに手を伸ばす。でもね、指には湿った嫌な感じ。恐る恐る取り出してみると、一個がくさってた。あたしは残念な気持ちになって、みかんをゴミ箱に投げ捨てた。
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