last twinkling|ひかりがひかる★★★★★★★★



 聴こえる。


 思念が音となり、声は波となる。

 音の乗る波が四方八方へと広がる。

 ふたつとて同じもののない命の音楽だ。


 聴こえる。


 ゆきこが聴こえる。

 ゆきこの命の音楽だ。

 ゆきこは命の音楽に合わせて歌う。


(わたしは変ですか?わたしは変ではありません。わたしはわたしです。わたしはゆきこと言います。わたしは名前があります。名前があるものは個性です。わたしは個性です。個性はわたしだけということです。わたしはわたしだけです。わたしはほかの人にはなれません。わたしはわたしだからです。わたしはずっとわたしです。これまでもわたしです。わたしは生きています。これからもわたしは生きていきます。わたしはわたしとして生きていきます。わたしはわたし以外になりたいとはおもいません。それはわたしでないからです。わたしは変ですか?猫は変ですか?変な猫はいますか?虫は変ですか?変な虫はいますか?花は変ですか?変な花はありますか?花びらが欠けたら花ではありませんか?木は変ですか?傷ついた木は変ですか?枝が折れたら木ではありませんか?海は変ですか?青くなくては変ですか?空は変ですか?曇り空は変ですか?いいえ、変ではありません。どんなものも変ではありません。それなのに、どうして変と言いますか?変と思いますか?変にしますか?変ではいけませんか?いいえ、いけなくはありません。ちっともありません。わたしたちは、それぞれ、みんな変なのです。変を変にするのは自分以外です。だから、わたしはわたしを変だとおもいません。わたしは、ゆきこです)


 ゆきこが光の粒に包まれる。

 光の粒は揺れながら、形を不規則に変えながら、ゆきこを優しく包んでいく。光の粒はゆきこの細胞のなかへ潜り、傷という傷を癒してゆく。

 ゆきこの命が輝いている。





 わかなが聴こえる。

 わかなの命の音楽が鳴り響く。

 わかなは命の音楽に合わせて歌う。


(ママ、あたしのことみてよ!ちゃんとみてよ!あたし、ここだよ、ここにいるよ!あたし、ずっとママのこと待ってるんだよ?!『いいこ』してるんだよ?!いつ来てくれるの?!いつ迎えに来てくれる?!いつかっていつ?!あたし、もう、こどもじゃなくなっちゃうよ?!ねえ、ママ、ママ!あたし、さみしいよ、さみしいよ、さみしいんだよ、平気なわけないよ、ひとりはいやだよ、ひ、ひと、ひとりぼっちにしないでよ!!ママは、ずっと、わたしのこと見てくれなかった!ずっと気づいてた!わからないとでもおもった??あたし、ほんとは、わすれんぼーなんかじゃない、わすれんぼーのふりしてただけだよ、だって、ママ、その方がよかったでしょ??わすれんぼーのふりして、『いいこ』のふりしてた。でも、ママは来てくれなかった。ううん、来てくれたこともあったけど、あたしのことなんて見てなかった。ママが見てたのは、自分自身だよ。愛されたい自分。可哀想な自分。捨てられたくない自分。傷ついた自分。救われたい自分。でもね、ママ、そんなの誰もくれないんだよ。だって、ママが縋る男は、ママのこと見てないんだから、都合の良いものとしてか見てないんだから。ママ、そんなこともわからない??わからないわけないよね、だって、それ、求めてんだからっ!!あたしはママの身代わり人形じゃない、ママの都合の良い存在なんかじゃない!!知ってんだ、魔法なんてない。キュアップ・ラパパなんて嘘っぱち。天国のオムライスも、イチゴのパフェも嘘っぱち。なんでもない風に笑うための嘘っぱち。嘘っぱちは、もう要らない。あたしはもう、ママには期待しない。そう決めたんだ。ぜんぶ、ぜんぶ自分で持ってく、あたしの欲しかった全部。ママがくれなかった全部を。ううん、違う、一緒に持ってくれる人といく。教えてくれた人がいたんだ。あたしは、あたしをあたためてくれた人みたいに、誰かをあたためられる人になりたい。あたたかいおみそ汁を作れる人になりたい。つか、なるし。だから、バイバイする。あたしに縋るママとバイバイする。ママに縋るあたしとバイバイする。だから、ママ、あたし、バイバイ!バイバイ!バイバーーーーイ!!)


