第36話 オタク、指導する



 バラゴ親方の工房に言って、サブウェポンを注文した。

 受付は娘さんだったけど、注文の内容を聞いて、親方自身が店に出てきてくれた。


「おう、なんだ。予備の武器を持つ気になったのか」


 親方は心なし、嬉しそうだった。

 たぶん気にかかっていたんだろう。


「うん。ボクらも、戦い方を考えようと思って」


「良いこった。お前さんらの武器はクセが強いからな。……武器選びを、考えたのは誰だ?」


 親方がそう言うと、みんなの視線がぼくに集中した。


「お前か。良いチョイスだ。……特に、エイジャの短槍の方が良い。こいつは剣を持つと、『押し込む』って動作が弱くて使いこなせないんだ」


「ちょ、親方!? なんでわかんの!?」


 エイジャさんがびっくりしていたけど、ブーツの修復をしていたときに気づいたらしい。

 靴底のすり減り方が、剣を使う人間の減り方じゃなかったんだって。


 確かに西洋長剣は、上半身の膂力をフルに使う。

 斬り下ろしはいわば上体全体を振り回すので、それを支える下半身の踏ん張りはとても重要なんだ。


 親方は、ブーツの仕立て直しをしたときに、靴底のかかと部分のすり減り方を見て、あまりかかとを踏ん張る戦い方をしてないことに気づいたらしい。

 確かにエイジャさん、動き回って、振り回したデスサイズの重さで斬るからね。


「そういうエイジャに、先端の自重で戦える短槍は良い武器だ。相談されたら小さなモーニングスターを渡そうかと思っていたが、それよりも使いやすかろう」


「マジぃ!? やっば、エイジャちゃんもっと活躍しちゃうかもぉ!」


 エイジャさんは今でも充分、メインアタッカーですけどね。

 両手で遠心力を使って戦う形は、振り回しからの薙ぎ払いに繋がって攻撃力が高い。


「で、クルスは無難に短剣として……リーシャは鉄球か。しかも、手のひらに軽く収まるサイズだな。投げるのか」


「そーそー! ウチ、足を使うの得意だからさ! 殴れない距離からでも、投げられる距離にはすぐに移動できっし!」


 良い選択だ、とこれも親方は褒めてくれた。


「ナイフじゃないのは、訓練を積んでないからだな?」


「そうです。リーシャさんが即席で使える武器を選択しました。投石の延長です」


 投石……石投げの威力は、バカにしたもんでもない。

 戦国時代以前の日本の足軽以下、農民歩兵の攻撃手段は投石が主力だった。

 弓ほどの鍛錬が要らないのに、当たれば充分、相手にケガを負わせる殺傷力を持つ。


 石だって硬くて重さがあるんだ。当たり所が悪ければ人を始め、生き物は殺せる。

 まして、それより重い鉄球なら威力も上だ。


「悪くねぇ。投石器は使わないんだな?」


「投石器や投槍器の作り方は知ってますけど、主戦力が拳なので、何も持たない方が良いです」


 投石器はヒモを使った遠心力で投げるスリング、投槍器はテコの原理で長い槍を投げるアトラトル、とあるけど。


 どちらも片手が塞がるし、セットするまでに少しの時間がかかる。

 どちらもリーシャさんの戦闘スタイルには不要だ。手が塞がって、足を止める必要がある。


 そこまで聞いて、親方はにやりと笑って言った。


「満点だ。――鉄球は今から作ってやる。ずいぶん小賢しい奴が入ってきたじゃねぇか」


 すごい言われようだ。

 褒めてくれてるんだろうけど。


「小賢しい、って」


「そいつ、大事にしろよ」


 それだけ言って、親方は工房へ引っ込んでいった。

 鉄球だから、鋳溶かして冷めれば完成だそうだ。

 直径十センチもないくらいの鉄球だから鋳型がないけど、シンプルな形状だから砂で簡単に作れるとのこと。


「……父さんがあんなに褒めるの、珍しいんだよ?」


「そうなんですね。がんばります」


 店番の娘さん、エレナさんが教えてくれた。

 ちょっと拗ねているようだ。


「今までの戦い方だと、クルスさんが危なくなりかねませんから」


