理と歪みの間──多元の掌編集

中島充

【掌編01】一服の暴力(純文学)


落ちているタバコの吸い殻を拾う。


なるべく先が残っているやつがいい。


ビニール袋にはシケモクの材料が集まった。


また、指が震えてきた。

チャッチャと作らないとな。


土管の中にタバコの残骸が転がっている。


俺は土管の中で座る。

ここだと冬でもあったかい。

浄水を海に流すはずの土管。

今は一滴も流れちゃこない。


拳くらいの石をつかんで潰す。

タバコのフィルターが潰れて、乾いた茶色がお茶っ葉みたいだ。

婆ちゃんが茶漉しで、番茶をいれてくれたっけ。

今では、俺はこのザマだ。

お茶には程遠い匂いが、指を落ち着かす。


ビニール袋の上で、両手に茶色をのせて振る。

手にはシケッたゴミが残る。

それを俺は海に捨てる。

冬の青黒い海が、俺の汚れで染まって気が晴れる。


砕いたタバコの中からフィルターを探す。

マシなのがあるといいな。

冷たい土管の上をザラザラと手が鳴らす。


マシな紙とフィルターを見つける。

唇が綻ぶのがわかる。

メシよりタバコ。

これが俺の人生さ。

波がザブンと同意した。


フィルターに綺麗な茶色を詰め直す。

できた、できた、綺麗な宝物。

せっかくだから、ぶらぶら歩きながら一服しよう。

なんだか、お天道様も俺を祝ってくれている。

何だか光が眩しいな。

見晴らしのいいところで吸ってみよう。

土手を登ると海の果てはキラキラしてる。


宝物に古びたライターで火をつける。

肺の中まで、喜びが満ちる。

そして、愛おしく鼻からゆっくり出す。


おや、フードをおろした小学生が歩いてくるぞ。

後ろには中学生か。


あら、残念。

宝物も終わりの時だ。

小学生がすれ違う。

あどけない顔で何不自由なく暮らしてるな。


太陽みたいに眩しかった。

俺は腹立たしさから、魔が刺した。


風が土手にカサカサと揺れる金のススキが並んでる。


俺はフードに宝物を落とす。

フードに赤い炎が光る。

俺は小学生に背を向けた。


だけど、やばいなと振り返る。


中学生が、シケモクを持って俺を睨む。

小学生がなんだろうって顔を中学生に向けた。

中学生の手から赤い炎が落ちる。

そして、綺麗な茶色の革靴で容赦なく踏み潰す。


俺の宝物なのに。


中学生の手が小学生を撫でる。

あいつの口が動いた。


眩しい奴らに背中を向けて、俺は一気に駆け出した。

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