第149話 オタク、ミイラ取りを見る
ぼくが襲われているとこを助けてくれようとしたお姉さん、カビラさん。
誤解だったとは言え、そうしようとしてくれたのは根が優しい冒険者さんだと思う。
「すみません、お騒がせしました。――助けてくれようとして、ありがとうございました」
「い、いや。無事だったなら、良い。……今後は場所を考えろよ」
腕を組み、真っ赤な顔でそっぽを向くカビラさん。
お尻の尻尾がうずうず動いているのは、何か思うところがあるのだろうか。
「みっともないところを見られちゃったけど、この辺りの冒険者なら、聞きたいことがあるんだ。……助けを必要としている冒険者がいるような、危険な区域はどこかな?」
「なんだ、なんでそんなことを聞くんだ? ……稼ぎ場が知りたいのか?」
クルスさんの質問に、カビラさんが小首をかしげる。
いやいや、とエイジャさんとリーシャさんが待ったをかけた。
アイテムボックスから、金貨の詰まった革袋を取り出してみせる。
「あーしら、お金には困ってないよん。じゃなくてね、困ってる冒険者を助けよーと思ってさ」
「ウチらとしてはさ、実績が欲しーんだよね。でも、他の冒険者の稼ぎを奪うわけにはいかないじゃん? だから、まー救助活動で助けになれれば、ってさ!」
その話を聞いて、へぇ、とカビラさんは感心したような声を上げた。
リルカさんが捕捉するように付け足す。
「隣のエルブンド辺境領では、こうした活動は結構行われています。領内の活動は充分だと判断したので、隣のこの領まで遠征に来たのですわ」
「へぇ、隣の領じゃそんなことになってるんだ。……この領じゃ、冒険者の生き死には自己責任だからなぁ。そりゃ助かるけど……良いのか、お前らに儲けはないぞ?」
まぁ、そうなるよね。
儲けもないのに他人を助かるのは、冒険者としては酔狂の部類に入る。
みんな、お金のために冒険者業をやってるんだから。
「オタクくんの支援と回復があれば、ボクらに危険は少ないよ。なら、死ぬ人を減らした方が良いだろ?」
「オタクくんって……襲われてた、そのコか。そんなに強いのか?」
カビラさんがぼくを見る。
強いかと言われれば、ぼくの攻撃力はそんなに高くないんだけど。
「ぼくは回復と支援特化ですね。他のみなさんが直接戦闘特化なので、それを補佐すると、結構な実力になります。……Aランク昇格の内定の話を、受けてますから」
「Aランク候補者!? そりゃ強いし、稼げるわけだ……そうか。それで、名声と実績のために活動してんんだな! 納得いった、Aランク昇格には、評判も大事だからな!」
ちょっと違うけど、納得されたみたいだ。
Aランクという上位ランクに昇格するには、周囲からの評判や評価も必要になるのは事実だからね。
「……で、なんでお前は女の子の格好してんだ? 教会に目を付けられるぞ」
「可愛いでしょ? オタクくんは『オンナノコ』だから」
クルスさんが説明にならないことを口にして、堂々と微笑む。
混乱するカビラさんに、エイジャさんが呆れたように言った。
「あのさー。ウチらみたいな美女パーティに、『男』なんていたらめんどーじゃん? いつ襲われっかもわかんないのにさー」
「逆にそのコを襲ってたじゃないか!?」
襲われてました。
リーシャさんがきっぱりと言い切る。
「そりゃ襲うさぁ! こんなにかわいーコなんだもん!」
「あんたらが襲う側に回ってどうすんだ!? ……かわいそうに、こんなに優しそうなコだからって、無理矢理に扱って良いわけないだろ?」
あ、心配してくれた。
カビラさんは良い人みたいだ。ぼくに対して保護者みたいな目を向けてくれる。
「うん。でも、大事にしてんよ? ……カビラちゃんも、オタクくんは気になってんじゃない? 正直に言いなよ。それとも……女の子の格好してる奴は、キライ?」
「い、いや……扱いがかわいそうだなとは思うけどさ……き、キライじゃないとは思うけど……男だろうけど。正直、可愛いとは、思うよ?」
頬を染めてもじつきながら、戸惑いを告白するカビラさん。
おっと、そこで目覚めないで。
一応、ぼくの方からも捕捉しておいた方が良いか。
「扱われ方は激しいですけど、ぼくはイヤなわけじゃないですよ。心配してくれてありがとうございます、カビラさん」
「お前……良い奴だな。我慢してないか? 男があんなにのしかかられてメチャクチャにされて、怒らないわけないだろ? ちゃんと本当のこと言って良いんだぞ?」
いい人だなぁ。そして常識的だ。
なんでこんなにまともな人が、エイジャさんたちと話せてるんだろうか。
と思ってると、エイジャさんが唐突に背後から、ぼくのショーツを下げた。
「とは言っても、オタクくんの『オタクくん』は元気だし、イヤがってないからさ?」
「ばっ、ばか! 見せるな!」
顔を背けようとしつつも、目線が離せないカビラさん。
その様子を見て、クルスさんがニヤリ、と笑った。
「……カビラちゃんも、オタクくんに触れてみればわかるよ? オタクくんはイヤがらないし、受け入れてくれるから、さ……?」
「わ、わたしみたいな男勝りの獣人に、興奮する奴がいるか! って、なんでおっきくしてるんだ、お前!?」
おっと、ごめんなさい。
ただ、それをチラ見するカビラさんの息は、少し荒くなり始めている。
「こ、こんなわたしに興奮すんのか……!? 他の冒険者から、まともに女扱いされたことなんて、今までにないんだぞ!?」
「い、いや、良い人だし優しくて美人だし、カビラさんは、普通に魅力的な女性だと思いますけど……」
うわずった声で「びじっ!?」とカビラさんが驚いている。
ぼくの方を見る頻度が、多くなった。
正確には、ぼくの下の方を見る頻度とか。
「ば、ばか。可愛い格好して、そんなに興奮するな。お前、オスなのかメスなのか、はっきりしろよ。わたしも、その気になっちゃうだろ……?」
「良いんだよ、カビラちゃん。オタクくんなら、獣人の発情だって受け止めるよ? 回復魔法も達人だから、どんなに激しくしても大丈夫だよ。さ、どうかな……?」
クルスさんがカビラさんにささやくと、カビラさんの息が荒くなっていく。
もしもし? カビラさん、落ち着いてください。
その人たちのペースに乗せられないで。
「こ、こんな男女でも、良いのか……?」
「カビラちゃんは男女なんかじゃないよ。ちゃんと、可愛いオンナノコに見えるよ……?」
それが、トドメだったみたいだ。
ミイラ取りがミイラになる。送り狼。
助けに来てくれたはずのカビラさんは、ぼくを襲う側になっていた。
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