第4話 協力体制
ずっと路地裏で話をしているのもなんだから、俺たちはカフェに入って話をすることにした。
「俺は勇者になろうとして聖騎士弾に入団しようとしたんだが落選して勇者にはなれなかったんだ。もう何年も前の話だ。だから俺は魔王と戦ったこともない」
アルスはそれを聞き、それから首を傾げる。
「でも私の鑑定スキルではあなたは確実に勇者ということになっています……」
「鑑定がハズれてるんだろ」
「そんなはずはありません! とはいえグラウさんが嘘をついている様子もありませんし……何らかのイレギュラーが発生しているのでしょうか……」
「イレギュラー?」
「グラウさんは今この街に起きている異変に気付いていないのですか?」
「異変……?」
異変も何も今日はどこからどう見ても滅茶苦茶な一日だ。
それが街単位の話だとは思っていないが。
「まあお前らに家をぶっ壊されたことを異変と言うなら、そら酷い異変に遭ったと言えるだろうな」
「それ以外に、何か変なことがありませんでしたか……? たとえば看板や広告にあり得ないことが書かれていたりだとか……」
アルスの言葉に俺はふと思い至る。
そういえば今朝呼んだ新聞は何かが変だった。
「新聞に俺の名前が載っていた。願いが叶うとか、俺が現代魔法の始祖みたいな……」
「それです」
アルスは珈琲を啜り、それから自分の周りに起きた出来事を話しはじめた。
「今が1800年だと言うのなら、私は今から五百年以上も前に死んだ勇者アルスです。魔王と刺し違えるような形で決着した私は魔王城の最深部で、自らの血の池の中でまどろんでいました。ああ、私の人生もここで終わりか……そう思って意識を手放したと同時、気が付くと私は高い建物の上に立っていました」
アルスは続ける。
「見たこともないほど栄えた街でした。整然と整備された道路に、摩天楼のような建物がいくつも。そんなことより、私はあの戦いの中で確かに死んだはずでした。ここは死後の世界かと私は思いました。しかし、街の中を歩いている中、ある看板を見かけ、私はここが何者かによって造られた世界であることを悟りました」
「看板?」
「ええ、その看板には私の名前と詳細な能力の説明、それに加えて、私以外の歴代の勇者と魔王たちが復活し、最後の一人になるまで戦えと」
それを聞き、俺は口元に手を当てた。
「俺の新聞と同じだ……。その看板はどこにあったんだ?」
「たしかここから少し南の通りにあったはずです。えっと、そこを少し曲がって……」
ガラス越しにアルスが道を説明しようとし、それから彼女は一瞬硬直する。
それから彼女は俺のほうを見て言った。
「あの看板見てください」
アルスが指した看板にはこう書かれていた。
願いを賭けて戦え。
この世界には12人の勇者と魔王が復活している。
互いに殺しあえ。どのような願いであろうとも、その戦いの末に必ず叶うであろう。
疑うな、勇者アルス、勇者グラウ。
これは君たち二人に対してのメッセージだ。
俺は看板から目を逸らし、ため息を吐いた。
「君が俺をからかうために用意したものではなさそうだな」
新聞くらいならフェイクも可能だろう。
だがあの看板の文字は掠れていて、ずっと前に書かれたような風合いだ。
「この世界に異変が起きていることは分かった。しかもその異変が俺たちをピンポイントで狙ったものであることも。それで、君は俺に対して何をどうして欲しいんだ? 何か目的があるからこそ、こうして俺のことを引き止めてこの世界の異変を気付かせたんだろう?」
アルスは珈琲をテーブルに置き、真っ直ぐな瞳で俺を見て言った。
「この異変が解決するまでの間はお互いに協力する……ということにしませんか?」
「協力?」
「私は数百年前に死んだ人間です。この世界は明らかに私の時代のものではありません。それに対してあなたはどうやらこの世界の、この時代の人間らしい。戦いをする以前に、そういった生活の基盤が私にはありません。あなたの自認がどうであれ、あなたはこの異変に勇者だと認定されてしまっている。つまり、他の十人の勇者と魔王があなたの命を狙う可能性を否定出来ない。これまでの様子を見たところ、私は少なくともあなたより強いです。ですから、私があなたのボディーガードになる。その代わりにあなたは私を養ってください。というお話です」
「ようするにヒモになりたいと?」
「端的言ってしまえば……」
俺は腕を組み考える。
事態が事態なだけに彼女の言うことは確かに理に適っている。
俺はアルスに比べたら大した戦闘力がないし、これからまた今朝のようなゴタゴタに巻き込まれる可能性があるのなら彼女と組むのは悪くない選択だ。
俺はアルスのほうを見た。
「この戦いは最後に生き残った一人の願いを叶えるという「異変」だ。最終的には俺と君とで殺しあいになるということだ。それに対して君はどう考えている?」
アルスは答える。
「勇者同士、魔王同士での殺しあいなんてバカげています! 私にはそこまでして叶えたい願いはありません。ですから、この異変の言う通りにはなりません。私が殺すのは勇者や魔王ではなく、この異変そのものです!」
それを聞き、俺はアルスに手を差し出した。
「そういうことなら協力させてもらおう」
アルスはその手をぎゅっと握り締め、それから勢いよく立ち上がった。
「やったー! やっぱり、やれば出来るものですね!」
「何がだよ」
「この異変の中にあっても、殺しあいをせずとも話し合いで解決が出来ると。私とグラウさんがその証明です!」
アルスは嬉しそうに小躍りしながら鼻歌を口ずさんでいる。
俺の主観で言うと、コイツは伝承にあるアルス・クラウシスとはかけ離れた存在だ。
アルス・クラウシスは救国の英雄だ。悪を許さず、有無を言わさず魔族を一掃し、魔王を断罪した最強の勇者だ。でも、今俺の目の前にいるアルスはそんな厳格な人物には見えない。
彼女は、本当に、本物のアルス・クラウシスなのだろうか。
かつて死んだはずの俺、異世界に召喚される~最後まで生き残った奴の願いが叶うらしい~ 『偽物』 @Euclid0111
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