第25話 歴史を書き換える

 今日も今日とて俺は和奏と共に学校生活を送っていた。


 どこへ行くにもやはり和奏がいる。

 

 ちなみに、和奏からは昨日のことについて延々と詰められていた。


 

「昨日、なぜ私を置いて帰ったのかしら?」


「あーえっと……時代劇をどうしても見たかったから?」


「貴方、時代劇を見るような人ではないでしょう」


 

 ずっとこんな調子で、最後には「もし次やったら、部屋まで追いかけるから」というお言葉をいただいて終戦した。


 わざわざ「部屋」と言及してくるところに若干の恐怖を覚えたが、深く考えないことにした。


 言葉だけでは済まされない可能性が高すぎる。



 そして今、俺はトイレの個室にいる。


 昼休みが始まってすぐに俺史上最大の腹痛が発生したからだ。



 …………もちろんこれは嘘。


 トイレの入り口で犬のように待ってくれている和奏の対処法を考えるために、ここに籠っている。


 最悪の場合、彩芽に助けを求めに行くことも考えたが、一年生階での視線が痛いし、そもそも和奏の目をすり抜けてそこまでたどり着くことができない。


 これ詰みでは?


 

 横にいるときはまるで彼女、後ろにいるときはまるで秘書。


 和奏がこのスタンスでずっと傍にいることで、男友達と下世話な話をすることさえできない。


 それとなく和奏に伝えてみたものの、気づいていないふりをして受け流された。


 絶対にわかっているくせに、「何かしら?」の顔でずっと傍にいるのは性格が悪いとしか言えないだろう。



――――と、そんな時だった。


 軽やかにノックされる音が個室内に響く。


 最初はドアかなとも思ったが、どうやら違うらしい。


 困惑している間に加速していくノック音。


 そして、ようやく音の発信源が窓であると俺は気づいたのだった。


 

 一体誰の悪戯だろうか、なんて思いながら窓を開けると、金髪の頭頂が見える。



「センパイ、私です」


「彩芽⁉」


「しーっですよ? 大声を出したら三室戸センパイに勘づかれてしまいます」


「そうだったな…………いやちょっと待て。ここは三階だぞ」



 一階ならまだしも、小型巨人ではないと、この窓をノックすることはできないはずだ。


 それとも、この世界にも舞空術を使うことができる人がいるのか。


 

「あれ、センパイ知らないんですかー? 実は今日から校舎裏の壁の塗装直しが始まったんですよ」


「ということは、今立ってるのは作業用の足場ってことか?」


「はい。そうですよ」


「危ないから校舎の中に戻りなさい」


「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。これから私がセンパイを助けに行きますから」



 こいつは何を言っているんだ。


 まず、俺が困ってるのを知ってることがおかしいし、どうやって助けるのかも分からない。


 

「いいですか、センパイ? 二分後にトイレから出てきてくださいね?」


「…………わかった」



 ひとまず彩芽を信用してみよう。


 失敗したなら、その時にまた考えればいい。


 どっちみち、このままでは八方塞がりのままなのだから。



 そんなこんなで二分後。


 もうそろそろかと思い、トイレの透明な水を透明な水で流してから出る。


 念の為だ。



「遅かったわね。そんなにお腹が痛かったの――――」


「センパーイ。ここにいたんですねっ」



 和奏の心配の声を遮って聞こえてくるハツラツとした声。


 明るさの中に少し甘さが混ざっているような感じ……こいつ手練だな。


 最近の若者(俺もそうだけど)風に言えば、ぶりっ子ガチ勢だ。



「…………貴女は?」


「あ、初めましてー! ワタシは一年の園池 彩芽です!」



 彩芽は明らかに不機嫌チックな和奏にも臆することなく会話を続ける。



「ふーん。陽向とは知り合い?」


「もちろんですっ! ね、陽向センパイ?」


「あ、ああ。そうだな」


「……………………『陽向』呼びね」



 そして低い声でボソッとつぶやく和奏さん。


 これマズイ方向に突き進んでないか?

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