第150話 オタク、他領の料理を食べる



「わ、わたしはなんてことを……!」


 事後に、裸になった下半身のままで森の地面にへたり込むカビラさん。

 衝動に身を任せた自分を悔いているようだ。


「あ、あの。気にしないでください、ぼくも気持ちよかったし……」


「で、でも! あんなに『やめて』『ダメ』って言われたのに止まれなかったんだぞ!? お前も回復魔法までかけて付き合ってくれたじゃないか! 大丈夫か、無理してないか!?」


 あくまでぼくの身を案じてくれるカビラさん。本当に良い人だなぁ。

 エイジャさんやリーシャさんも、少しは見習って欲しい。


「大丈夫ですよ、いつもはみんなに、もっと激しい目に遭わされてますから」


「お、お前ぇ……あのな。こういうことは、回復魔法までかけて耐えることじゃないんだぞ!? お前らが普段どんなことしてるかわからないけど、おかしいんだからな、こんなの!?」


 なんて常識的な意見だ。

 あまりにもまともな人過ぎる。


 普段聞かない常識的な意見に、ぼくは思わず感動しそうになってしまった。

 その目の潤みを見られたのか、カビラさんがぼくの頭を抱きしめてくる。


「つらかったな!? ごめんな、ごめんな……!?」


「あ、いえ。つらくはないんですけど。気持ちよかっただけで……」


 あと、まともな意見が聞けたことが嬉しくて。

 いやもう、羽目は限界まで外すもの、みたいな人たちしか周りに揃ってないからさ。


「カビラちゃん、初めてじゃないんだねー?」


「あ、ああ? 初めては子どもの頃に済ませた。わたしの村は娯楽がなかったから、子ども同士の遊びの延長で。……大人になったら、さすがにやらなくなったけどな」


 なんて子どもの遊びをしてるんだ、獣人の村。

 いや、幼馴染同士が子どもの頃に、なんてたまに聞く話だけどさ。


 中世の日本の田舎みたいに、貞操倫理があまり育ってないからなぁ、この世界。

 妊娠する年齢になったらやめたのは、理性的だと思うけど。


「おかげで、ずっと悶々としていたんだ。周りはわたしの強さに『男女』と避けるから、相手もいなくて……お、お前が! 誘うからっ!」


「あ、えーと。……なんだか、ごめんなさい」


 恥ずかしそうに叫ぶカビラさんに、何だか申し訳なくなる。

 こっちに謝られて、カビラさんも少し冷静になったようだった。


「い、いや、良いんだ。お前が悪いわけじゃない。自分を止められなかったわたしの責任だ。……せ、責任は、取るからな!?」


 はい?


