第7話 不死鳥の炎
~ side:カナン ~
ボクの叫んだイフリートの名前が、夜空の向こうへ木霊して、消えていった。
「ぷっ、はっはっはっ。こいつは受けるぜカナンちゃ~ん!」
「あ―っはっはっは。ダサいわねえ!」
バルナバの
「ノミエの魔法ってね、対象の体を麻痺させるのと一緒に、魔法行使も封じるのよ。今は
なるほどね。
「趣味が悪いよ」
「くっくっく。まあ女の子に俺の高尚な考えは理解できないか。なあに、女になれば本能からわかるようになるから、心配すんなって」
「……外道」
「はあ。カナンちゃんって、見掛け以上に
バルナバが魔剣を逆手に持つ。
「こいつは
ボクの右手を魔剣の先が貫いた。
「ぐぅっ、仲間に誘った女の子に、酷い事するね」
すっごく痛い。
「
ぐりっと魔剣が動き、痛みの強さが跳ね上がって、ボクの口から悲鳴が飛び出しそうになる。
けどそれを根性で噛み殺し、気力を振り絞って、自分の口の端を少し上げてやった。
―― こんな奴らに、悲鳴なんて上げてやらない。
―― お前らなんて大した事ないと、ボクは笑ってやる。
それに感じるんだ。
力強い、炎の脈動を。
「耐えるねぇ。カナンちゃんはまだ俺から逃げられると思ってるわけ? もしかして魔法を使えない状態でも、あの火の精霊を呼べたりしちゃう?」
「大丈夫よバルナバ。確かに魔法以外で精霊を呼び出す方法に、精霊に対応した媒体を使うっていうものがあるわ。けどそれは結構難しい技術で、カナンちゃんみたいな駆け出し魔法使いには、逆立ちしても無理なものよ」
「なるほどね、流石の博識ぶりだ。やっぱカミラは最高だな」
「ふふふ、ありがと。それにね、もう
冷たい風が吹く。
白い月を背に、自身の黒い影の中でカミラが笑う。
「さて、もういいでしょバルナバ。ボニートもさっさとこれを簀巻きにしなさいな」
「ああ、だな。ちょっと遊び過ぎた」
「ごす」
ボクの右手から無造作に魔剣が抜かれ、体に縄が巻かれていく。
「大丈夫よカナンちゃん。バルナバはテクニシャンだし、私もとっておきのお薬を使ってあげる。お肌がすっごく敏感になって、あそこの感度も振り切れるってやつ。五人くらい戻ってこれなくなった優れ物よ」
カミラが懐から出した瓶の蓋を開け、ボクの口元に近付けてくる。
それを振り払おうにも、ボクの両手は指一本動いてはくれない。
「さあ、終わりにしましょうねカナンちゃん」
「くっ。は、はは」
ボクの口から笑い声が零れた。
ああ、本当に……。
「あらあら、気でも触れたのかしら?」
「不死鳥みたいだ」
この場所から遠く離れた岩肌で眩い炎が爆発し、大きな赤い翼を広げた。
―― あそこは確か、王鷲の子供が落ちた場所だったかな。
「嘘っ、あれってまさか!?」
「速い、上だ!!」
羽ばたき音が空に響き、炎の輝きが空の闇を切り裂いていく。
無数の火の粉が吹雪のように吹き荒れてバルナバ達を吹き飛ばし、舞い降りてきた灼熱の温もりがボクを包み込んだ。
「くそがっ。どうなってんだカミラ!?」
「ありえないわ!! カナンちゃんは魔法を使ってないし、そもそもこの草原は私の氷風魔法の結界で包んでるのよ!? それでどうやってカナンちゃんの中から火の精霊が出るっていうのよ! いえ、仮に外に出たとしても、消滅するはずでしょ!?」
ふふ、残念だったね。
イフリートは単なる魔法じゃないし、火の精霊でもない。
―― 彼はボクの。
「ノミエっ、さっさと治療魔法を使え!カミラは氷風魔法であの化物を何とかしろ! ボニートはカナンを抑えろ!」
「は、はいっ」
「ええ、言われなくても!」
「ごす!」
『下衆野郎ども。よくもカナンを痛め付けてくれたな』
イフリートの右目に緑色の洸が灯り、その体から荒々しい炎が噴き上がる。
『これでも食らいやがれ』
イフリートの炎の
「ぎゃあああああああああああああ!!」
一瞬でバルナバ達を呑み込んだ炎は嵐のように荒れ狂い、その光で草原を真っ赤に染め上げる。
それを巨大な炎の鳥が翼を広げ、鋭い目で睨み付けている。
暴力的で
だけどボクにはこの光景が頼もしくて、とても嬉しかった。
『すまん。遅くなった』
「イフリート」
炎に身を任せる。
「ありがとう」
〈ボクの最高の魔法〉が笑い、雷鳴のような
『おう!!』
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