第11話 オタク、危険地帯に行く
「じいちゃん、危険区域のクエストちょーだい!」
ギルドに行って、高難易度のクエストを要求した。
高難易度のクエストは危険区域のものが多く、要救助者も出やすい。
そこに行って、ギルドの未解決依頼を消化すると同時に、人助けができるならしよう、というわけだ。
まずは『紅月』の評判を上げて、理解者を増やさないとね。
レイノルド爺さんはエイジャさんのテンションに渋い顔を見せたが、女装したぼくの顔を見ると、帳簿を探し始めた。
「まあいいや、オタクがいるなら生きて帰れんだろ。……ほれ、これはどうだ。魔獣の森奥地の、『銀毒の沼』。ここのカオストードの討伐がまだ未解決だ」
魔獣の森。良いね。
名前の通り凶暴な魔獣の多い区域で、弱い魔獣は狩られて存在しない。
その森自体の難易度が高いのに、その奥地の沼。
「毒の沼ですか。解毒魔法と浮遊魔法があるんで大丈夫ですね」
「じいちゃん、それ受けてくね! 受注手続きしくよろっ!」
リーシャさんが受けたので、レイノルド爺ちゃんも発注してくれた。
じゃあ、サクサク沼地に行きますか。
********
エイジャさんとリーシャさんの服は、露出が多い。
二人とも前衛なので動きやすくホットパンツに胸元の開いた服、しかも胸は巨乳を覆うだけで下ははみ出てるし、腹部は露出している。
長い脚はブーツだけど太ももは露出してるので、防具はビキニアーマーじみた紙装甲だ。
二人とも回避に全振りしたアタッカーだからこの格好で、それを補うクルスさんがプレートアーマーを着込んだタンク、という扱いになる。
なんでこんな話をしてるのかというと、森が歩きにくいのだ。
露出の多い服装だと、毒のある枝葉なんかで擦り傷から毒が入る。
なので、今まで森歩きは、『紅月』にとって苦手なフィールドだったのだ。
そもそもアタッカーのエイジャさんが、木々に阻まれてデスサイズを振るいにくい。
そんなわけで、デスサイズのフォローは無理だけど、露出対策はぼくがすることになった。
「はい、身体を保護しますね。『ライトスーツ』」
これは身体全体を軽傷から保護し、体温維持と軽度回復効果のある、総合防御魔法だ。
魔獣の牙を防げるほどじゃないけど、危険地帯を歩くのにとても便利な魔法だよ。
「おお? ノコギリ葉の枝に触れても、肌が何にも傷つかねんだけど!?」
「これすっごい! 拳闘士って、結構擦り傷ついてイヤなんよ。ずっとかけてくんね?」
肝心の二人からの反応は上々だった。
森の湿気や暑さからも、体温調節して守ってくれるのでちょうど良い魔法だ。
「これくらいなら、全員に一日中かけながら戦闘できますから。ずっとかけておきますよ」
「サンキューね、オタクくん!」
リーシャさんに頭を撫でられた。
彼女は脳内でぼくを美少女に変換してるので、ボディタッチがやけに多い。
たまにお尻も触られる。
「とりあえず、エイジャさんが森の中で戦えるかどうかなんですけど」
「薙ぎ払いは無理っぽいけど、斬り下ろしはできんよ? 上の枝くらいはついでに斬れっから!」
なら、問題はないか。
一応木材の採取もこの森でやってるから、ある程度の間伐はされてるんだよな。
うっそうとしてるほどじゃなく、木々はそこまで密集してない。
「じゃあ、行こっか。強化はよろしく、オタクくん!」
というわけで森の中を進む。
この森は、草食魔獣でさえ凶暴だ。
ホーンラビットの上位種、ドリルラビットの貫通力は高いし、ソードスタッグなんて槍騎兵の突撃みたいな角攻撃をしてくる。
ただ、それもすべてリーシャさんの強化された拳の前に粉砕されていた。
こういう障害物の中だと、徒手格闘は無敵だ。
「ほらほらぁ! シカちゃん、角の根性足りてないよっ! っしゃらーい!」
かけ声を聞きつけて集まってくる魔獣まで殴り飛ばしている。
エイジャさんのデスサイズがのどをかっさばいて、素材ゲットだ。
お互いにアイテムボックスに詰め込みまくって、大収穫だと喜んでいた。
「気をつけて! グラップラーベアです、攻撃力の高いアーマードベアの亜種ですよ!」
「じゃー斬っちゃうっしょ! デカいと斬りやすくね!?」
ズッパリと一撃でエイジャさんが両断してた。
頭からデスサイズで唐竹割りだ。アーマードベアより柔らかいからね。
「オタクくーん、めんどいから、草刈りしながら行くわ。道があった方が、この後も人が通りやすいっしょ?」
デスサイズをびゅんびゅん回して、森の草や枝葉を斬り裂いていくエイジャさん。
強化されてるせいで、目の前の道がスパスパと拓かれていく。
そうして進んでいくと、昆虫系の厄介モンスターこと、アサシンビーの大群に襲われている冒険者たちがいた。
「ドーラ! ガタス! しっかりしろ!」
アサシンビーは、集団で行動する猛毒の巨大スズメバチ型魔獣だ。
その毒はかなり強烈なマヒ毒で、放っておくと呼吸中枢までマヒして窒息死。肉食のアサシンビーのエサになる。
「リーシャ! 助けに行くっしょ!」
「あいさぁ、エイジャ!」
それを見るなり、二人は真っ直ぐ救出に向かった。
パーティの目的とか何も関係ない、性根から来る反射的な行動に見えた。
「刺されるとマズいです! 防御力も強化します! 『アーマースーツ』!」
アサシンビーは動きが速いけど、その毒針の貫通力はさして高くない。
全身を中程度に防御強化すると、一針も刺さらなくなる。
「助太刀するよー、あんたたち!」
「すまない、助かる! 気をつけてくれ、アサシンビーの群れだ!」
冒険者も手助けは歓迎みたいだ。よっぽどの窮地だったんだろう。
少し離れた距離から、解毒呪文と回復呪文を同時にかける。
「オタクくん……いったい、いくつの魔法を同時に使えるの?」
「……? 数えたこともないです。論理魔法陣を頭の中で展開できるなら、その分だけいくらでも同時に使えますから」
魔法は暗記力と計算力次第で、いくつでも同時に使える。
論理魔法陣、という、魔法の設計図になる魔法陣を理解してその理論通りに魔力を操ると発動するのだ。
回復魔法なら軍団規模の数を同時に展開することも、理論上は可能だ。
そんなことをしなくても、範囲回復魔法があるけど。
「シュナイダー……あたしは……?」
「ドーラ、ガタス、気がついたか! ……俺も今までの傷が治ってる!?」
回復魔法も効果を発揮したようだ。
とは言え、三人も混乱中。
クルスさんの控えるこちらに避難させた方が良いな。
「皆さん、こっちに! 合流して一緒に後陣を組んでください!」
「すまない、助かる!」
三人パーティを保護し、向かってきた数匹のアサシンビーは、強化されたクルスさんの剣が切り落とす。
クルスさんも範囲斬撃のスキルを持ってるから、問題なく追っ手は対処できた。
後は、エイジャさんとリーシャさんだけど……
「きゃっはぁー! 寄ってきた奴から斬っちゃうよーん!」
「うげーっ、砕いたらハチ汁ついた! 籠手がめっちゃ汚れんじゃん! この、この!」
絶好調だった。
たぶん巣から来たであろう増援までも駆逐している。
エイジャさんとリーシャさんが無双してるのを、ぼくらはただ眺めていた。
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