 わかなが光の粒に包まれる。

 光の粒は揺れながら、形を不規則に変えながら、わかなを優しく包んでいく。光の粒はわかなの細胞のなかへ潜り、傷という傷を癒してゆく。

 わかなの命を満たしゆく。





 なぎさが聴こえる。

 なぎさの命の音楽は勇ましく弾む。

 なぎさは命の音楽に合わせて歌う。


(やめて!嫌だ!来ないで!あっちいって!気持ち悪い、汚ない、来るな、来るな!助けて、助けて、だれか、助けて!ねえ、おかあさん!ねえ、気づいてるでしょ!ねえ、ねえってば!寝たふりするなよ!おまえらそれでも親かよ!わたしはあんたのおもちゃじゃない!わたしの身体はあんたなんかのものじゃない!おまえの欲望を満たすためのものじゃない!好きになんてさせない!絶対にさせない!あんたなんか嫌いだ、大嫌いだ!汚ないのはあんただ!許さない、絶対許さない!!スターなんかなくてもおもい通りになんかならない!わたしはLV.1だけど最強なんだ!わたしには四十億の細胞と百兆の仲間たちがいるんだ!ひかりさんがいる!ホームのみんながいる!わたしを守ってくれる人がいる!わたしは一人じゃない!!一緒に笑って、泣いて、怒って、悲しんで、たくさんたくさんたくさん繋がってんいるんだ!だから負けない、おまえみたいな卑怯者になんて負けるわけがない!!おまえなんか怖くない!おまえが入れるところなんてない!隙間もない!びくともしない!ぽこぽこ湧いた水がわたしをわたしをきれいにしてくれた。きれいだって教えてくれた。汚れてなんかいないって。どこにも汚れなんかないって!大事にされていいんだって。大切にしてもらえるんだって。わたしがもらえなかったものを、欲しかったものを、温もり、安らぎを、全部もらえるって。もらっていいんだって。わたしは愛されていいんだって。きっと、きっと愛されるって。信じていいって。そいういってくれた人がいる。信じたいとおもった人がいる。だから、わたしはわたしを信じる。信じることにした。もうしたんだ、信じてるんだ、信じられなかったわたしを、わたしは信じたい。きっと、できる。信じてやるんだ!それ、覚えとけ!!おまえなんかきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいだいっきらいだっっっ!!!!!)


 なぎさが光の粒に包まれる。

 光の粒は揺れながら、形を不規則に変えながら、なぎさを優しく包んでいく。光の粒はなぎさの細胞のなかへ潜り、傷という傷を癒してゆく。

 なぎさの命を清めてゆく。


 彼女たちのたましいを過去に留まらせていた呪縛が、

 は

  ら

    り、

       は

        ら

         り、

           は

            ら

              り、

                解ける。

 たましいは翼をひろげ、自由を確かめるように二度三度ゆらす。大地を蹴り、空へ飛び立ち、命が解き放たれる。





 命の音楽が聴こえる。

 言えなかった想い、言いたかった想い、言葉にできなかった想い、あるとも知らなかった想い、封じ込められていた想い、囚われていた想い、植え付けられた想い、どれもが大切な想い。失われた声、奪われた声、届かなかった声、かき消された声、封じられた声、どれもがかけがえのない声。すべてが、音楽であり、それぞれの宇宙で鳴っている。音楽は共鳴しあってより大きな音楽を響かせている。



 ひかりは感じた。

 わたしたちは宇宙にあふれる音楽だということを。わたしたちの命は生まれながらにして音楽だったことを。まだ、ちいさなたまごだったときから音楽を奏でていたことを。ちいさなたまごになる前から、それぞれの宇宙で、音楽を奏で続けていたことを。宇宙はさまざまな音楽を奏でるための舞台だということを。大きな大きな舞台。その舞台にあるすべての命が音楽だということを。わたしたちは、例外なく、そのひとつだということを。わたしたちの命は宇宙という舞台に鳴り響く大交響曲だということを。余計な音などない。ひとつもないのだ。



 ならば、わたしは、それを愛と呼ぼう。

 そして、わたしだけの愛を奏でよう。

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