第26話 正面衝突
「センパイっ! 今週末、動物園にでもいきませんか?」
和奏と廊下を歩いている時、背後からそう声を掛けられた。
とはいえ、一緒に歩いているというよりは、いつも通り和奏がついて来ているだけなのだが。
そして、ほんの一瞬だけ険悪な表情を見せた和奏が、すぐさまいつもの他人用スマイルでその声に反応する。
「また園池さん? 貴女、最近やたらと話しかけてくるわね……陽向に」
「はいっ! ワタシは陽向センパイと一緒に行きたいので!」
このたった一掛け合いで、ただの学校の廊下が戦場と化していた。
しかも、俺を二人の女の子が奪い合っている状況。
少し前までの俺にこのことを伝えても、信用されず、質の悪い冗談だと思われてしまうだろう。
「陽向は私の物よ。貴女と陽向が二人で出かけるなんて私は許さない」
「陽向センパイは誰の物でもありませんよ? 今はまだ……ですけど」
「貴女ね…………!」
「おい二人とも落ち着けって」
なぜ俺のことなのに、俺が蚊帳の外になっているんだ。
ただ、興奮し白熱している二人には全く俺の声が聞こえていないようで、言葉の応酬が続くことに。
「三室戸センパイは陽向センパイの気持ちを考えたことがありますか? 自分がセンパイの横を独占していることによって、センパイにどんな影響を与えているか考えたことがありますか? センパイは本当に今が幸せな状況なんでしょうか?」
「そ、それはっ…………」
「三室戸センパイは自分勝手なんです」
「おい彩芽、何もそこまで言わなくても――――」
「センパイも悪いんですよ? 優しすぎるから、はっきりと物を言えないし、こうやって人をたらしてしまうんです」
いつの間にか周囲には人だかりができていて、「何が起きているのか」なんて声がたくさん聞こえてくる。
焦点が合っていない目でブツブツと何かを呟いている和奏に、一秒たりとも目を離そうとしない彩芽。
そして、彩芽が一歩、大きく俺に近づいてきた。
「…………センパイ。前にも言った通り、ワタシはセンパイのことが好きです。どうですか? ワタシをセンパイの彼女にしてもらえますか?」
刹那――ざわめきが格段と大きくなる。
ここではぐらかすのは許されない。
「念のために言っておきますけど、ワタシは三室戸センパイを蹴落とそうとしているわけではありません。これは全てセンパイのためですから」
俺の返答を待つかのように静まり返る廊下。
どう答えていいのか分からない。
俺と彩芽は知り合って間もないし、彩芽がなぜ俺を好いてくれているのか分からない。
だから、簡単に判断することができないのだ。
「一つ……聞いてもいいか?」
「なんでも聞いてください」
「彩芽はなんで俺のことを好きになってくれたんだ?」
「なんでって、そんなの…………」
あふれ出る何かを無理やり抑えるかのように、彩芽は口をきゅっと結ぶ。
俺から一秒たりとも逸らさない彼女の目は、「なんで覚えていないのか」と訴えかけてきているように思えた。
だが、俺の記憶にはそれっぽいものが本当にない。
「もしかして、本当に覚えていないんですか?」
「…………すまない」
申し訳ない気持ちでいっぱいだが、そう答えることしかできない。
俺の中には、もしかしたら、彩芽の人違いなのではないかという考えさえあった。
「貴女、もしかして人を間違えているんじゃないの?」
そんな俺の考えを読み取ったのか、違う世界に飛んでいたはずの和奏が会話に復帰してくる。
「いえ、そんなわけはありません」
「はぁ……?」
彩芽はそれさえも頑なに否定した。
そうして、こう続けたのだった。
「ワタシを助けてくれたのはセンパイなのに」
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