「すぐに作ってもらうから! 絶対にケガさせないようにね!」


 ものすごい勢いで念を押された。

 どうやらエレナさんは、クルスさんに気があるようだ。

 クルスさん、女性なんだけどな。


 エレナさんが短槍の在庫を取りに行った隙に、クルスさんが僕の顎に手を添える。


「大丈夫だよ、ボクはオタクくんが大事だから」


 顎クイして口説かないでください、クルスさん。

 エレナさんに見られたらショック受けると思いますよ。


 昼過ぎには鉄球も仕上がって、短槍の調整もしてもらって装備が手に入った。



*******



 近場の草原で、新武器と連携の感触を試す。


 幸運なことにオーバーブルという魔獣を見つけた。

 鋭い角で突進を仕掛けてくるバッファロー型の魔獣なんだけど、今回の相手にはもってこいだ。


「でやぁっ!」


 強化したクルスさんが、両手剣でオーバーブルの角を受け止める。

 その間にすぐ後ろに控えた、二列目のエイジャさんがデスサイズを振り下ろした。


 突進中に押さえ込まれていたオーバーブルは、脳天にデスサイズの刃先を突き立てられて、なすすべもなく絶命した。


 エイジャさんの柄のリーチなら、クルスさん越しに攻撃ができるとわかった瞬間だった。

 もちろん二人とも、傷一つついていない。


「今のはクルスさんが攻撃を受け止めましたけど、クルスさんから攻撃しても良いです。交戦すれば、だいたい相手の足も止まりますから」


「なるほど。受け止めるのは強化なしだとちょっとしんどいけど、普通に戦闘すれば良いんだね」


 理解してもらえたらしい。


「今みたいなタイミングなら、ウチも横から殴りにいけるよ!」


「とにかく、クルスが足止め役になって、メインアタッカーが二列目に控える、って感じなんね。わーった! これで勝つる!」


 リーシャさんとエイジャさんも実感してくれたようだ。

 これがいわゆる『タンク』戦術で、MMORPGや、ダンジョン攻略物語ではポピュラーな戦術になる。


 これは何が問題かというと。

 この世界の魔獣もなかなか攻撃力が高いので、クルスさんが攻撃を受けるのが『前提』だと、クルスさんの負傷率が激増してしまうのだ。


 そのための全身鎧なのだけど、金属鎧はひしゃげると、ひしゃげた部分が身体に食い込んで逆に凶器になる。

 なので、鎧を着ているから万全、というわけではないのだ。


 実際には、この世界の冒険者間では、身軽な斥候がかく乱しながら足を止める『翻弄型タンク』とも言える戦術が幅を利かせている。


 つまり、ダメージを受けずに交戦しながら相手の足を止める役割だ。


 前のパーティでも、斥候役のジオがその役割をやっていた。

 一瞬足を止めれば、強化したレールスが瞬殺するからね。


「翻弄型タンク戦術なら、リーシャさんがフットワークでかく乱しながら、相手の足を止める形になります。相手が複数なら、クルスさんとリーシャさんの二人で足止めですね」


「なるぅ。その間に、あーしが二列目から敵を仕留めていく、と」


 そういうことです、エイジャさん。

 ぼくがいれば今までの陣形でも良いけど、三人でできる陣形も増やした方が良いからね。


 その後は、新武器を使った戦闘方なんかも試してみた。

 接近戦でのエイジャさんの短槍や、クルスさんの短剣なんかも練習した。


 意外だったのは、強化したリーシャさんの鉄球投擲が、魔獣の頭を粉砕したことだ。


「なにこれ! ちょー使えるじゃん!」


 リーシャさんの興奮が止まらない。

 ぼくの強化に加えて、リーシャさんの身体強化も重なっているので、その超パワーで投げられた鉄球はかなりの破壊力だ。


「小さくて投げやすいしー! ヤバ、これめっちゃ使っちゃうかも!」



 どうやら、投擲用の鉄球は、リーシャさんのお気に入り武器に認定されたようだ。


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