第37話 オタク、夢に生きる



 新陣形と新武器が好評だったことで、宿の食堂で今回の感想戦になった。


 実際には陣形は現在のまま変えないんだけど、もしもぼくが現場を離れた場合、などを想定して、安全な戦い方を覚えることができた。

 別行動を取る場合、二手に分かれる場合があるかもしれないからね。


 一応ぼくも戦えないわけじゃないんだけど、二手に分かれる場合はクルスさんかリーシャさんと組むことになりそうだ。

 じゃないと、防御の要と攻撃の要が両方とも抜けると、残った二人が火力不足になりかねないからね。


 新武器も好評だったということで、今後思いついたらすぐに検討するように言われた。


「オタクくん。きみの知識や経験が、ボクたちを救う場面があるかもしれないんだ。遠慮せずに、何でも言って欲しい」


「そだよぉ? 後で振り返って、『それを先に知ってれば』なんてことになると、だいたいロクなことになってないんだかんね?」


 三人は今まで、防御面で苦労してきた。

 だからこそ、知識や経験の重要性を理解してるんだという。


 前のパーティでは、レールスはぼくが強化し続けてたから、ろくに経験が溜まらなかった。

 経験不足のレールスにいつも口出ししてきたけど、その大事さがわからないレールスからは拒絶され続けてたみたいだ。


「オタクくん。話してきたことで、きみが傷ついた結果になったのはわかるよ。でも、話さないのはもっとダメだ。……ボクらは、それを聞かないほど子どもじゃない」


「『仲間』なんだからさー。仲間が頼もしくて、悪いことなんてあるわけないじゃん? ウチら、今まで何度も死にかけたんだからさ。それが少なくなるんなら、それ以上嬉しーことはないっしょ」


 三人が次々に背中を押してくれる。


「本当は……僕の考えは、間違ってるんじゃないか、って思ってたんですよね。知識も、経験も。ぼくは普通じゃないから、そこからまず間違えたのかな、って」


 ぼくには、普通の考え方は。

 みなと同じような考え方はできないのかな、って。


 そう思っていた。

 答え合わせは、レールスたちはいつも『間違いだ』と態度で示していたから。


 でも、そうじゃなかった。

 ぼくを受け入れてくれる人たちも、いた。


「……誰でも、一度は間違えると思うよ。『正しい』とは言われないことも、何度もある。ボクも、こんな身体だしね」


「でもさぁ。『それわかるー!』って誰かが言ってくれたらさ? そこに一つは『間違ってない』はあるわけじゃん?」


「そーそー! 『何が正しい』とかはウチらバカだからわかんないけどさ。少なくとも、誰かの『間違ってない』はあるわけよ!」


 わかるかどうか。

 普通か、普通じゃないか。なんてのは。


 『その人』それぞれなんだろうな、と思う。

 それが『個人』で、『自分』なんだな、って。


 クルスさんたちに言われて、そんな気持ちになった。


「否定されることもあるよ。……でも、『正しくない』からボクらは生きてちゃいけないと誰かが言うなら、『紅月』はそれと戦うパーティだ。オタクくんも、その一人だよ」


 正しい。

 正しくない。


 何で決まって、誰が決めるんだろう。

 以前、レールスに『正しくない』とばかりに否定されたぼくは、『それで良い』とクルスさんたちに肯定された。


 それは、誰かが決めた『正しい』の中には入らないのかも知れない。

 でも、誰の迷惑にもならないのなら。

 ぼくらは、ぼくらの仲は『それで良い』と心地よく感じられる。


 元々、昔の日本での『オタク』は迫害された歴史がある。

 とある凶悪事件の犯人がオタク趣味だったことで、その趣味自体が否定されたそうだ。


 でも、ぼくの死んだとき、前世では日本のサブカルチャーは世界を魅了していた。

 世界中に『オタク』を生み出した。


 ぼくはオタクだ。

 それが原因で、一度間違えた。

 それが理由で、今受け入れられた。


 それはクルスさんたちが特殊な事情を持つから、じゃない。

 レイノルド爺さんだって、バラゴ親方だって、他の人たちだってぼくの『オタク』を認めて受け入れてくれている。


「自分を全部出すのは怖いよ。でも、そうしないと生きていけないなら、ボクらはそれを認めるだけだ。それが、冒険者ってものだよ」


 全力を出すのは、誰だって怖い。

 それが及ばなかったとき、自分の限界と無力を知るから。


 でも、誰だって、一生に一度くらいは、自分の『すべて』を出してみたいと夢見てる。

 『本気の自分になりたい』、それを認めてもらいたい、と。


 夢見てる。


 なら……


「――冒険者って、そう生きるもんですよね!」


 ぼくはお酒を注文した。

 みんなも「良いね!」と次々にお酒を注文した。


 女将さんが笑顔で木製のジョッキを持ってきてくれて、みんなで打ち合わせる。


「今日は飲もう! 乾杯!」


「オタクくんの、歓迎会だーっ!」


「何度目ぇ!? ま、何度やっても良いけどー!」


 大騒ぎになった。

 ぼくはこのパーティが好きだ。

 誰にだって、自分の居心地の良い場所はどこかにあるさ。

 ぼくには、ここがそこだったって話なだけだ。


「このパーティに、乾杯!」


「カンパイ!」


 みんなの声が重なった。

 そのまま、ぼくたちは大宴会に突入した。


 今日という日を祝して。



*********



「さて、お酒が入ったということは、ってことしょ」


「オタクくんは服脱いじゃダメだからねー? 美少女は、着たまんまが良いんじゃん」


「大丈夫、ボクらが気持ちよくさせるから……ね」


 部屋に連れ込まれた。

 お酒で潰れたぼくを、三人が取り囲んでいる。


 おっぱいが、二つ、四つ、六つ……


「オタクくん、意識ないねぇ。何されても文句言えなくなっちゃったねぇー?」


「ぐふ、ぐふふ。胸が高鳴りますなぁー? 『ついて』るとこ、イジられちゃうねぇ?」


「ああ……オタクくん、可愛いよ……」


 声が聞こえる。

 意識がふわふわしてる。


 何だろう、とても気持ち良い。

 とても優しく、とても気持ちよくされている。


 これは夢?

 ぼくは今、夢の中にいる?


 誰かの声が聞こえた。

 誰が言ったのかは、よくわからない。


「……オタクくん。大好き、だよ」


 その日は、いつまでも夢心地のまま。

 まぁ、良いか。

 ぼくは、冒険者なんだ。

 まだ、冒険者を続けてるんだ。



 ぼくは今、夢の中に生きている。







 ( 一章 完)

 

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