「カビラちゃん。いきなりオタクくんを持っていこうとしないで。オタクくんはボクらのパーティで、ボクらの『大事な』オタクくんだから」


「で、でも! 獣人の力と勢いで思い切り襲っちゃったんだぞ!? トラウマになってなければ良いけど……」


 いや、それは大丈夫ですけど。

 このくらいでトラウマになるかと言われれば、みんなの方がよっぽど酷いし。


「獣人って、実はぼくもあまり実態を知らないんですよ。前のパーティにもいなかったし。……良かったら、色々お話を聞かせていただけませんか?」


 提案してみると、快くうなずかれた。


「なんだ、普通人の中には獣人が『よくわからない』って怖がる奴もたまにいるんだけど。話を聞きたいってんなら歓迎だ、一緒にメシでも食べるか?」


「良いね! 一緒にごはん食べよ!」


 カビラさんの提案で、街に戻って一緒に食事を摂ることになった。



**********



「まさか空を飛ぶとは……本当にすごい魔法士だったんだな。驚いたよ」


 カビラさんは飛行魔法に驚いていた。

 途中は制御権を渡しても自由に飛んでいたので、やはり身体能力はものすごく高いのだと思わされる。


 そのまま街に到着して、カビラさんオススメの食事処で早めの夕食を食べることになった。

 肉料理が美味しい店で、特に焼き肉の盛り合わせが美味しいらしい。


「うわ、すごい!」


「美味しそう!」


 試しに注文してみると、こぶし大のかたまり肉が焼かれて、部位ごとに盛り合わせになって出されてきた。


「ここは大きなかまどで、串に刺して一度に焼くんだ。焼き加減も上手いから、美味しいぞ! 食べてみろ!」


 串焼きか、なるほど。

 南米の串焼き肉料理、『シュラスコ』みたいな焼き方なんだな。

 あれは串に刺して焼いて、焼き上がったらカットするけど。ここは串から外して、そのまま出てくる。


「いっただっきまーす! うまっ!」


「すご! めっちゃ『肉』感!」


 かたまり肉を頬張ったエイジャさんとリーシャさんの肉食女子二人が、喜んでいた。

 この二人は肉のかたまりを食べている姿がハマりすぎている。


 ぼくらは皿に盛られた肉の塊を一つずつ小皿にとって、ナイフとフォークで切り分けて食べていた。


「肉汁たっぷりで、美味しいですね。本当に庶民の店ですか?」


「ここの主人も獣人なんだけどな。大昔は、小さな貴族の家で料理人をしてたらしい。そこが没落してからは、この街で料理屋やってるんだってさ」


 すごいな。元、貴族のお抱え料理人だったんだ。


 しかも獣人でお抱え料理人ってことは、相当の腕だ。

 以前にも言ったとおり、獣人は料理に体毛が混入しやすい。だから、修行させてもらえる場所が少ないんだ。


 料理人になれる獣人は、よほど腕があったか素質があったか、だ。


「この店美味しいね! 肉もたっぷり食べられるし!」


「ホントホント! ウチらも通っちゃう!」


 エイジャさんとリーシャさんは、この店がお気に召したようだ。

 パンも美味しいけど、焼き直した感がある。これは、どこかから仕入れてるのかな。


「この店の親父の腕を気に入ってくれるのは、気分が良いな。ただ、わたしの席がなくなるから、あまり大っぴらに広めるなよ?」


「おっけー! お酒頼んで良い? 教えてくれたお礼に、あーしらがおごっから!」


 おごり、と聞いてカビラさんは目を輝かせた。

 どうやらお酒が好きみたいだ。


 そのままお酒と料理をどんどん注文して、ちょっとした宴会になった。

 肉と酒がもりもり消費されていく。


「カビラちゃん。この辺で良い宿知らない? 大通りの宿に入ったんだけど、料金が高くてさ」


「ああ、大通り沿いはどこも高いだろうね。わたしの泊まってる宿で良いなら、案内するよ? 獣人の主人がやってる店だから、客も獣人が多いけど」


 それは嬉しい。

 カビラさんは強いとは言え、女性が一人で泊まれる宿なら安全度も高いだろう。


「獣人は別に気になんないけど、わざわざ言うってのはなんか問題あんの? 人と違ったり、毛が生えてるところが多いから、気にされたりするとか?」


「いや、そうじゃなく……その。だいたい発情期の客がいるから、その。『そういう』声がたまに聞こえたりする。だから、普通人は割と避けることが多い」


 歯切れの悪い声で、申し訳なさそうに教えるカビラさん。

 獣人は、やっぱり発情期があるんだ。そりゃそうだよね。


 しかも人間の恒久的な性欲と、獣性の衝動的な発情が重なるから、獣人は激しいらしい。

 そう聞いて、目を輝かせた人たちがいた。


「だいじょぶだいじょぶ! あーしらも激しいから!」


「ちょうど良いよね、遠慮しなくて済むし!」


 そりゃ、エイジャさんとリーシャさんにはそうでしょうよ。

 その宿に泊まることは確定みたいだ。遮音魔法は使いますよ?



 そういうわけで、食後にカビラさんに案内してもらうことになった。


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