Rockk@ Girls Crossing
クサリマグロサヴァヲ
黎明篇
序
それは、高校生バンドの頂点を決める夏の祭典、HBC(High school Band Colosseum)における出来事。
ある年の夏。
この年の大会は、嵐が近づく中で開催された。
初めは雨にも見舞われず、曇天の中での開催ではあったものの、決勝戦が始まる頃には荒天となり、大会は一時中断となってしまった。
そこから約一時間。
雨脚の勢いは一向に止まらず、運営側は大会をこの時点で中止にしようとしていたが、決勝に進んだ両校それぞれの陣営は今よりも雨脚が弱まってきたらでいいからやらせてほしいと強く嘆願した。
そこにはそれぞれの意地が、そして大会を戦い抜いてきたテンションを保ったままで雌雄を決するのは後日ではなく今この時しかないと。
一歩間違えれば危険を顧みないことではあったが、両校のあまりにも強い想いに運営側は再考を始めた。
その結果、現状は雨模様ではあるものの、既に雨脚のピークは過ぎ、強風も危険を伴うようなレベルではないことが確認され、運営側は大会の再開を決断。
つまり、決勝戦が開催されることとなった。
但し、念のためではあるが、雨天時に雷が確認された時点で危険と判断し、大会は即座に中止するという条件が付いた。
その決勝戦に残った二校は、ここ数年は王者として君臨しているストランドブルグ国際学園日本校(通称、ストラ)。
対するは、全参加校の中でもダークホース中のダークホースでもあった無名の高校、下倉女子高等学校(通称、下倉)。
決勝戦は、ストラが先攻となり、決戦の幕が切って落とされた。
緩むことのない雨脚の中、メンバーの演奏が始まった。
圧倒的な演奏力とブレのない音色、そしてとても高校生レベルとは思えない技術力は、文句のつけどころのないものであった。
そのためここ数年の大会においては、ここが優勝の座を勝ち獲り続けており、今年も連覇が目に見えていたかに思われた。
そう、あの事象が起きるまでは。
そして一方の後攻の下倉。
全体的なレベルでは、ストラにやや劣るものの、これまで予選敗退しかなかった無名の高校バンドがここまで来たのは、メンバーの一人、ベースボーカル担当の沢渡満里奈(高校三年)の類まれなレベルの高さありきによるものだった。
彼女は歌唱力はもとより、ベースの扱いにおいてはプロ顔負けの技術を持っていた。
そして驚くべきことは、それだけではなかった。
そのステージの最中でも、雨脚は決して引くことがなかった。
メンバー全員、ずぶ濡れになりながらも、彼女たちはステージ上からこの雨を吹き飛ばすような、ノリのいいロックナンバーを奏で続けていた。
そんな曲の間奏の中、満里奈はおもむろにマイクスタンドを掴み、勢い余ってこう叫ぶ。
「こんな大雨なんて、私たちの演奏でフッ飛ばしてやる!!!」
彼女以外のメンバー、そしてオーディエンスは、完全にノリだけで叫んでいるだけだと思っていた。
それからは二曲目、そしてラストとなる三曲目へと続いてゆくのだが、それに伴い、現地の天候は次第に変化が起き始めていた。
彼女の叫びが天に通じたのか、現地の雨脚は次第に弱まり始めていたのだ。
そして彼女たちのステージが完全に終わると、先ほどまで激しく降っていた雨が完全に止んだのであった。
偶然の出来事ではあるものの、満里奈の叫びで雨脚を止めたことは、メンバーたちはもとより、オーディエンスも度肝を抜かれ、バンドの演奏も相まってか、大好評を得てステージは終わった。
両校の演奏が終わり、いよいよ今年の王者を決める時が来た。
オーディエンスの投票とネット投票の総合数により勝利校が決定し、その結果。
軍配は、下倉高校に上がった。
総合力ではストラが断然上ではあったものの、下倉に至っては満里奈の力に加え、先の天候を変えたことが勝利の要因になっていたようだ。
ネット上では、HBCにまさかの番狂わせが発生したことに加え、下倉が優勝したことから、無名だった私立校は一晩で、一躍注目を浴びることとなった。
特に満里奈に至っては、プロ級の腕前の他にもルックスの良さ、果ては天候を変えたことから「彼女は持ってる」などのオカルト的な話題にも事欠かず、プロ方面からも何かと熱い注目を浴びていたようだ。
後にこの年の出来事は『伝説の嵐の決勝戦』として下倉、そして、ストラの中で語り継がれることとなる。
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