第5話

 少し歩くと森を抜けて岩の壁にぶつかった。


 カレンは得意気に少し上を指さす。


「ほら。あれあれ」


 頭上付近にはキラキラと光る石が見えた。


 かなりのサイズだ。40インチのテレビくらいある。


 フリードは感心していた。


「すごい。あのサイズの原石は中々見つけられないな」


「でしょでしょ?」


「昨日の雨で崖が崩れたのかな。でもゴブリンの牙を回収しないと。トレントの枝も採っておきたいし」


「ええ~。それだとレアリアントを諦めないといけないじゃん。こんなのすぐ他のパーティーに見つけられちゃうよ」


「そうだけど、仕方ないよ」


 フリードがそう言うとカレンは寂しそうに俯いた。


 なんだか欲しいおもちゃを買って貰えなかった子供みたいでかわいそうだ。


 ミレーナも残念そうにする。


「このサイズを売れればかなりの額になったでしょうに。惜しいわね。この人じゃあのサイズは運べないだろうし」


 そんな目で見られてもな。それなりの重さなら自信があるけど、あのサイズの鉱石はハンドリフトでもないと絶対に無理だ。


「ご、ごめんね……」


 フリードがかぶりを振った。


「気にしないでください。それよりも早く用事を済ませて帰りましょう。またモンスターに襲われるかもしれませんし」


「それはイヤだな……。俺のスキルはハズレみたいだし……」


 またあんなの襲われたらひとたまりもない。


 この人達は自分を守る術があるんだろうけど、俺にはなにもないからな。


 するとフリードは驚いていた。


「スキル? スキルが使えるんですか?」


「え? いや、どうなんだろ? あるのはあるみたいだけど、どんなものか分からないし、さっきも使ってみたけど不発だったし」


「どういう意味ですか?」


「えっと、詳しくは俺にもよく分からなくて……」


 まさか異世界転生しましたとは言えず、俺が困っているとミレーナが疑った。


「本当にスキルなんて持ってるの? あるならステータスを見せてよ」


「あ。そうか。君達なら読めるかもしれないな。えっと……、す、ステータス……」


 人前で言うのはやっぱり恥ずかしいな……。


 でも前と同じく半透明な板は出てきた。相変わらず色々書いているみたいだけど俺には読めない。


 その板をミレーナが覗き込んだ。


「どれどれ……。攻撃力と防御力は最低レベルね。でも体力だけはすごく高いわ」


「え? そんなことまで分かるの? いや、それよりスキルはなんなんだ?」


「えっとスキルの欄は……。あったわ。あなたのスキルは『倉庫』ね」


 俺はぽかんとした。


「…………なにって?」


「倉庫」


「そーこ?」


「そう。物を入れるあれよ」


「え? じゃあビームとかは?」


「倉庫からビームが出るのを見たことあるの?」


「…………ない」


 ええ……。マジかよ……。


 異世界に転生しても俺は倉庫から離れられないのか……。


 いや、それよりスキルが倉庫ってなんだよ?


 ハズレにも程があるだろ。


 せっかく異世界に来たのに炎も水も出せないなんて……。


 愕然としているとカレンが近寄ってきて俺のステータスを読んだ。


「えっと、触れた物を運べる能力。わあ。ちょー便利じゃん」


「…………え? そうなの?」


「多分だけど」


 どっちだよ。


 カレンは崖の上で煌めく鉱石を指さした。


「あれで試してみてよ」


「どうやって?」


「スキルを使いたいって念じれば使えるよ。ちょっと疲れるけど」


「叫ばないでいいの?」


「そういう人もいるけど、普通はしない。ステータスも言わないでもでるし」


 なんだよ。それならそうと早く言ってくれよ。恥ずかしかっただろ。


 俺は崖に近づいていった。


 鉱石の目の前に来ると思ったよりでかかった。


 振り向くとフリード達は少し離れていた。


「……なんで離れるの?」


 フリードは岩の陰に身を隠した。


「スキルが暴発する可能性もありますから」


「ええ……」


「普通なら大丈夫です。やってみてください」


「…………信じるぞ?」


 俺は右手を伸ばし、鉱石に触れた。


 そして心の中でスキル発動と念じる。


 すると体が光り出し、その光は鉱石を包んだ。


 かと思えば目の前にあった鉱石が俺の右手に、正確に言えば右手の前にできた黒い空間に飲み込まれていく。


「うおっ。なんだこれ……、気持ちわる……」


 あっという間に鉱石は消え去り、目の前に大きな空間ができた。


 それを見てカレン達が喜ぶ。安心したのかこっちにやって来た。


「すごーい。本当に便利じゃん。出してみて」


「え? ああ。そうか。入れられたんだから出せるのか。えっと」


 鉱石よ出ろと俺は念じた。


 するとさっきの鉱石が再び現れ、地面にごろんと転がった。


「出た……」


 すげえ。本当にできた。


 ちょっぴり感動しているとフリードとミレーナは感心していた。


「珍しいスキルですね」


「へえ。結構便利そうじゃない」


 俺は苦笑して右手を眺めた。


「本当は戦えるやつがよかったんだけどな。にしてもまた倉庫か」


 ある意味俺らしい能力なのかもしれない。


 でもこれをどう利用すればいいんだ?


 悩みながらも俺は再び鉱石を右手にしまった。


 するとフリードとエレーナがどこか真剣そうに顔を見合わせる。


 フリードは俺に告げた。


「あの……。あ。そう言えば名前を伺ってませんでしたね」


「そうだっけ? 俺は寺板省吾。そうだな。ショーって呼んでくれ」


「ショー。君に頼みがあります」


「頼み?」


「ああ。僕らのパーティーに入ってくれませんか?」


 まさかの提案に俺は困惑した。


「え? でも俺の能力は……」


「あなたのスキルは優秀です。それに僕らはまだパーティーを組んだばかりで、人手不足なんです。一緒に戦う仲間を探していました」


「俺でいいのか?」


「はい。ね?」


 フリードはエレーナとカレンに尋ねた。


 二人は頷いた。


「まあ、使えそうだしね」


「そうだね」


 フリードは俺に笑いかけながら手を伸ばした。


「どうですか? 僕らと一緒に冒険しませんか?」


 冒険。


 その言葉は俺の心を揺さぶった。


 今までそんなことを言ってくれた人は一人もいなかった。


 こいつらとなら俺も新しい人生を歩めるかもしれない。


 第二の人生が。


 俺はフリードの手を握った。


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


 こうして俺はパーティーの一員となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る