第6話
一時間ほど森を歩くと街が見えてきた。
平地にある大きな街だ。
テレビでよく見る西洋風の古い建物が建ち並んでいる。
人工物があるってだけで随分安心できた。
普段街の中で暮らしている俺が森でなんか過ごしたらすぐ喰われてたはずだ。
「あれが俺達の拠点、ギルドの街マーティアです」
フリードの説明を受けながら俺達はマーティアに入った。
街には活況があった。
人が多い。商店も多い。家も多い。
街には冒険者と思われる装備を持った連中が溢れていた。
「思ったより栄えてるんだな」
「この辺りでは一番の街なんですけどね。ショーはどこから来たんですか?」
「え? えっと……アマガーサキ……かな」
「聞いたことない街ですね。異国ですか? そう言えば服装も見慣れませんね」
「あはは……。う、うちの国ではこれが普通なんだけど……」
俺が着てるのはワークマンで買った安い作業服だった。
動きやすくてポケットもたくさんあって便利だ。
気に入ってるけどこの世界では浮きすぎる。
するとフリードは提案した。
「よかったら新しく服を買いませんか? レアリアント鉱石を売ればいいお金になりますし。いいよね?」
フリードが尋ねるとエレーナとカレンは渋々同意する。
「まあ、一着くらいならね」
「それくらいはいいかな」
二人の許可が出て、俺達は服屋に入り、そこらにあった安い服を選ぶと着替えて出てきた。
麻の長袖のシャツ。太めのズボン。革のベルトと袖の無いジャケット。そして革靴。
全部天然の素材なのか妙に着心地がよかった。
「なんか本当に異世界っぽいな」
「なんの話ですか?」
「いや、なんでもない」
俺は苦笑してからお礼を言った。
「ありがとうな。服まで買ってもらって」
「いえ。では中央ギルドに登録しに行きましょう」
エレーナは少し喜んでいた。
「これでようやく四人揃ったわね」
「四人だとなにかあるのか?」
「自分たちのギルドを作る為に必要な最低人数なの。私達は駆け出しだから中々仲間が集まらなくて困ってたのよ。これからは仕事を回してもらわなくても依頼人から直接依頼を受けることができるわ。手数料が少ない分、報酬もかなり上がるはずよ」
「へえ。働いても大本に取られるのか。なんか派遣みたいだな」
要は派遣社員からフリーランスになるって感じかな。いや、起業か。
俺は単なる数合わせってわけだ。
まあ、それでもこんな知り合いもいない世界で仲間に入れてくれるならありがたいけど。
俺達は中央ギルドとかいうところに向かった。
街の中心にあるらしく、商店が建ち並ぶ大通りを進んでいく。
すると途中で異様な光景が飛び込んできた。
金属製に檻の中になにかが並んでいる。
それは手足に重りを付けられた少女達だった。
「あ、あれは?」
「え? ああ。奴隷ですよ」
「ど、奴隷?」
聞き慣れない言葉に俺は驚いた。
「奴隷って……。じゃあ売り物なのか?」
「もちろん。高いですけどね。ほら。一人三百万ゴールドもします」
三百万……。
さっきの服が一式で一万二千ゴールドだった。
そこらで売ってる果物が百ゴールドだから、日本で言えば三百万円か……。
俺の年収より高い……。
「あ、あんなのいいのかよ?」
「獣人ですからね」
「獣人?」
俺はハッとした。
よく見ると女の子達は普通の人間じゃなかった。
頭の上に耳があったり、しっぽが生えていたりしている。牙が生えているのもいる。
「野生で暮らすモンスターですよ。人に似てますけど、人じゃありません」
「人じゃないって……」
そう言われても人にしか見えない。
まだ若い女の子だらけだ。
みんな虚ろな目でぼろぼろの布みたいな服を着せられている。
「か、買ってどうするんだ?」
「労働力として使うことがほとんどですかね。小間使いだったり、農園で働かせたり。まあ、たまに悪趣味な使い方をする人もいますけど」
「それって……」
俺の予想は当たってしまった。
檻の前に派手な服を着た太った男がニヤニヤしながら立っていた。
男は少女達を値踏みし、そして一人を指さした。
「あの子を貰おう」
商人は嬉しそうに手揉みする。
「毎度ありがとうございます。前の奴隷はどうでしたか?」
「よーく躾けておる。たまに反抗的なこともあるが、鞭で叩けば言うことを聞くようになった。夜もよく鳴くわ」
「さすがゲルド様」
ゲルドと呼ばれた男と商人は愉快そうに笑い合っていた。
白昼堂々こんなやりとりが許されるなんて。
複雑に思いながらも、この世界に来たばかりの俺にはどうすることもできなかった。
ふと、奴隷の一人と目が合った。
金髪でねこの耳をした女の子は暗い目で俺を見つめている。
助けてあげたかった。
だけど俺にそんな力はなく、顔を背けることしかできなかった。
フリードは奴隷を買ったゲルドに苦笑していた。
「あの人、為替で稼いでいるって有名なんですよね。アイテムには相場がありますから。それにしてもよくあんな大金ぽんと出せますね」
エレーナとカレンは眉をひそめた。
「獣人趣味なんて気味が悪いわ」
「変態じゃん」
フリードは苦笑した。
「あはは……。じゃあ行きますか」
「……うん」
俺は力なく頷くと歩き出した。
最後にちらりとあの子を見ると、呆然としながら空を見上げていた。
いたたまれない気持ちになりながら、俺はフリードのあとについていった。
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