祈祷お悩みラジオ~聖女エイファはあなたのためになんでも祈ります~
たーたん
第一話 今夜もあなたの傍で
【はじめに】
本作は「第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト」ASMR部門 参加作品です。
※ ASMRの台本を意識した構成になっております。
一本の短編として、よろしければ最後までお付き合いくださると嬉しいです。
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//SE 鐘の音(ごぉぉん、ごぉぉぉん)
//SE 小気味いいパイプオルガンの音
「聖女エイファの――オールナイト祈祷~~」
(おしとやかな声がエコーする)
//SE 讃美歌のラストのようなハーモニー
//SE バックで荘厳な曲が小さく聞こえる
(優しく、慎ましい声で)
「お祈り周波数0176――聖女エイファの祈祷お悩みチャンネルです。迷える子羊の皆さま、こんばんは。今夜もまた、世界の片隅にある小さな教会の懺悔室より、あなたのお耳に祈りをお届けいたします」
//SE キラキラっとウィンドチャイムの音
(数秒の間)
「この懺悔室には、世界中の方々の心の声が届きます。今日はどんな心の声が聞こえるのでしょう」
//SE リィィンとジングルの音
//SE 数秒その残響が続く
「はい。ということで、今日は一日いかがお過ごしでしょうか。私は昼間に壊れた窓を修理しようと木材を集めていたのですが、廃材でも触るなと怒られてしまいました。意思疎通の難しさを改めて実感した一日でした」
(数秒の間)
「それでは、本日の心の声。お祈りネーム【黒いギルド裏】さんから」
(一拍おいて:すべてエイファの一人語り)
「最近、仕事の疲れと、職場のストレスで、なかなか眠れなくて困っています」
(息を呑んで、心から労うように)
「――それは本当にお疲れ様です」
「職場では残業が慢性化し、いつも帰るのは日をまたいでからで、次の日は六時には起きないと間に合いません」
(ハッと心配げに)
「――これはブラックな香りがします。お名前と掛かっているのでしょうか」
「朝の満員馬車も本当に辛くて」
「――まぁ。それはまさに、労働戦士様たちの試練でございますね」
「このままでは、オカシクなってしまいます! そこでエイファさんの癒しお祈りボイスであなた呼び全肯定して欲しいです! 明日からまた頑張れるようにお救いください」
(心配そうに、語尾を強く発音)
「オカシクなってしまわれては大変です!」
(くすりと笑ったあと、耳元にささやくように)
「ふふ、承知しました。それでは黒いギルド裏さんの日々の疲れを私の声で癒せるよう、あなたのためにお祈りを捧げますね」
(おっとりとした声で)
「あなた、今日も一日本当にお疲れさまでした」
「……少しだけ、近づいても? ――ありがとうございます」
(語尾を跳ねて励ますように)
「満員馬車で毎日頑張ってお仕事行けて、残業までして働くなんて本当にえらいですね。うん、えらい、えらい」
「どうか私に疲れた心を委ねてください。そうです、もっと近づいてきてもいいんですよ? あ、感じます。あなたの気配が私のまぶたの裏に」
(耳の中に声が入り込むように近く)
「ほら。もう、心と心が触れあいそうな距離まで近づいちゃいました」
「ずーっと頑張り続けてきたあなた。私は知ってますよ。あなたがこんなに頑張って、戦ってきたこと。私はちゃんと知っています」
(すうと鼻で息を吸い込む)
「あなたの頑張った汗の匂いがします。――恥ずかしい、ですか? 大丈夫ですよ。あなたの証なのですから、私、好きですよ」
(そわっと耳元に吐息を吹きかけるように)
「もうこんな距離……あなたの息が私の顔にかかってなんだか恥ずかしいですね」
「いい匂い? ふふ、もっと恥ずかしくなっちゃいます」
「それでは、ゆっくり深呼吸しましょう」
(はぁ~っと一緒に呼吸するように)
「吸って、吐いて――。もう一度、吸って、吐いて――」
「ね、あたたかいでしょう? あなたの疲れた心が私に伝わってきます。どうぞ、そのまま、ここに置いていってください」
(エイファの深呼吸音)
「どうですか? 軽くなりましたか? ふふ、なら良かったです」
「あなたの心の声、暗く澱んでて、大きくて、すごく熱くて、素敵です」
「それでは、いただきますね……」
//SE こくん、とエイファが嚥下する音
「んん、濃い匂いが鼻の中を抜けていきます」
「ごちそうさまでした」
(声を切り替えて、おしとやかな声にもどる)
「明日も、明後日も。果たすべき務めを、どうか全うされますように。たとえ疲れ果て倒れようとも、魂だけは、神の国で永遠の休息に包まれますように」
//SE リィィンとジングルの音
//SE 数秒その残響が続く
(数秒の間)
「今夜も、祈りに耳を傾けてくださりありがとうございました。あなたの心が、ほんの少しでも穏やかになりますように。次の祈りの時間までどうかご無事で──。それではまた明日、心の中でお会いしましょう。皆さまに――神のご加護を」
//SE 鐘の音(ごぉぉん、ごぉぉぉん)
//SE 小気味いいパイプオルガンの音
(音が小さくなっていき、無音のまま数秒の間)
//SE カツン、カツン廊下に響く足音
//SE ぎいいと、古めかしい木製の扉が開く音
//SE 室内をゆっくりと歩く
(消え入りそうな小さなため息)
「ふう。今日もいいお祈りができました」
「この人は、いい中継点になりそうです」
//SE ベッドが軋む音
「もっと続けなくてはなりません。それが聖女としての私の定め」
//SE エイファが倒れこむ音、布が擦れる
「世界はこんなにも愛と優しさで溢れています。なんて甘美で、なんて醜いのでしょう」
「そして、こんなにも欲望で溢れている。私を心の拠り所にしている」
(闇に溶け込むように、冷たい声で)
「なんて、安っぽいのでしょう――」
//SE フッっと、エイファが燭台の火を消す音
「誰も、私の心は救ってはくれない……だめですね、こんなことを言っちゃ」
「いつか――本当のあなたに届くまで。私は続けなくてはなりません」
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