第32話 あの時のこと
『園池彩芽って邪魔じゃないですか?』
自分の耳を疑った。
仙谷莉子が、兄である仙谷陽向に対して恋愛的な感情を抱いているのは知っている。
それでも、兄の恋人のことを「邪魔」と評することはそうそうないはず。
この「邪魔」という言葉は、アホやバカなんてものよりも遥かに悪意が籠っている強い言葉だ。
仙谷莉子が今何を考え企んでいるのか分からない。
だから、まずは手探りを入れてみることにした。
「私が邪魔だと言ったらどうするの?」
『障害物があったらどかす。ゴミがあれば捨てる。これは人間として当然のことだと思うんです』
「かなり回りくどい言い方をするわね。要は園池彩芽を陽向から引きはがすのを私に手伝ってほしいということで合ってる?」
『はい。瀬川杏子をお兄ちゃんから離した実績を持つあなたには期待しています』
なんでもないことかのように電話口から聞こえてきた言葉。
それなのに、ハイライトを当てられたかのように、耳にこびりついた。
だって――――。
「なんで……なんで杏子のことを知っているのよ…………」
杏子――瀬川杏子のことを知っているのは、私と陽向だけ。
仮に陽向が妹である莉子に対して杏子のことを話していたとする。
それでも、私が陽向と杏子がくっついてしまうことを恐れ、杏子を強制解雇したことを仙谷莉子が知っているわけがない。
『瀬川杏子が仙谷家に来ようとしていたのを防いだのは私ですから』
「…………どういうこと?」
『和奏さんが瀬川杏子を解雇した後、助けを求めにわが家へ向かってきていたのです』
私が杏子に解雇を告げたあの日、杏子は突然姿を消した。
元々この家に杏子の荷物はほとんど無かったため、私はショックを受けた杏子が家から出ていったのだと思っていた。
「じゃあ、貴女が杏子を追い返したという認識で合っている?」
つまり、陽向に助けを求めに行った杏子は仙谷家にたどり着いたが、仙谷莉子に追い返され、この家に戻ることもできなくなったため、失踪。
きっとこの流れなのだろう。
『ううん、違いますよ? 瀬川杏子が到着する前に待ち伏せをして、捕獲したの』
「ほ、捕獲……?」
何を言っているのだろう。
もしかして、私をからかっているの?
でも、それなら杏子のことを知っている理由を説明することができない。
『そう。捕獲して、とある人たちに処理してもらいました』
「処理ってどういうこと……?」
『まぁ簡単に言うと、売ってもらったってことです』
「売ってもらった……」
『はは……わかんないですかぁ。男の人の役に立てることができるような道に行ってもらったっていうことですけど』
「貴女本気で言っているの?」
『え? 大マジですよ。だから、園池彩芽にも同じ道に行ってもらおうかなって考えてるんですけど、どうですか?』
かつてないほどの恐怖を覚えた。
電話越しの相手は悪魔の類だと。
彼女がどうして、どうやってその道の人たちと繋がったのかは知らないし、知る余地もない。
ここで断ってしまったら、私もそうなってしまうのだろうか。
それだけは嫌だ。
そして、そうならないためには、彼女の味方でいる必要がある。
味方を演じる必要が……。
「…………わかったわ。私は貴女に協力する」
『ありがとうございます。それでは、二人で頑張りましょう』
こうして私たちの仮協力関係が成立することとなった。
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