第12話 オタク、人助けする
「ほ、本当に良いんですか?」
「うん。アサシンビーは、きみたちが狙ってた獲物だから。横から手を出して所有権は主張できないよ。素材は持ってお行き」
襲われてた冒険者たちは、まだ若い三人組だった。
実力はあるようだけど、あまりの大群に回避できなかったようだ。
そこを助けたのに、素材の所有権は主張しない。
その対応に、若い冒険者たちは感動していた。
クルスさんが美形だから、見惚れていたのもあるかもしれないけど。
実際、救助活動は、この所有権で揉めるんだ。
横やりを入れてしまうと、先に狙っていたのに余計なことをしやがって、と相手が取り分を主張して泥沼になる。
打ち合わせ通りではあるけど、これが一番揉めない方法なのだ。
助けはするけど、倒した獲物の取り分は主張しない。
実際にそんなことをする冒険者なんて、ぼくは今まで見たことがない。
「そんな! 命を助けてもらったのに、無償で譲られちゃ、ぼくらも困ります! こんなにあるんだから、せめて半分は持って行ってください!」
若い冒険者たちも驚きながら、ぼくらにお礼を差し出してきた。
いくら最後に全滅させたのが『紅月』だからって、自分たちが倒した分もあるだろうに。
「んー。気持ちはありがたくもらっとくね。あーしらも、他の獲物持ってるからさ。半分の、そのまた半分だけもらってくよ。……それなら良いっしょ?」
エイジャさんの提案に、若い三人組はお互い顔を見合わせた。
そして、ばっと同時に九十度の角度で腰を折って頭を下げてくる。
「すみません、ありがとうございます、残りの素材はいただきます! このご恩は忘れませんっ!」
気持ちの良いお礼だった。
ぼくもついでに、回復魔法をかけてあげる。毒は抜いたけど、念のために。
「ここまでの道は、あーしがデスサイズで刈って拓けてるからさ。そこを通って、今日は無理せずに帰んな? こんだけアサシンビーの素材があったら、今日の収穫は充分っしょ」
「重ね重ね、ありがとうございます! あの、あなたたちのお名前は……?」
尋ねてくる若者たちに、ぼくらはパーティ名を名乗る。
「ボクらはパーティ『紅月』だよ。良かったら覚えておいてね」
「ありがとうございました! いつか、このお礼をさせてください!」
そう言って、三人の若い冒険者たちは笑顔で帰って行った。
実際に、冒険者は二派に分かれるんだ。
持ちつ持たれつの人の良いパーティと、他人が全滅したところから装備や獲物を奪っていく追い剥ぎパーティ。
良い冒険者はいるにはいるけど、基本的にこの職業は自己責任だ。
死んだ奴が悪い。死んでも保証はない。
だから、命と一緒に装備や獲物が無事、なんてのは本当に稀なケースだ。
他人のためになって、ぼくらも気分が良く、生きやすくなる。
これが打算の上での偽善だとしても、誰も損してないんだから良いじゃないか。
「さっきの子たち、嬉しそうだったねー!」
「そりゃ喜ぶっしょ! 死にかけのところから無傷で帰れたら、ウチらでも喜ぶじゃん!」
エイジャさんとリーシャさんも上機嫌だ。
見てるぼくまで嬉しくなってくる。
「普段、ボクらは他人を避けてるからね。あまり深く関わらないようにしてたんだ。冒険者の流儀もあるけど。……なんて言うか、笑いかけてもらえるのは、気持ち良いね!」
「そうですね。ぼくも、三人が喜んでくれて嬉しいです」
クルスさんは、さっきの三人組が喜んでくれて嬉しい、と解釈したようだけど。
違うよ。
クルスさんたち三人が喜んでるから、ぼくも嬉しいんだ。
ぼくもすっかり、このパーティの一員になったんだな、としみじみ思う。
「さ、先を急ごう。『銀毒の沼』までまだ距離がある」
クルスさんの号令で、道を切り拓きながら先を進む。
途中で二組のパーティを、同じように助けた。
魔獣の森の奥は危険区域だから、当然、危険な目に遭うパーティは多い。
同じように助けて譲ったら、またも感謝された。
クルスさんたちは気分を良くしながら、どんどんと先を進む。
やがて、奥地の湿地帯へとたどり着いた。
このぬかるむ湿地帯が、目当ての危険区域『銀毒の沼』だ。
この沼地は、毒性を持っている。
なので、浮遊魔法を使う。
「『エアリアルロード』。……この魔法なら、浮いてるけど普段通りに踏ん張りも利きます」
「まるで硬い石畳の上を歩いてるみたいだね。浮いてるとは思えないや、さすがオタクくん」
この魔法なら、ぬかるむ毒の沼地でもスタスタ歩いて行ける。
高度も変えられるので、アレンジすれば空中歩行だってできる魔法だ。
やがて、魚が飛び跳ねるようになった。
浮遊してるとわからないけど、沼の深度が深くなっていってるようだ。
この先に、標的の『カオストード』がいる。
腐食毒や強酸を無効化する強靱な皮なのに、伸縮性が非常に高い。
それで作られたブーツや手袋は、毒よけの革装備としてとても高級品だ。
「見っけ! あれ、カオストードじゃん!?」
「エイジャえらい! 狩ろう狩ろう!」
エイジャさんが、岩場からエサを捕まえているカオストードを発見した。
長い舌で、水面を跳ねる魚を器用に捕まえている。
「カオストードの皮膚は柔軟性が高いんで、打撃攻撃はあんまり効かないです!」
「了解! エイジャとボクが、刃物で攻撃するんだね!」
一言伝えるだけで、意図を理解してくれたクルスさんがエイジャさんの位置まで上がっていった。
同時にリーシャさんがぼくの護衛として下がる。経験を感じさせる、素早い連携だ。
こういう軟体系の敵とも、今までにたくさん戦ってきたんだろう。
直接戦闘だけのパーティだと、位置取りと身体の動かし方が鍛えられるよね。
「周りからも出てきた! クルス、気をつけて!」
「ありがとう、リーシャ!」
周りの沼地からも次々とカオストードが上がってくる。
さすが危険区域、間引かれてないせいで群生している。
でも、沼地ということは木々なんかの障害物がないわけで。
そうなると、エイジャさんのデスサイズが光り輝く。
「あっはっはーぁ! 狩り放題だぁ!」
広範囲にデスサイズを振り回し、ズッパズッパとカオストードの群れを斬り裂いていく。
クルスさんも範囲斬撃で、一度に複数体のカオストードを斬り裂いていた。
途中から、余裕がありすぎて首から上だけを狙おう、という話になっていた。
皮はなるべく切り刻まない方が、大きなサイズの素材にできるからだ。
そんなこんなで、乱獲と言って良いほどにカオストードを狩っていった。
途中から凶暴な魔獣が怯えて、沼地に引っ込んで姿を見せなくなったほどだ。
「逃げるな、カエルー! 浮かんでこいっ!」
「オタクくん! 沼に潜れる魔法はないの!?」
ありますけど、もう充分でしょう。
絶滅しますよ、クルスさん。
危険生物だから絶滅させた方が良いのかも知れないけど、一応、魔獣も資源だ。
ほどほどのところで切り上げて帰ろう、という話になった。
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